第3話■ 桃姫は攫われるのが仕事。


 私は翌日から、じぃじに頼んで時間をとってもらい、勉強教えてもらったり、母さんの家事手伝いをしたりした。


「おう、リア。なんだか久しぶりだな」

 じぃじがヨシヨシ、と頭を撫でてくれた。

「うん、よろしくね」

「学校はどこまでやったんだ?」

「えっとねー」

じぃじが一番喋りやすいな。


 じぃじは、髪色以外は見た目が本当に父さんとそっくり。親子でもこんなに似るものなのかって思う。

私も母さんそっくりだし、うちの家系って似やすいのかな……。


 そんな時、リーンリーンと、ベルが響いた。

「ん?来客か?会社のほうじゃなくてこっちにくるなんて珍しいな」

「あれ、なんか玄関が騒がしくない?」

「ん~……プラムが絡まれてるぞ……ちょっと、行ってくる」


 じぃじが鏡に玄関の映像を映す。そういう仕掛けがしてある。

見ると、母さんが、うちの学院の制服を着た男子生徒に絡まれている。

これ私と間違えてるね……。


 玄関に着くと……

「よく見なさいよ! 私はアラサーのおばさんよ!? あんたの目は節穴なの!? だいたい背丈違うでしょ!? さすがに12歳の娘と間違われるなんて、娘も私もショックよ!?」

母さん……!! 自分でアラサーって言ってる(哀)!!


「え!? いやだって、おまえリアだろ!!」

「私は母親だって言ってるでしょ!!」

「嘘つけ、お前がリアじゃなかったら誰がリアなんだよ!」


 じぃじが割って入る。

「こら!坊主。いい加減にしろ! そいつはプラムって名前でリアじゃない!!」


「わーん! おとうさーん!!」

母さんがじぃじの後ろに隠れる。


 アラサーが取る態度ではないけれど今はそれを考えている場合ではないね…。

そして私も後ろに隠れていたから、ちょうどじぃじを挟んで同じ顔が左右対称にひょこっと顔だす形になった。


「リアが二人!?」

「こいつ……話を全然聞かねえな」

「おばさんちょっと困る」

母さん、お願いだから自分のことおばさんなんて言わないで……(哀)


「リアは私だけど、あなた誰?」

「隣の席のダニエルだよ!!」

 えーっと……。学校時代の記憶を思い起こす。

記憶の中の映像を見ると…ああ、いた。


「こんにちは、何の用ですか?」

「な、なんで学院辞めたんだよ!!」


「あー…」

「あー…そういう」

 じぃじと母さんが息が揃ったように似たような感想を漏らす。

何? その、もうどういう事かわかっちゃった、みたいな!


私はダニエルに返答した。

「合わなかったから、それだけ」

「お前の親はそれでいいの!?」

「親ですが、OKしました」

じぃじを挟んで私とシンメトリーしてる母さんが横から口を出した。


「顔が!同じでややこしい!!」


 じぃじが耳を小指でほじほじして退屈そうな顔で、フッと飛ばした。

「坊主、いい加減にしろ。どこの坊っちゃんだか知らないが、礼儀知らなさすぎだろ。カエレ」

「オレはブルボンス家の嫡男だぞ!! ダニエル=ブルボンス!!」


 ビキ!!

 母さんとじぃじの顔が固まる。


「カエレーーーーーー!!!」

「カエレ!!」

 二人が一斉にカエレコールした。


「ブルボンスだと!?」

 そしていきなりギンコがドアをバーンとして入ってきた!

ギンコの顔が怖い! ギンコ、耳が良いからこの騒音レベルだと少し遠くにいても聞こえたのね…。


「うるさいうるさいうるさい!! 男爵家ごときが公爵家に逆らうな!!! リア!! オレと婚約しろ!!! してください!!」

「はい!?」

どうして!? そして文法が狂ってますよ!


