デカすぎじゃね?(3)
「私に、治癒魔法を教えてくださいませ」
すみません、無理です。
いやいやいや。ただでさえ無礼にも聞き返したのに、即断即決ぶった切り拒否はまずい。社会的地位が。
しかしまあ、無理なもんは無理なのだ。
「エイリル様。私も魔法の適性などには明るくないのですが、治癒魔法は極めて珍しく、私の前の遣い手ですと百二十年前ほどになりまして……適正のない者には、魔法は扱えない、と記憶しているのですが」
この半年で、私は治癒以外の魔法の訓練もしていた。
適性のあった火の魔法は、髪が燃える代償こそあれど、結構上達したと思う。けれど、サマナの計測魔法(高さや長さ、重さをめっちゃ正確に測れる。便利だけど頭痛でぶっ倒れる)や、ジェフの水魔法は、どれだけ詳しく使う感覚を教わっても無理だった。
適性のない者に魔法は使えない。この世界の大原則らしいそれに従えば、エイリル嬢が私に教えを乞うイコール彼女も治癒魔法の才能があるということになる。
「存じておりますわ。私の適性は光。周囲を照らしたり、束ねて温度を上げたりすることができるだけです」
ふーん。そういえば、サマナが事前情報としてなんか言ってたな。
光をまとめてビームのようにすることで、野生動物くらいなら焼き殺せるとか。おっかねえと思ったんだった。
「……勘違いされがちですが、私の治癒魔法は、おそらく光とは関係ありません」
月光の聖女、なんて呼びやがりはじめたうちのバカ共のせいで、私の治癒魔法が天の光だとか、光の祝福だとか勘違いしてるやつは多い。手紙にもそんなことが書いてあるし。
けれど、使ってる身からすると、別に怪我を治してもホタルレベルにしか光らないし、私は神の御使でもなんでもない。エイリル嬢には申し訳ないが、光魔法の適性があっても、治癒魔法は使えないと思う。
「そう、でございますか。そうだとは、薄々勘づいておりました」
意外とあっさり認めた彼女に、少し拍子抜けする。
つまり、今回の来訪は本人の意思じゃないってことか。
「なにか、事情がおありのようですね」
「はい。実は、最近キンベリー様のお名前と偉業が、王都やマナリア領都で噂になっているのです」
「それは少し、恥ずかしいですね。差し支えなければ、どのように伝わっているのか、お聞きしても?」
「月光の聖女。戦地の天使。慈愛の神の御使……といったところでございましょうか」
うへえ。やめてくれよマジで。
辺境とはいえ、ここは貴族の領地。派手に活躍すれば、行商人とか旅人とかが、国の中央で得意げに噂を広めることはわかっていた。
けれど、ちょっとあまりにも実態とかけ離れてるって言うか、厨二病臭え。
「それで、ですね。その……私は昔からよく、マナリア領都の下町などに遊びにいっておりまして」
「……お転婆だったのですね」
話が飛躍したような気がするが、私は精神ダメージでそれどころじゃない。
適当に相槌を打ってる自覚はある。ごめん、エイリル嬢。
「お恥ずかしい限りですわ。……結果、自分で言うのもなんですが、領民からは慕われておりまして。あなたの噂を聞いた者が、私を陽光の聖女などと呼び始めてしまって」
あーーー。話が見えてきたな。
つまり彼女も、私と同じ口さがない噂に踊らされている被害者だというわけだ。
それも、私が治癒魔法の使い手として有名になってしまったばかりに、エイリル嬢も当然、癒しの力が使えるものと思われていると。
「他家から、治癒魔法を期待してのお手紙をもらうことは、まだ問題ないのです。こちらから否定する旨のお返事を出せば、その家からはもう言ってきません。けれど、民衆はそういうわけにも参りません」
そりゃ最大貴族である公爵家からの返事で、「うちの娘治癒魔法とか使えんのでよろ!」って言われたら、実際どう思っているかはともかく、貴族家は黙るだろう。
たが、平民たちは違う。
表立って何度権力者が否定しても、都合のいい方を真実だと考え、疑わない。一人一人はちゃんと考えられる頭がいいヤツだとしても、大勢集まるとダメになる。そういうもんだ。
エイリル嬢はマナリアの領民に慕われているということは、裏を返せば距離が近すぎるともとれる。
舐められている、とも違うが、どれだけ否定したって、重い病気や、欠損級の怪我をしたときに、彼女を訪ねる領民が続出しているのだろうさ。
「ふむ。事情はわかりました。……では、エイリル様。治癒魔法の指導依頼、謹んで受けさせていただきます」
「キンベリー様!?しかし」
目を見張り、驚く美少女。いやあ、眼福だね。まあ私ほどじゃないけどな!
自分でも言った通り、光魔法と治癒魔法の適性は全く別物だ。私がない語彙を絞り出し、手取り足取りエイリル嬢を指導しても、たぶん彼女は治癒魔法が使えるようにはならないだろう。
なので、これは建前だ。
「ですが、条件があります」
「条件、ですか?」
「はい。私も、この魔法が使えるようになったのはごく最近のことです。一朝一夕で使えるようになるようなものではありません」
知らんけど。十四歳まで治癒魔法のちの字もなかったのは事実だが、それまでの人生で、キンベリーが治癒を習得するために頑張ったなんてことは全くない。
ただ、それっぽく聞こえりゃいいのだ。
「ですから、エイリル様には、しばらくの間我が領に滞在いただき、魔法の修練を行っていただきます」
「……それは」
気づいたか。聡明なこった。
結局のところこれは、エイリル嬢の上──恐らく父である、マナリア公爵からの遠回しな依頼なのだ。
「うちの娘をしばらく預ける」という。
もちろん、魔法にはわからない部分が多いため、本当に彼女が治癒魔法を習得する可能性はある。けれど、メインの目的は疎開だろう。
慈悲を求める平民。実在しない力を狙う賊。そしてそれらによって摩耗してしまうであろう、まだ幼い娘の心を守るための。
別に私としては、公爵の思惑に乗る必要はない。格上とはいえ、逆らったら潰されるとかいう相手でもないし。
だが、だからこそ貸しにはなる。お父様はあれで政治もできるし、屋敷にいるお母様はもっと怖い。当然今回の件も知っているだろう。
そしてなにより──おっぱいがでかい美少女を助けられる。
おいおい、美少女を守るのは男の夢だろ?助ける女の子のおっぱいがおおきいとさらにテンション上がるだろ。私、今は女だけど。
まあ、性衝動はない。下心はあるけどな。あのおっぱい、いつかきっと揉む。
「わかりましたわ。ご指導ご鞭撻、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。私のことは、ベルと呼んでください。敬語もいりません」
「では、私のことはエイリーと」
同年代の友達、ゲットだぜ!
にしても、握手したらぷるん、って揺れたぞ。ぷるんだぞ。
デカすぎじゃねえかな──。
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