第二章の始まりがあるとしたら多分今日
ファッキンテスト!!
文学地理学歴史学言語学法学数学薬学生物学経営学魔法学に剣術か護身術の実技!!
もう一度言おう。ファッキンテスト!!
一科目九十分、実技に一時間を一日二科目。それを一週間。
なんだよ午前一科目午後一科目とか余裕だろ、と思っていた過去の自分はすでにタコ殴りにして綺麗な顔をボロボロにしてある(してない)。
勉強してた時も思ったことだが、日本に似てるのに微妙に違う、みたいなものが多すぎる!キンベリーが素晴らしき地頭の持ち主じゃなかったら、これは無理だったな。合ってそうだけど合ってない、みたいな回答を連発していたことだろう。
ともあれ、ともあれだ。
王立学園、合格しました。
「エイリーは主席、か。さすがね、おめでとう」
「ありがとうございますわ。ベルと一緒に勉強したおかげです」
今は公爵邸から学園へ向かう馬車の中。試験後、合格発表までは屋敷に滞在させようとしてくる
結構居心地のいい部屋で、
隣に座って、こちらを覗き込んでくるエイリルは、いつにも増して上機嫌だった。
正門前で馬車を止めて、入学式が行われる講堂へと歩き始めると、他の新入生らしい子女たちがさあっと道を開けた。
式典まではまだ少し時間があるので、人混みというわけではないが、まあ助かるな。さすが、王都近くに領地を構えるマナリア公爵のご令嬢。注目の的だねえ。もしかして、主席ってことも知られてるのかも。
「みなさん、ベルに見惚れているみたいですわね」
「……何言っているの?見ているのはあなたでしょ」
エイリルは金糸に白の編まれた豪奢な髪を、ハーフアップにして小さなリボンのついた髪飾りで留めている。
顔立ちの美しさは言わずもがな、指定の制服に若葉色のローブという格好も、カスタマイズをせずとも完璧な着こなしを見せていた。
門出を前にした清楚な少女といった印象は、すれ違う誰もが感じることだろう。
まあ、私も美少女だが?割と張り切っておしゃれしてみたというか、自分を着せ替え人形にするのが楽しすぎて、サマナと制服めっちゃカスタマイズしたが?
それでも、エイリルより視線を縫い付けることはないだろうさ。そして悔しくない。親友がみんなに好かれているのは喜ばしいことだからな。
──おい、そこの男子、今私とエイリルのおっぱいを見比べたな?あとで潰す。
「ベル、あなたはご自身の魅力に無頓着すぎますわ」
「そんなことないわよ。私は自分が可愛いことを理解しているし、磨くのも好き」
「そうではなくて……」
ふふ、私はあくまで自分の計画のため、自分の楽しみのために着飾っているのだ。この改造制服の良さがわかるのは、私の他にはサマナしかいないだろう。
だがそれでいい!私は男子生徒達の欲情を煽るためにおしゃれをしているわけではない!自己肯定感のためなのだから!
「お二人が並んでいることが余計に目を引いているんですよ。美しいお嬢様方」
この軽薄そうな声。公爵令嬢と辺境伯令嬢が仲睦まじげに話しているところに割り込む度胸。おまえだな、グラスノウ!
「こんにちは、グラスノウさん。合格おめでとうございますわ」
「エイリル様もおめでとうございます。よく似合っていらっしゃいますね、制服」
クソ、顔がいい。
こちらもカスタマイズが施されていない、ごく一般的な男子生徒向けの制服だ。
しかし、なんていうか気品?みたいなものを感じる。黒髪はナチュラル感を残しつつセットされており、肌は小麦色に焼けてこそいるが、荒れているようには全く見えない。
相変わらず目鼻立ちもくっきりしているし、どっかの貴公子みたいに思われそうだわ。
「キンベリー様も、良いデザインですね。僕、めっちゃいいと思いますよ」
「……どうも、ありがとう」
はーーーーーーーーー!!
別に褒められても嬉しくないし!!!!
そりゃおまえには親しみ深いよな!!裏で笑ってろ!!おっさんがセーラー服とか(笑)ってよお!!前世現役JK様!!
はあ、はあ、こいつを前にすると、心が乱れて困る。キンベリーとしても、私としても。
ああ、そうだ。私が身に纏う改造制服は、端的に言えばセーラー服だ。
この学園の女子生徒用制服は、ゲーム世界らしく、元々日本人の感性に合わせた、可愛いものだ。
白いシャツ。赤いリボン。チェックのスカート。十人が見れば十人は制服だというそれだが、さすがにセーラーほどあざとくはなかった。
しかし、私はセーラー服が着たかったのだ。
前世でも、全ての女子高生達がセーラー服なわけではないし、むしろ昨今は少数派ですらあるかもしれない。ブレザーもいいと思う(というかブレザーも用意した)。
それでも『憧れ』は不滅なのだ。女装コスプレイヤーになる気もなかった私が、超絶美少女として華の学園生活を送れるとなれば、絶対にセーラーは外せない。
シャツの生地はそのままに、襟を大胆に改造。指定の赤いリボンが映えるよう、ここはオーソドックスに紺のものにした。
無味乾燥な袖口も、私とサマナの手にかかればセーラー服の縞々に変身だ。
チェックのスカートはブレザーにはいいが、制服のスカートはやはり、紺一色のプリーツスカートに限る(異論は認める)。
丈は膝上、貴族令嬢はみーんなロングスカートなので、相当短い。でも素足を見せるのははしたないので、長靴下を改造してパンストを作った。ガーターベルトはエロいけどめんどくさいからな。
脚フェチの諸君。黒タイツのデニールはいくつが好き?私は四十から六十。
今回は技術的にも礼法的にも、生地は厚め、色は黒めだ。
「私もとてもよく似合っていると思いますわ。あなたの良さをわかっているのは、あなただけではないんですわよ」
「そういうことにしておくわ。そういえばエイリー、そろそろ打ち合わせの時間なんじゃない?」
「あっ、そうでした。では、私は失礼いたしますわね」
互いを祝福し合い、制服の話もしたところで、エイリーが離脱した。
主席入学者として、式でスピーチを任されている彼女は、事前の打ち合わせのために、ステージの方へ行かなければならないのだ。
「感慨深いですねー」
「なにが?」
「いやだって、僕が知っているエイリル様は、たくさんのご令嬢に囲まれて閉じ込められて、それはもう笑顔を貼り付けている方だったし。それに……煉獄ちゃんは、ここにはいないはずだったから」
ゲーム内の話、か。
原作を知っていたら、もっと上手くやっていたのかもしれない。
前線で、私の治癒は多くを救ったと自負している。それでもやはり、とりこぼしてしまった命はあるし、辺境伯領を離れた今、この瞬間にも兵士たちが、私の民が死んでいてもおかしくはない。
私の存在が、行いが、少なからずこの世界を変えている。いい方向にか、悪い方向にか、それはわからないけれど。
「知ったことではないわね」
笑い飛ばしてやろうじゃないか。
私は今、自分の足で立って、この世界に生きている。画面の中の誰かじゃない、目の前の人々共に。
「キンベリー・ブリギートは、私よ。月光と呼ばれたことはあっても、煉獄の聖女なんて呼ばれたことは、ないわ」
「あはははっ、そっかー。……そうだね」
無邪気に笑った後、何かを憂うような表情を見せたグラスノウに、不覚にもドキっとしてしまった。
先が思いやられるよ。
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