「リアはお前とは婚約しない。大人しく帰路につくといい」

ギンコが私の前に立つ。……ちょっとうれしい。


「何だよお前! 関係ないだろ!」

「私とて――リアの保護者の一人だ。おまえのような礼儀もなってない人間をリアに近づける訳にはいかない。」

……。

保護者っていうのが、まあそうだよねって感じなんだけど……それでもここまできて助けてくれるのが嬉しい。


「リア、ずっと、言いたかったんだ。 話しかけたかったんだけど、お前の家とオレの家が仲が悪いの知ってたから!! でもそのうち必ず言おうと思ってたんだ!! オレと婚約して欲しいんだよ!!」


「ごめんなさい」

「即答!?」

「お友だちからでも」

「ごめんなさい」


 どうして、婚約できると思ってるんだろう、とかって話題もふっかけられるけど、ややこしくなるだけだ。とにかくごめんなさいとだけ伝える。


「……ブルボンス公爵令息。悪いが、婚約となると家同士の話し合いが必要だ。そしてお前の家とヒースは話し合う余地がない。リアもお前に気持ちがない。

これはヒース男爵として断りを申し上げる。あきらめて帰ってくれ」

じぃじが真面目な顔をして、低い声で言った。


「……あんたが領主だったのか」

 ダニエルがじぃじの服装を見て言った。

 じぃじはそろそろ肌寒い季節なのに、半袖一枚に、作業用ズボンだ。

 良いところのお坊ちゃんからしたら、使用人にしか見えないかもね。


「思い切りカジュアルで申し訳有りませんね。スーツとか冠婚葬祭以外着ないもので。……さっき、お前自身が言っていたが、ブルボンスとヒースの間に昔なにがあったか知ってるんだろ」


  じぃじが、母さんの肩を抱く。

「こいつが、お前の叔母さんのココリーネが攫ったオレの娘だ。

そういえば、ブルボンスからは謝罪の一つも貰っていない。

そんな所へ、オレの大事な孫娘をやるわけにはいかん。

更に言うとお前。リアとプラムの見分けもつかなかっただろ。お前の気持ち自体も信用ならん。

……もし、悶着を起こすようなら――我が家は男爵家だが、リーブス公爵家と懇意にしている。言っておくが、リアに関してもリーブス公爵の姪っ子になる。リーブスまで敵に回したいか?」

