第8話デートの予定は当日にも決まることはある
お家デートの翌日のこと。
午前中に目を覚ました僕は身支度を整えて正午になる頃に家を出る。
星宮家のインターホンを押すと尊が対応した。
「入っちゃって」
尊に案内されて久しぶりに星宮家の中に入ると二階へと向かった。
「私がいると話しづらいでしょ?下にいるからね」
尊は詠の部屋の前まで案内するとそのまま階下に降りていく。
詠の部屋の扉にノックをするが返事は当然のようにない。
「詠〜。成哉だけど。起きてるか?」
それでも尊に言われていた通り返事は一向に無い。
「詠は知っているかどうかわからないけど。僕の家族は皆、交通事故で亡くなったんだ。本当に文字通り天涯孤独になってしまってね。詠の事情は知らないけれど。僕の話を少しだけ聞いてもらってもいいかな?」
ガタッと机に膝をぶつけたような音が聞こえてきて詠が起きていることを理解する。
「起きているみたいだから。このまま話すね」
了承を得た訳では無いが勝手に話を進めていくことを決める。
「ある日、家族で旅行を計画してたんだ。父親が定年になるってことでお祝いっていうか今までの労いを兼ねてね。それで当日のことなんだけど。僕は緊急で仕事が入っちゃってね。旅行に行けないことが確定してしまったんだ。家族は僕が行けないのであれば保留にしようって言ってくれたんだけど。僕が行ってきて良いって行かせてしまったんだよね。車で遠出して大通りを曲がった時…信号無視をした車と衝突して…皆亡くなってしまったんだ。その運転手は未成年で無免許運転だった。それに加えて飲酒に薬物使用中でトリップしていたんだ。何もかもが許せないことだったんだけど。復讐も考えた。でも家族はそんなこと望んでいない気がしたんだ。それに元を辿れば僕に仕事が緊急で入ったのも神様からの警告だったのかもしれない。旅行に行ったら不幸が起きるって。それを事前に知らされていたのに僕は家族を旅行に行かせてしまった。警告を無視した僕にもきっと責任がある。神様からの警告を無視してしまった僕も犯人と同じぐらい悪いんじゃないかって自分を呪った。だから犯人だけを責めることは出来ないって…そう割り切ったんだ。それでも…今でも…何もかもを…世界すらも呪ってしまいたくなる日はあるんだ。神様は家族を元の姿には戻してくれない。事前に警告をくれたのであれば…それぐらいしてくれてもいいのにね…。僕の選択が責められているようで…酷く怖かった。殆ど家から出られない日が続いて…でもある日、お腹が空いて部屋を出たんだ。でも食材は殆ど駄目になってしまっていてね。だからしょうがないって家を出たんだ。そうしたら太陽も他人の目も敵のように映った。世界中が敵に回ったようなそんな妄想をした。このままじゃダメだって思ったから身なりを整えて買い物ぐらいは毎日するようになったんだ。そうしたら…どうにか引きこもり状態が半引きこもりぐらいにはなれたんだ。それに詠のお姉さんにマリネちゃんのおかげもあって僕は心の支えのような物を授かったんだ。だから今度は僕が返す番だって思うんだ。詠も家族に言い難い何かがあったんだと思うよ。もしも僕にだったら話せるって思ったら連絡欲しいな。昔と連絡先が変わっているから隙間から入れておくね」
連絡先を記入したメモ用紙を部屋の扉の隙間から入れると別れの言葉を口にした。
「説教しに来たわけじゃないからね。勘違いしないで。その時が来たら…誰だって動けるようになるんだ。僕がそうだったようにね。それに誰かは見てくれている。必ず救いの手は差し出されるよ。大丈夫。僕も詠を救いたいってお節介にも思っている一人だからね。じゃあまた来るから。バイバイ」
それだけ言い残して部屋の前を後にしようとするとガタガタっと何かしらの物音が聞こえてくる。
だが部屋から詠が出てくるようなことは無かった。
階下に降りていき尊に挨拶をする。
「駄目だったかもしれないです。力になれなくて申し訳ないです」
頭を下げる僕のもとにマリネはトコトコと歩いてやってくる。
顔を足元に擦り付けて慰めるようにキレイな声で鳴いたマリネに苦笑すると尊も一つ頷く。
「気にしないで。力になっているよ。って言っているんじゃないかな?私も同意見だよ」
「はは。ありがとうございます。明日から仕事なんですよね?じゃあ今日はゆっくりしてください」
「うん。マリネの予防接種でペットショップに行ってくるんだ。良かったら一緒にどう?なんてね…」
ジョークを口にするようにして最後の言葉を照れくさそうにして言った尊がやけに愛おしく映る。
マリネもその気になっているようで激しくナァ〜と鳴き出した。
「マリネもその気になっているし…本当にどう?」
「良いんですか?」
「もちろん。昨日のデートの続きだね」
美しい微笑みを僕に向ける尊に照れくさそうに微笑むと本日もデートと相成るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。