第4話星を観に行こう
「ペット可の喫茶店って初めて入りました」
内装を眺めながら至るところに各家庭のペットが存在しており感嘆のため息を吐いた。
「ペット飼ってこなかったんだから当然だよ。私も初めて来たのはマリネを家に迎えてからだし」
「永瀬家がペット飼ってこなかったこと知ってるんですか?」
「えっと…まぁ…お隣さんだし…」
星宮尊は少しだけ気まずそうな表情を浮かべると苦しいような言い訳を口にする。
「それもそうですね。お隣さんですもんね…」
そんな相槌を口にしたのだが、僕はつい先日まで星宮家に猫がいるなんて知らなかった。
お隣さんだとしても家の中のことなど知る由もない。
それこそ中に入ったことが無いと…。
「違うよ?何か盛大な勘違いしてない?秋ちゃんに聞いてたんだよ」
秋ちゃんというのは僕の姉のことである。
うろ覚えの記憶の中では秋と星宮尊は同級生で同じ部活動に励んでいたはずだ。
仲の良い幼馴染だった。
そんな記憶が薄っすらと存在していた。
「何だ。姉に聞いてたんですね…」
久しぶりに他人から姉の名前を耳にして僕は何とも言えない表情を浮かべてしまう。
「ごめん。嫌なこと思い出しちゃったかな…」
「仕方ないですよ。家族のことを思い出さない日は無いですから」
「そうだよね。悲惨な事故だったもんね…」
「えぇ。ですが事故ですから。誰のことも責められないですよ」
「そんな…!相手は…!」
星宮尊はそれ以上の言葉を口にしようとして僕は首を左右に振る。
「それ以上は言わないでください。僕もどうにか相手を許そうと怒りを静めているんです。掘り返さないでいただけたら嬉しいです」
冷静に応えると注文していた軽食と飲み物が運ばれてくる。
マリネにも豪華な食事が運ばれる。
全員の食事が揃った所で僕は無理矢理にも笑顔を繕った。
「今を楽しんだら良いじゃないですか。まずは美味しいものを食べましょう」
明らかに無理をしていることはバレている。
けれど星宮尊も同じ様に無理をして笑顔を繕うと僕らの食事は始まるのであった。
食事を終えた僕らは会計を済ませると駐車場に戻っていく。
「ちょっと離れた場所に行くけど…良いかな?」
運転席に乗り込んだ星宮尊は僕に問いかけてくる。
それに頷いて応えると彼女はエンジンを掛けて車を発進させる。
そのまま高速道路に乗り込んだ車はズンズンと先へと進んでいく。
夕方が過ぎて夜の帳が降りる頃に高速道路を降りた車はそのまま山の方へと向かった。
「星を観に行くんでしたっけ?」
車内で世間話は続いていたが取り立てて特別な会話はなかった。
姉のことが引っかかっているのかお互いが少しだけ気まずそうな表情を崩せずにいた。
仕方がないことなのだが、僕らは兄弟のことも両親のことも忘れることは出来ないでいた。
「そうだよ。星に願ったら何でも叶いそうじゃない?」
急にメルヘンな言葉を口にする星宮尊に僕は軽く苦笑する。
「キャラじゃないですよ」
「キャラって…私だってそういう空想に浸りたい時はあるよ」
「確かに…人間ですからね」
そんな相槌をした所で車は山頂近くの駐車場に到着する。
車を上手にバックで停めた星宮尊は車を降りると僕を誘うように登頂していく。
山頂の広場には多くのカップルが存在しており少しの気まずさを覚えた。
光り輝く星星を眺めて僕らはお互いにそれに何かを願った。
叶わない願いでも叶うかもしれない願いでも僕らを受け止めてくれる星星に感謝の思いを抱く。
数十分だったか一時間だったか…。
それぐらいの時間をその場で過ごすと星宮尊は僕の服の袖を掴んだ。
星宮尊の腕に抱かれているマリネは目を輝かせており、それがやけに神秘的に映る。
目があったマリネは僕の全てを受け入れるように軽く鳴いた。
それで何かが変わるわけではないのだが。
何処か救われたような不思議な気持ちになる。
「そろそろ帰る?」
星宮尊の提案に従って僕らは再び車内へと戻っていく。
助手席に座った僕の膝にマリネは定位置とでも言うように当然な表情で丸くなる。
膝の辺りを温めてくれるマリネの存在が何処か心地よくて彼女を軽く撫でてあげる。
人差し指をザラザラとした舌で舐めるマリネを可愛らしく思うと少しずつ眠気のようなものが襲ってくる。
「ゆっくり寝てていいよ。近くなったら起こすから」
「はい…じゃあ失礼します…」
そのまま僕とマリネは帰宅するまで眠りこけているのであった。
目を開けると家の近所でハッとする。
「ごめんなさい。最後まで寝てました…」
「うんん。良いの。リフレッシュできた?」
「はい。とてもキレイな景色を堪能して…不思議な気持ちになりました」
「そう。また誘ってもいいかな?マリネも会いたがると思うし…」
「はい。是非」
星宮家のガレージに車が停車すると僕らはその場で別れることになる。
ナァ〜とマリネが鳴いて光り輝く瞳をこちらに向けていた。
まだ何か甘えているような声に思えて僕は苦笑する。
「今日はもうだめ。また今度だよ」
星宮尊はマリネを嗜めると僕に手を振って帰宅していく。
同じ様に帰宅した僕は風呂に入るとすぐにベッドに潜り込むのであった。
翌日のこと。
インターホンが鳴り響いて目を覚ますと玄関へと向かう。
外玄関に立っていた久しぶりの相手に僕は息を呑むのであった。
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