「あ……、いや、それは……」


リーブスの名前を出した途端、ダニエルは黙った。

そして、その後すごすごと帰っていった。


「ふぅ……」

「ふぅ……」

 じぃじと母さん、息が合ってるな……。

 長年のコンビ感を感じる。


「……そうかぁ。そろそろこういう悶着が起きる年齡になったんだね。リア」

「いや、久しぶりに出たな。ああいうやつ……。じいちゃん、久しぶりでドキドキしちゃったぞ」

 そんな風には見えなかったけど。


「ありがとう、じぃじ」

 じぃじは、優しい笑顔で頭を撫でてくれた。

「ブラウニーがいなくてよかったよ……」


 それは同意できる。顔が怖いどころじゃすまなかったと思う。


「リア、大丈夫か?」

 ギンコに声をかけられた。ちょっとドキ、とする。


「だ、大丈夫。ギンコもありがとう」

 お礼を言うと、優しい笑顔が返ってくる。ドキドキしながらも、心が温かくなった。


 じぃじはその後、リーブス公爵家に頼んでブルボンス公爵家に抗議を入れてもらったらしい。

 リンデン叔父様の話によると、ブルボンス家でダニエルは散々叱責を受け、速攻でどこかの令嬢と婚約させられたらしい。


※※※


 私はその後、段々とじぃじとギンコと再び打ち解けて、ダンジョンに一緒に行くようになった。

ギンコへの思いは届かないものだけど、ただ傍にいられるだけで嬉しいものだな、と思った。


 父さんの会社にも顔を出して、仕事をするようにもなった。

 父さんが考慮してくれて、じぃじの部屋に私のデスクを用意してくれた。

 図書館も着工が始まった。出来上がるのがとても楽しみだ。そして仕事がとても楽しくて、むかしの自分を取り戻していった。


 そんなある日、私は画材屋へ行った。スケッチブックがなくなったのだ。


 画材屋は楽しい。

 色鉛筆に絵の具。並んでいるものがカラフルで、どの画材も素敵に見えてしまう。

 買い物を済ませて、噴水のある公園でベンチに座る。

 鳩がいる。

 私は鳩のクロッキーを始めた――が。


「よぉ、久しぶりだな」

 肩に手を置かれた。振り返ると、ふんわりした金髪の男性が立っていた。

「……リンネ、さん」


 私はバカ正直にも微妙そうな顔色が表情に出てしまった。


「なに? その顔。……さてはプラムから俺のこと何か聞いたか?」

 今日は、その背後に薄紫の髪の人が立っている。

ライラック元殿下だ……。

一緒にいるの、初めて見た。


「甥っ子が迷惑をかけたみたいだな」

「えっと、もうお話はできません。ごめんなさい」

 私は話が始まる前に切り上げた。


 嫌な予感がする。母さんが『特別な夢』を見たのだから、余計に。


 私は立ち上がって距離を取る。

 人目がある。ここは大丈夫だ。

 だけど、もっと人目があるところへ行こう。


「失礼します」

「そうか、じゃあな」

 歩きながら、じぃじの『報』を取り出して、飛ばした。

 特別な『報』だったのか、空に投げるとあっというまに空の彼方へ飛んでいった。


 うしろから声がする。

「なあ、アルメリア。――人が攫われる時っていうのは、ほんの一瞬なんだぜ」


 足元に黒い影が広がって、引きずりこまれる。

「……っ」

私は魔力変質を使って、その穴を塞いだ。

「誰か!警備隊を呼ん――」

闇魔法の手が伸びてきて、口を塞がれる。


「おうおう、こんな状況でとっさの行動とれるとはな。さっきの紙飛行機も、ヒースに連絡したな? おい、ライラック」

「……リンネ、僕は」

「やって……くれないのか?」

「……」


 ライラック殿下の身体が薄く紫に光ると、その光は大きな闇に変化し、そこにいた3人全員を包み込んだ。

 その闇の中で私はガチャリ、と後手に手錠をかけられた。

 ――私の魔力変質が消えた。

 これって、囚人用の魔力を封じる手錠……!


「まあ、他の子供でもよかったんだけどな。甥っ子が会いたがってたから、お前が一人になるの、待ってたんだぜ――リア?」

「何が目的なの」


「プラムと違って冷静だな? そう、そのプラム。オレはプラムに会いたいんだよ。子供でも攫わねぇと、あいつヒースから出てこないだろ?」

「母さんに何するつもりよ」

「昔の話の続きを」


 そこまで話したあと、私は闇の眠りの魔法をかけられた。

 眠りに落ちながら考えた。


 甥っ子って言ってた。

 多分甥っ子――ダニエルをそそのかして提供して、ブルボンス公爵家敷地内の施設に私を連れていくつもりなんだろう。

『報』はちゃんと送った。


 この人は馬鹿なのかな?

 あとでブルボンス公爵閣下にこの事がバレたらどうするつもりなんだろう。

 後々のことが考えられないくらい、母さんに執着してるの?

 ――予想がつく。この人には何かしらふさわしい鉄槌がくだされる。



※※※


 目を覚ますと、知らない小さな部屋だった。石畳だ。

そろそろ冬なのによくもこんな寒そうな部屋に閉じ込めてくれた。


「目が覚めたかい」

私が寝かされているベッドの横に、ライラック元殿下が座っていた。


「水をのむかい?……変なものは入ってない普通の水だ」

「……」

私は答えなかった。


「僕はライラック=エルム。今は遠い僻地の領主だ。リンネが、こんな事をしてすまない。止めたかったんだが、僕は何故かリンネに逆らえなくてね」

「……あなたは誘拐には反対なの?」


「勿論だよ。 ……昔もその誘拐のせいで、王位継承権も失ったし。今度も何を失うのかと思いつつも、リンネに逆らえない――でも、ダニエルは別だ」

「えっ」

ライラック元殿下が、足元に転がってるものを自分の靴でつついた。


「ダニエル!?」

 見ると、私の寝ていたベッドの下に、手だけでる形でダニエルが押し込まれている。

 気絶しているように見えるけど。


「……君が意識を失ってる間に、襲おうとしていたから、眠らせた」

「うわ。これは流石に……ありがとうございます……」

怖い…。学校の同級生だった人がそんな事を自分に対して考えていたことが怖い。


「自分の黒歴史を見る気分だった……くそ…!」

ライラック殿下が自分の顔を覆った。何があったって言うんです!?


