第15話最後の恋愛。最後の告白

ついに…尊が家に泊まりに来ることになってしまった。

正直、胸の高鳴りは激しいものであった。

だが邪な行為を期待してはならない。

僕らは付き合っているわけではない。

交際相手でもない女性とその様な関係に陥ってはならない。

それはきっと相手に誠実で無いといけないからだ。

それに僕の亡くなった家族も星宮の両親もそんなことを許してくれるとは思えない。

だから僕は本日…自分を律することに徹するのであった。



ビーチから家に戻ってきて一時間ほどが経過した辺りで尊は僕の家を訪れる。

「おまたせ…」

少しだけ色っぽい様子に変わった気がする尊を目にしてゴクリとつばを飲み込んだ。

「いえ。掃除していましたから…そんなに待ってないですよ」

そんな言葉を残して尊をリビングへと案内する。

「マリネ。良い子にしてた?」

尊の何気ない言葉にマリネは軽く喉を鳴らす。

「いつも通り良い子でしたよ」

代わりに僕が返事をするとマリネは嬉しそうに何処か誇らしげな表情を浮かべている。

「ホント?それなら良かったけど…」

尊はマリネの隣のソファに腰掛けると頭を撫でてあげていた。

「何しますか?」

別に何かを期待していたわけではないのだが、少しだけ意味深な言葉を口にすると尊は顔を赤くしていた。

「いや…違いますよ。ゲームでもしますか?夕食には時間が早いでしょ?」

言い訳をするように口を開くと尊は納得したように頷く。

「うん。じゃあ久しぶりにゲームでもしようか」

そうして僕らはそこから懐かしのシリーズ物の最新作をプレイするのであった。


ゲームをして過ごして二時間ほどが経過していた。

尊はコントローラーを置くと一息吐く。

「ちょっと休憩。なんか懐かしいね」

尊はそんな言葉を口にして微笑む。

「懐かしいですね。他人とゲームをするのは久しぶりです」

「そうだね。昔は一緒にやったよね?」

「え…?そうでしたっけ…?」

僕は明らかに尊と遊んでいた記憶がすっぽりと抜けている。

何故なら詠と遊んでいた記憶ばかりで尊がそこに居たかどうかは定かではないのだ。

「忘れてるんだ…」

「すみません…」

「いや、良いんだけどさ…ちょっと寂しかったな…」

「どれぐらい一緒に遊んでいましたか?」

「ん?詠についてきて何度か…」

「そうでしたか…ごめんなさい」

「でもまぁ…家に来ても殆ど秋ちゃんと遊んでいたから。忘れててもおかしくないね」

正直に覚えていないことを告げると尊は何かを告白するように引き続き口を開く。

「小学生の頃も中学高校の頃も詠を助けてくれていたんだよね?」

「どうでしょう。僕はただ傍にいただけです。何かを解決したような覚えはないですよ」

「うんん。その御蔭で詠は自分を傷つけることもなく元気に過ごせていたんだよ?凄く救われていたっていつか話していたんだ」

「そうなんですね…それならばよかったです」

「うん。何度も家族を救ってくれてありがとうね。その御蔭で私は…」

尊はそこまで口にして一度頭を振る。

「やっぱり何でも無い…」

一度言いかけた言葉を飲み込んで再びコントローラーを握ると尊は提案するように口を開いた。

「もしも…この対戦で私が負けたら…今の続きを口にするね」

そんな挑戦状の様な言葉を耳にして僕のやる気は俄然上がっていく。

勝負が始まって数分。

どうにか僕が勝利をすると尊は観念したような表情で口を開く。

その表情が何処か儚くも美しく映り僕の胸の高鳴りは異常だった。

「うん…じゃあこれは告白だけど…」

そんな前置きをされながら心の準備が整う前に尊は本当に告白をしてくる。

「私は永瀬くんが好き。誰にでも優しくて…私の家族を助けてくれて…でも私だけ特別扱いしてくれる…そんな永瀬くんが好きだよ…。他にも理由はあるんだけど…それを言う勇気はまだないんだ…」

尊の愛の告白に僕は何も言えずに一度つばを飲み込んだ。

けれどここで何か言わないと何もかもが終わってしまう。

そんなことを感じるとどうにか口を開いた。

「こんな僕を好きですか?僕は呪われているんです。きっと不幸になりますよ」

自分を否定すると尊は僕の手をギュッと両手で握ってそれを否定した。

「そんなこと無い。もしも本当に永瀬くんが呪われていたとしても…必ず私が救ってみせる。最期の時に必ず幸せだったって言わせてみせるから。そんなに卑下しないでよ」

「最期の時までって…」

それではまるでプロポーズのようではないか…。

そんなことを僕が脳内で感じていると尊は勢いに任せて口を開く。

「うん。これは愛の告白。私の最後の恋愛で最後の告白…私の愛を受け取ってくれますか?」

試すように伺うように僕のことを覗き込んだ尊に答えを口にしようとした所でマリネが嫉妬心剥き出しの表情で鳴いた。

「マリネ。うるさい。今良いところだから」

尊に注意を受けたマリネは何処か拗ねるような表情を浮かべてそっぽを向く。

「ダメかな?」

追随するように口を開く尊に僕は一度頷く。

「まずは恋人関係からで…良いですか?」

尊のプロポーズを受けるのは簡単だ。

けれど僕は不幸が続いている。

もしも尊にもその不幸が移ったら…。

そんなことを思うと簡単に大事な人と結ばれていいとは思えないのである。

僕は呪われている。

だから簡単に答えを出すことは出来ないのであった。


尊と恋人となり、始めての夜がやってきていた。

夕食を一緒に取り、他愛のない会話を繰り返した。

時折テレビを眺めて過ごしたり。

そんな時間が続いていくと二十二時を迎える。

「そろそろ寝ようかな…」

尊は眠そうな目を擦って伸びをした。

「じゃあ僕はソファで寝るので…」

そこまで口にするが尊は首を左右に振った。

「もう恋人なんだから。一緒に寝よ?」

積極的になっている尊は眠くて判断能力が鈍っているのかもしれない。

「良いんですかね…」

もう一度許可を取ろうとすると尊は僕の手を引いて立ち上がった。

そのまま僕の部屋まで歩かされると同じベッドへと潜っていくのであった。


次話予告。

始めての二人の夜…いいや、二人と一匹か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る