たのしいぱーてぃー(白目)

「マナリア公爵令嬢様、ブリギート辺境伯令嬢様、ご機嫌麗しゅう。私は……」


「いやあ、お二人の美しさは、いかなる宝玉も恥じらうほど……」


「ところでマナリア公爵令嬢。この後一曲……」


 はア。

 半ギレです。


 入学式をつつがなく終えたわたくしたちは、立食形式の歓迎パーティーへと出席していた。

 ホストは学園の先輩たち。一応、名目上は貴族の位に関係なく、これからの学園生活へ向けて親睦を深めようって会なんだが、私とエイリルの元へはさっきから男も女も来るわ来るわ。


 第一は王都近くに領地を構える大貴族、マナリア公爵の娘とお近づきになりたいんだろう。

 第二に私。辺境伯は武名から畏れられる傾向にあるんだけど、私聖女だしなあ。陣営に取り込んでおきたいと思ってる輩は多い。

 そういうわけなんで、私とエイリルはパーティーが始まってから、ずーっと笑顔を張り付けっぱなし、お世辞と少しの飲み物を口にしっぱなしだ。


 はア。


「ベル、顔に出かけていますわよ」


「もういいでしょ。小火騒ぎでも起こせばこの波、引くかしら」


「冗談でもいけませんわ。学園での居場所がなくなってしまいますもの」


 そりゃそうなんだけどさーーー。しつこいんだよみんな。

 公・侯格の先輩と同級生は、言葉の端々に「うちの派閥に入れば優遇してやる」「良縁で結婚させてやる」みたいな意図が見えるし、伯爵以下の同級生は、無礼講(無礼を働いてもいいわけではない)をいいことに、若干馴れ馴れしく誘いをかけてくる。

 そして、それを遠巻きに見ている伯・子・男の先輩たち。あと平民出身ぽい人たち。その嫉妬、誰に向けてるのかは知らんけど、煩わしいんだが?


「エイリル・マナリア公爵令嬢さん。キンベリー・ブリギート辺境伯令嬢さん。挨拶が遅れてごめんね、こんばんは」


 テーブルに並んだ豪華な食事に目を輝かせているグラスノウに恨みのこもった視線を向けていると、やたらフレンドリーな口調の人物が話しかけてきた。

 今度は誰だよ。派閥勧誘目的?ワンチャンお近づき目当て?めんどいなあ。


 などと思いながら、意識を目の前の人物に戻して、大層驚いた。

 まず目につくのは、ルビー。シャンデリアの輝きをきらきらと反射して、深い緋から、鮮やかな朱まで、さまざまな色合いを見せる髪。

 ぱっちりとした瞳の色は紫苑。理知的な紫と快活な白の同居は、ばっさりと切られた前髪によって印象を後者に偏らせる。

 服装はエイリルと同じ、女子生徒向けの制服。けれど、端々にカスタマイズが施されており、その意図が動きやすさの確保にあることは、見るものが見ればすぐにわかるだろう。


 つまりは、活発系赤髪美少女。

 キンベリーとしても会うのはたぶん、初めてだけれど、これほど容姿の整った赤髪の少女で、学園に所属していて、私たちにフレンドリーに話しかけてくる人物ともなれば、たった一人しかいない。

 入学に際して頭に入れておいた、失礼が許されない相手リスト上位。


「これは、ヴィアナ王女殿下。謝罪をするべきはこちらの方です。本来、ご挨拶に伺うべきところを、こうして御身に来ていただいてしまって」


「あーあーあー、キンベリーちゃん、ダメダメ。素で話してよ。私のことはヴィーでいいから」


「いえ、しかし」


「お久しぶりですわ、ヴィー殿下。そのご様子ですと、殿下も新入生たちに囲まれていましたのね」


「そうなんだよねーーー。このパーティー、もっと気楽なもののはずなんだけどな」


 面食らう私とは打って変わって、すでに知り合いであったらしい(当然か)エイリルは、王女殿下と親しげに談笑を始めた。

 ちらり、と向けられた視線には、こちらを気遣う色。今のうちに諸々整理して、この人にどう対応するか決めろってことね。エイリル、なんてできる子!


 しかし、王女か。

 大貴族の令息令嬢は、十歳頃に王族との顔合わせを済ませているものらしい。らしいというのは、子爵男爵とかの下位貴族や、うちみたいに王都から遠いうえに領地を空けられない辺境伯はその限りではないからだ。

 そんなわけなんで私とヴィアナ殿下は初対面。彼女は初対面で距離を詰めてくるタイプ。しかもこっちは臣下なのに。


 失礼が許されない相手リスト上位が、積極的な無礼を求めてくる状況ゥ!

 めんどくせーーー!

 距離取り安定かも。


「キンベリーちゃんはどう?学園のパーティーはねー、ごはんが美味しいことで有名なんだよ」


「そうなのですね。皆さんのお誘いにお応えすることに忙しく、まだ味わえていないものですから、後ほど」


 私の返しに、ぴくりと眉を動かす王女。おいおい、勝手に期待して勝手に失望されても困るぜ?私は平穏な学園生活の中で美味しいスイーツとおしゃれを満喫するんだ。王女との関わりなんかいらないんだワ。


「そかそか。たっぷりと味わってね。君の口に合ったとあれば、きっと料理人たちも喜ぶだろうから」


「では、御前より失礼いたしまして、なにかつまんでみますね」


 そっちから振ってきたんだから、引き止められないよなあ?

 よーし、私張り切って食べちゃうぞー。まずはあっちのローストビーフ風の肉と、そこの魚のフライっぽいやつと、あれは生春巻きでは!?デザートはどうしようか、悩むな。


 皿を片手に心を躍らせていると、ちょんちょん、と肩を叩かれた。

 おいおい王女様、私にまだなんか用ですかねえ?


「キンベリー様、キンベリー様」


 グラスノウかよ。お腹さすりながら口をもごもごさせるな。おまえ、前世どういう女子高生だったのかは聞かないけど、態度デカすぎだろ。


「なに?ここは形式上、身分の関わりない学園のパーティーだけど、もう少し自分の振る舞いに目を向けるべきよ」


「あ、ごめんなさい。いやー、画面の中で飯テロされてたものを前にして、つい」


「……用件は」


「ヴィアナ王女とお話ししてましたよね?仲良いんですか?」


「いいえ。さっきが初対面」


「それはよかった。彼女、暗殺されるんですよねー。あなたの友達だったら、助けるために諸々動かなきゃいけないところでした」


 なんて?

 おい、原作知識の唐突な開示やめろ。

 ヴィアナ王女が暗殺?いつ?どこで?


「それじゃ僕はこれで」


「待ちなさい。その話、詳しく」


 聞いちゃったら放って置けないだろうが。というか、おまえはブリギート辺境伯領を助けるために原作改変したのに、こっちはいいの?

 このイケメン(JK)が考えてること、なにもわかんないよ。

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