「ところで、逃しては貰えないんですよね」

「リンネに逃がすなって言われてるからね、すまない」

「リンネさんは、母に何の用があるんでしょうか」

「……結婚したいんだと思う」


「はい? 5児の母親ですよ!?」

「それでも、結婚したいんだと思う」

「ちょっと頭おかしいんじゃないですか!?」

「僕もそう思う。でもそうなんだよ。多分、昔した失敗を取り返したくて執着してる」

 母さん、とんでもないものに取り憑かれてる……。


 母さんもこれ聞いたら、ええーって顔すると思う。

 そして、父さんがブチ切れる。怖い。

 父さんって、なんであんなに怖いんだろう。魔力もない普通の人なのに……。

 目力(めぢから)かな…。


 そこまで話した時、地震のような、すごい振動がし始めた。

 ……これって、土精霊ノームの『トンネル』の音……いや、これって。


「ライラック元殿下!! 土精霊の『アースクェイク』がくる!! ここって地下だよね!? 上に出ないとこの部屋崩れてぺしゃんこになるかも!!」

……土精霊っていうと、じぃじ?


 いや、ギンコも確か扱えるし、父さんと兄さんも……。

 ……音の響き方から一体じゃない気がする。

 嫌な予感しかしない……!?


「今は、ライラック……エルム侯爵だ。おいで、リア。こっちだ」

ダニエルを闇の手で掴んで、エルム侯爵は、私の手を引くと、全てを闇に包んだ。

攫われる時にも使ってた闇魔法の移動だ。

便利だなぁ、闇魔法。


「少し、ブルボンス敷地から離れたところへ出る」

「あ、はい」


――そして、そのすこし小高い場所から見えたブルボンスの様子は。


 土精霊の上位精霊にはベヒモスという大きな、四つ足の精霊がいる。

それが、ひい、ふう、みい、……よー……4体。


 その巨体の精霊が…アースクェイクという地震を起こす魔法を巻き起こし、大地を揺らし、ブルボンスの敷地を体当たりで破壊して回っている……。


……見たくないけれど、私は空を確認した。

そこには、ブチ切れ4人組がいた。


「リアはどこだ!!」

「孫を返せ!!」

「娘を返せ!! ……殺す!!」

「妹はどこだ!! あー?……いや、そうだな全部壊せば出てくるな!?」


 後半、茶髪二人組が言ってることが物騒だよ!!

というか、全部壊したら私も死ぬよ!? ヴァレン兄さん!!


 じぃじは普通に怒ってる。でも怒るのがめずらしいからかなり怒ってるんだろう。

 そしてギンコもめっちゃ怒ってる。顔が怖い。めちゃくちゃ怖い。あんなにギンコが怒ってるの初めてみたかもしれない!?


 ブルボンスはブルボンスで、急襲に慌てふためいて体勢を整えようとしているが――

 うわ……ギンコがやばい。

 なんていうかギンコが一番やばい。

 ギンコが、ブルボンスの兵士をすべて吹き飛ばしていく。

 殺してはいないけれど、大地に張り付かないと飛ばされてしまう、まるで台風のような風を起こしつつ――同時に。

 な、何言ってるのかわからないかもしれないけど、鋭い風の刃で塔が切断されてってる…。


 ああ…あれ精霊じゃない!

 ギンコが精霊じゃなくて風属性魔力使ってるの初めて見た……!


「ああ……」

「これは……もう、見事としか言いようがない破壊っぷりだな……」

エルム侯爵もドン引きしている。


 見事に全員、人は殺さずに敷地をぶっ壊している……。

 まさか、私が攫われた事でブルボンス家が……立派な歴史あるお城がかなりのハイスピードで更地になろうとしているなどと……。

 多少ならざまぁって思うけど、これは……後々、ヒースがやばいことになるのでは?

