第17話日常の切り取り。虹の様な日々

尊と交際関係になって初めての平日が訪れていた。

「詠とだったら遊んでもいいからね?ただ…一線は越えないでよ…?」

昨夜、家を後にしようとする尊が僕に対して言った言葉だった。

「越えるわけ無いじゃないですか。僕の恋人は尊さんだけですよ」

「そう…?詠にも私から言っておくから」

「はい…わかりました」

「じゃあまた明日。連絡するね」

「はい。おやすみなさい」

尊とマリネを家の前まで送り届けると僕はそのまま自宅へと戻っていくのであった。


そして目を覚ました今朝のこと。

尊が作り置きしていった食事をレンジで温めているとインターホンが鳴り響いた。

玄関まで向かい扉を開けるとそこには詠が立っている。

「おはよう。早いな」

そんな言葉で詠を歓迎すると軽く微笑んだ。

「おはよう。朝からお姉ちゃんが上機嫌だから…ちょっと居心地悪くて出てきちゃった…」

玄関の中に入ってくる詠は靴を脱ぐとそのままリビングへと向かった。

「上機嫌な理由はわかっているのか?」

「わかってるよ。成哉と付き合ったからでしょ?」

「聞いたのか?」

「うん。昨日の内にね」

「嬉しそうだったか?」

「それはもう…相当に喜んでいたよ」

「それなら良かった…」

軽く一息ついた所でレンジが温めを終える音を鳴らした。

「それで。朝食は食べられたのか?」

「うん。食べたよ。準備してすぐにこっち来た」

「そうか。社会復帰の方はどうなった?」

「順調に進んでる。貯金もまだあるし。焦るときじゃないよ」

それに何度か小刻みに頷くと朝食をテーブルの上に並べた。

「それもお姉ちゃんが作っていったの?」

「そうだな。昨日の間に作ってくれたよ」

「ガチじゃん…今までの恋人にそんなことしたこと無いよ?」

「そうなのか?それは光栄だな」

「本当だよ…お姉ちゃんを大切にしてよ?」

「言われなくてもわかってる」

他愛のない会話を繰り返すと僕はやっと朝食へと向かうのであった。


その日の詠はスマホで調べ物をするとそれをメモに取っていた。

リビングのソファで腰掛けながら作業を淡々と進めている。

僕は邪魔にならないように料理以外の家事を進めていた。

庭の手入れが少しだけ疎かになっていて玄関を出る。

庭の雑草などを毟っていると星宮家からマリネが顔を出した。

ゆっくりと歩いてくるマリネは僕を見つけると嬉しそうに鳴きながらこちらに向かってきた。

「おはよう。マリネちゃん。今日も元気だね」

マリネは僕のもとまでやってくるとしゃがんでいる僕の太ももあたりに顔を擦り付けると庭の縁側へと向かう。

マリネはそこにひょいと飛び乗って陽の当たる縁側で日向ぼっこをして過ごしていた。

何気ないただの日常が過ぎていこうとしている。


夕方が過ぎると尊が帰宅してきてそのまま僕の家にやってきた。

尊と詠と僕で三人揃って夕食を取ると何気ない日常がこんなにも幸せなのだと実感する。

僕にも再び家族ができたような錯覚を感じると何処か心が暖かくなるのであった。


これは僕の日常を切り取ったお話だ。

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