第11話復活した詠が家を訪れる。マリネはため息をついている…
詠が引きこもりを卒業した次の日のことである。
目を覚ますと尊からチャットが届いていた。
「おはよう。朝早くにごめんね。まだ寝ていたら既読だけ付けてもらえれば良いから。詠のこと頼むね。私がお節介なことを言わなくても永瀬くんなら面倒見てくれると思っているんだけどね…。詠が社会復帰できるように…いいや、違うね。何でも良いから好きなことさせてあげてほしいな。休日には私の相手もしてほしいけど…。それは置いておくとして…今日から妹を頼みます」
尊からのチャットに対して返事を考えているとインターホンが鳴り響いた。
二階から降りていくと玄関の扉を開ける。
「おはよう!まだ寝てたの?寝坊助じゃん」
活発な笑顔を浮かべる詠を見て彼女が復活したと感じる。
詠の腕に嫌々抱かれているマリネは僕に助けを求めるように静かにか細く鳴いた。
「何よ!マリネ!私じゃ嫌なの!?」
圧の強い詠の言葉にマリネは完全に嫌気が差しているようだった。
「マリネちゃん。おいで。寝起き姿で悪いけど…許してくれるかな?」
手を差し出すとマリネは詠の腕からするりと抜けて僕の胸に飛び込んでくる。
「おっと…危ないよ。そんなに詠が嫌だったの?」
微笑みかけて声を投げかけるとマリネはふてくされるような表情を浮かべていた。
「私の何が嫌なんだか…お姉ちゃんとそんなに変わらないのに…」
詠もふてくされるような言葉を口にするとそのまま玄関の中へと入ってくる。
「勝手に入るね〜」
今まで引きこもりだったとは思えないほど陽気な詠を見て僕の心は浄化されていく。
元の詠に戻ってくれて本当に良かったと心から思える。
「朝食は食べたのか?」
リビングへと向かう詠に対して声をかけるとマリネを抱きかかえながら後を追った。
「何言ってるの?今何時だと思ってる?」
詠はリビングに入ると時計を指差して苦笑する。
「えっと…もうすぐ十二時だね…」
「そうよ。朝はとっくに食べたわ」
「へぇ〜。両親も驚いてただろ?急に部屋から出てこられるようになって。元に戻って…」
「う〜ん。それよりも喜んでくれたよ。お姉ちゃんが昨夜の間に両親に事情を話したみたいで…そうだ。両親が成哉に会いたがっているよ。いつなら空いてるか聞いてくれって言われていたんだ。この様子ならいつも暇でしょ?」
「暇だけど…何で会いたがっているのかな?僕はなにかしてしまったのか…?」
「違うでしょ。あの様子だと感謝を伝えたがっている感じだったし」
「そうか。別に感謝されるようなことはしていないんだが…」
「良いから。今日とかどう?夜にでも家においでよ。夕食を一緒しよ?」
「あぁ。でも皆、今日は仕事だろ?疲れて帰ってくるんじゃないか?」
「金曜日だから良いでしょ」
「そういうものかな…」
「それに。きっとお姉ちゃんも喜ぶよ」
「何で?」
「………。何でも無い」
そこで会話が途切れると詠はリビングのソファに腰掛けた。
それを見ていたマリネはナァ〜と不満そうに鳴く。
「あぁ。そうだね。詠。悪いんだけど、そっちのソファに行ってくれ」
「何でよ…」
「そこはマリネちゃんの定位置なんだ」
「なにそれ。またマリネだよ…なんでそんなに成哉に懐いているの?」
「それは…話すと長くなるんだが…」
そうして僕はあの台風の夜のことを言って聞かせる。
翌日に家を訪れた尊と仲良くなりマリネとも心が通じたことを話す。
「ふぅ〜ん。私が引きこもっている間にそんなことがあったのね…それはお姉ちゃんも嬉しかったと思うな」
「さっきから何でちょくちょく尊さんの話をするんだ?」
「知らないなら良いよ。お姉ちゃんが自分で話したら…きっと分かるから」
「そうか。それまでは知らなくても良いことなんだな?」
「もちろん。何も問題ないよ」
そんな他愛のない会話を繰り返すと先日、尊が作り置きしてくれた食事を温めていた。
「詠も食べるだろ?」
「ん?成哉が作った料理なの?」
「違うよ。尊さんが作り置きしてくれた」
「へぇ〜。積極的に動いているんだね…。悪いから私は頂かないよ」
「でも。もう昼だし…何か食べたほうが良くないか?」
「じゃあコンビニ行ってくる。リハビリがてら少しだけ社会に触れてくるよ」
「一人で大丈夫か?」
「なに?過保護なこと言わないでよ。私は大丈夫。こんなの頑張るうちにも入らないから。楽勝だよ」
そう言うと詠は家を出ていき歩いてコンビニへと向かう。
尊の作り置きしてくれた料理を温めて昼飯の用意が整った頃、詠は再び戻ってくる。
「ただいま〜。やっぱり楽勝だったね」
無理をしているわけでもなく本心からそんな言葉を口にしているのが理解できる。
コンビニ袋を机の上に置いた詠はそのまま中身をテーブルの上に広げる。
「じゃあお昼休みにしよ〜。いただきます」
「いただきます」
お互いに挨拶を交わすとそのまま昼食と相成った。
昼食を終えて片付けをしていると詠は徐ろに口を開く。
「なにかすること無い?」
「え?何かって何?」
「手伝いすること無いの?」
「いや…特には…」
歯切れの悪い言葉を口にすると詠は部屋中を探索しだした。
そして再びリビングに戻ってきた詠はハッと何かに気付いたのか唐突に口を開く。
「部屋の整理してくるよ。キレイにしてあるけど荷物が多いみたいだから…」
「あぁ〜。半分ぐらい遺品もまだあるんだよね…そろそろ整理しないとな」
「そうなんだ…私が仮で整理するから。それを見て大事な物だけ取っておくのはどうかな?」
「面倒じゃないか?」
「全然。どれだけ助けられていると思っているのよ。これぐらい全然大したことじゃないんだから」
「ありがとう。じゃあ頼むよ」
そうして少し食休みをしている間に詠は荷物の整理を始めた。
僕は家事を進めており風呂掃除や水回りの掃除をして時間を過ごしていた。
ニ時間程が経過した所で詠はダンボールをいくつか持ってリビングにやってくる。
「こっちがいると思われるもの。こっちはいらないと思われるもの。仕分けしておいたから。後で見て頂戴」
「助かる。ありがとう」
「掃除は終わったの?」
「あぁ。今日の分はもう終わりだな」
「分かった。じゃあ少しゆっくりしてから家に来なよ」
「あぁ。そうだったな…」
そこから夕方になる頃まで僕と詠は自宅でゆっくりと過ごしていくのであった。
次話予告。
夕食を食べに星宮家に…。
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