 ……止めないと。

もう手遅れだけど……それでも止めないと。

でもこの大きな音の中、どうやって声を届けよう。


そうだ。

耳の良いギンコなら聞こえるかもしれない。


「ギンコ、私、ここにいるよ!」

 うーん、音に言葉がかき消される。……ライラック殿下にお願いして、手錠はずしてもらったら、私も風の精霊で声を届けられるかも……と考えていた時。


 ギンコが振り返って、まっすぐこっちを見た。

「リア……!!」

 ギンコが空から降ってきて着地した。


 私の手錠を見て、胸を痛めたような顔をした後、風を使って素早くそれを叩き壊し――

「無事か! 良かった……!」

「わ!」

 抱きしめられた。……嬉しいけど心臓止まる!


「こ、この騒音の中、よ、よく私の声聞こえたね。ギンコは本当に耳が良く聞こえ」

「おまえの声なら――おまえが私を呼ぶならば、どこにいようと聞きとってみせる」

 さらにギュッとされる。ええ!? なに!? どうしたの!?


 そして続く父さんの声。

「ライラックうううううううう!!!」

 ああ!?父さん!!


 これは……誤解している!!

「ごふっーーっ!?」

 エルム侯爵は違…っ。ああああ!! エルム侯爵が!ぶっ飛ばされた!


 てか、父さんが銀髪!? なんで!? じぃじにもうそっくりだよ!

 顔が凶悪なじぃじがいる!! でもじぃじはちゃんと別にいる。

 間違いない、じぃじじゃない。父さんだ。

 どういうことなの!?


「ブルボンスーーーーーーーーーーーー!!!」

 ヴァレン兄さんが魔力変質した脚で、ダニエルを蹴り飛ばした。

ヴァレン兄さーんーーー!


 父さんと、兄さんが、暴れ続ける。一度殴るだけじゃ事たりないの!?


「グホッ!?」

「ごぉぇばぅっ!!??」

 ライラック侯爵が銀髪の父さんに再び殴り飛ばされ、続けてダニエルが兄さんに蹴り飛ばされ続けている……。

ああああ……。

 私は見ていられなくて、目を背けた。


「おいおい……もうやめないか! お前たち!!」

一人冷静さを取り戻しているじぃじが後から一人でモチにのって降りてきた。


 ああ、そうだ目を背けている場合じゃない……。私も言わなきゃ。

「父さんやめて! ライラック……エルム侯爵は、私を助けてくれたから!! 悪い人じゃないから!!」

 ギンコに抱きしめられたまま、私は叫ぶ。

というか、ギンコ、嬉しいんだけど、ちょっと足がつかないから降ろしてほしい。


「は? ライラックは見つけたら、殺せる時は殺すと決めていたから殺す」

 殺意しかない!!


 なんでそんなエルム侯爵に殺意がすごいの!! 父さん!!


「いや、だって、ライラック侯爵は意識のない私を襲おうとしてたダニエルから私を助けて……あ」

私は手で口を抑えた。今はこれ言うのはやば……遅かった。


「なんだと」

「は…?」

「あ…?」

「あ~…そこの小僧に関してはオレは何も見なかった事にしよーっと…。」

ああ……じぃじが…貴重なストッパーが!


「いや、もうオレ、ブルボンス更地にしてくるわ。いらないだろこんな変態公爵家」

「それはやめなさい、孫。ブルボンス公爵閣下はまともな部類な貴族だから。例え子供のクズ率が高かろうとな」

「すまないアドルフ、リアを探す為とはいえ、塔という塔を切り刻んでしまった」

「ギンコ……それリアはも死ぬんじゃないか? おまえらしくない」


「番(つがい)を攻撃魔法に巻き込むようなヘマはさすがにしない」

「そうか、なるほど」

じいじはその言葉をすんなり聞き入れた。


しかし。

「……?」

私は首を傾げた。


「は……? いま、なんつった…?」(父)

「あ? ……なんだと?」(兄)

そして、それを聞き逃すような父と兄でもなかった。


「番(つがい)を攻撃魔法に巻き込むようなヘマはさすがにしない、と言った。リアは私の番(つがい)だ」

 私は頭が空っぽになった。


「……知っていたのか、アドルフ」

 父さんが、じぃじに尋ねる。

いつもついてる、"さん"がついていない……。


 そういえば昔から思ってたけど、父さんってなんでじぃじのこと、アドルフさんって呼ぶんだろう……。普通、親父とかじゃないの?


