第3話ペット可の喫茶店が初デート

身支度を整えている間、星宮尊とマリネはリビングのソファで寛いでいた。

「何か飲みますか?マリネちゃんも何かいりますかね?」

準備を整えながら久しぶりの客人に対応していると星宮尊は苦笑する。

「お構いなく。これ以上、なにかしてもらったら…恩を返しきれないよ」

苦笑の表情を浮かべる星宮尊に僕は何とも言えない表情を浮かべた。

「恩だなんて。そんなもの一つもないですよ」

正直な気持ちを言って準備を再開していると星宮尊は小さな声で何かを呟いた。

「マリネを助けてもらった件だけが恩じゃないんだけどね…」

その言葉はあまり聞き取れなかった為、僕は返事をせずに準備に向かうのであった。


支度が整うとリビングでテレビを眺めていた星宮尊とマリネに向き合った。

「どこ行きますか?」

「準備できた?」

「はい。もう行けます」

「じゃあ行こうか」

そのまま外に出るとお隣の星宮家の庭に向かう。

ガレージに停まっている車のロックを解除した星宮尊は僕に助手席に乗るように指示した。

「マリネも助手席が良いって」

「じゃあ僕は後ろに…」

そう言いかけた所でマリネがナァ〜と一鳴きして僕の目を見つめていた。

「永瀬くんの膝に乗りたいんだと思うよ」

「そうですか…では失礼します」

助手席に乗り込むとマリネはすぐに僕の膝に乗ってきて丸くなった。

「本当に永瀬くんに懐いているね。助けてもらった恩をしっかりと感じているんじゃない?動物は優しい人が分かるみたいだよ?人間もそうだけどね…」

「光栄です。マリネちゃんに懐いてもらえて」

「滅多に他人に懐かないんだよ。私の友達が家に遊びに来ても絶対に触らせようとしないし。高嶺の花を気取っているタイプの猫なんだ。家族でもちゃんと懐いているのは私だけだし。家族や友達が優しくないって言いたいわけじゃないけど。殆どの人に懐かないから…珍しいことが起きているんだよ」

星宮尊はその様な言葉を口にしながら流れるような手付きでエンジンを掛けて車を発進させた。

ナビを設定するわけでもなく車が走り出したため、きっと無目的にドライブをするのだろうと予想された。

助手席で借りてきた猫のように静かにしていると運転中の星宮尊はクスっと笑って口を開いた。

「もっと楽にしてて。私に気を使う必要なんて無いよ」

「そう言われましても…」

「なに?」

「近所で噂の美女である星宮さんとドライブしているんだと思うと…緊張してしまって…」

正直な想いを口にすると星宮尊は思わず吹き出すように笑う。

「私なんかに緊張してくれるの?永瀬くんが?」

何がおかしいのかその後も星宮尊は大げさに笑っていた。

「何もおかしくないですよ。当然な話です。星宮さんと同等なランクだと思えるほど僕は驕り高ぶっていませんよ」

「ランクって何?同じ人間にそんなもの存在しないでしょ?そんなの幻想だよ」

「そうですかね…」

「そうそう。釣り合うとか釣り合わないとか。同じ人間にそんな言葉は存在しないと思うけど?」

「それなら…そう信じたいですね…」

苦笑いしながら応えると星宮尊は街の方へと車を走らせていた。

何処に向かうのかと問いかけようとしたところ。

星宮尊は徐ろに口を開いた。

「夜も予定ない?」

「無いですよ。今の僕に関わろうとする人は殆どいないので…友達にも疫病神のように思われてしますし…」

「そんな卑下しないでよ。私はもっと関わりたいよ」

「そうですか…本当に嬉しいです…」

「当然だよ」

星宮尊は意味深な言葉を口にすると街のショッピングモールの駐車場に車を停めた。

「夜は星を観に行きたくて。それまでここでデートしよ?ペットも入れる喫茶店があるんだ。そこで過ごさない?」

「はい。マリネちゃんもそれで良いのなら…是非」

マリネはそこで再び一鳴きするので了承の返事だと理解する。

そうして僕らの初デートはショッピングモールに存在するペット可の喫茶店で過ごすことから始まろうとしていた。

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