「……あー。えーっとその内話そうかなーっと思って、機会をうかがっては、いたん、だが……?」

じぃじがやばい、って顔している。


「リア、お前も知っていたのか……? ……いや、それは今聞かされた顔だな」

父さんに問われて、とりあえず、コクコクと首を縦に振る。


ギンコが私の頬に触れて言った。

や、やめて。


「リア、こんな形で突然伝えてしまった事を許してほしい。もう少しお前が大人になったら話そうとは思っていた。……あとでちゃんと話をしよう」

「……」

 コクリ、と頷く。

目が点だ。言葉が出てこない。ちょっと耳が熱い。


「……なんだか、萎えた」

「……だね、父さん」

父さんと兄さんの様子がおかしい。


 じぃじが、ブルボンス家の惨状を見てため息をついた。

「しかし、オレもカーッとなってたとはいえ、かなりやっちまったな……これ。後始末どうすっかなこれ」

 じぃじが頭をかきながら言う。

そして4人はベヒモスを帰らせた。


「これくらいは当然だ。私の番(つがい)に手を出そうとしたのだから」

「ああ……そうか、国際問題だよな。そういえばギンコは跡取りだった」

 え? 国際問題?


「私一人ではないがな。ただ血筋的にはお前たち的にわかりやすく言えば、王位継承権を持っている立場だ」

「んじゃ、後始末お前にまかせていいか?」

じぃじがめんどくさそうに言う。

「その方がいいだろう。私が請け負う」


 じぃじが近寄ってきて、私の頭を撫でた。

「リア、簡単に説明するとな? 要は、ギンコはこの国で言えば、王子の一人ってことだ。お前は生まれつき王子の婚約者候補みたいなもので、それを拐かしたのだから、国際問題、ということだ」

「………(無言)」

そんな事説明されても、なにも言葉が出てこない。

「……だよなぁ」


「帰るぞ!」

「……」(むすっ)

 父さんがギンコと私の方を見ないでマロに乗った。

 兄さんの手をひっぱって、兄さんも乗せて。

 父さん…。


「ブラウニー……」

 ギンコが少し、気にした声を出したが、二人共、私達のほうは見ないで、無言でさっさと帰ってしまった。

 父さんの髪は、いつの間にかいつもの茶髪に戻ってた。


「あ~…、これはあとでオレ、どやされるなぁ……」

じぃじが、それを見てポツリ、と言った。

「私は……ブラウニーとヴァレンを傷つけてしまったか」


「しょうがねぇよ。これはどんな状況で言ったとしても、絶対にこうなる。そういうものだ。……大丈夫だギンコ。ブラウニーとヴァレンはそのうち受け入れる」


「そうだろうか……」

 ギンコの耳が垂れてきたのが、ちょっと切なくなってギュッと抱きついてしまった。

 そうしたら、ギンコが少し私を見て微笑んだ。

 ……う。


「そんな事より、一度帰ってお前の家で、ちゃんとリアに説明をしてやれ。ブラウニーたちよりも一番の当事者だぞ」

「…ああ、そのとおりだ。リア、私の話を聞いてくれるか?」

「……(コク)」

 私は頷いた。


「……はぁ、オレ殴られるかもしれん」

「あ、じぃじ、ライラック元殿下を治療したいから、連れて帰ってほしい」

「えぇ……。リア、本気か……?」

「父さん達も嫌がるだろうけど、私を助けてくれたのは本当だからここには置いていけないよ」


「しょうがないなあ、じぃじ、もう少しだけ頑張るわ……」

じぃじも結構暴れてた癖に……。


 ギンコに連れられて空に舞い上がると、ブルボンス家の惨状がよく見えた。

まるでヒースの街の瓦礫の山だ。あっちよりマシって程度……。


ああ、これ、ホントに大丈夫なの……??


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