デカすぎじゃね?(2)

 おかしい。

 エイリル嬢はわたくしと同じ、十四歳のはずだ。前世で言えばまだ中学生。

 アレは、そんな歳で持てていいシロモノではない。

 現に、私の胸元はといえば──いや、やめよう、膨らみはあるし。こういうのはバランスが大事なのだ。大きさじゃねえんだ!


 目測、九十はあるか?バストサイズなんかみただけじゃわからん。

 とにかく、下から持ち上げようとすれば、たわわが手から溢れることは確実だ。でっっっっか。

 しかし、しかしだ。なぜだろうな、エロくない。

 おおきいおっぱいは好きだ。ぶっちゃけ触りたいし揉みたい。でも、なんだろう。それは純粋な感触への興味というか、いわばクッションに抱くような感情なのだ。


 私、自分だけじゃなく魅力的な女性に対しても、劣情を覚えないらしい。

 いや、公爵令嬢のおっぱいにいやらしい視線なんて向けた日には、首が飛ぶまであるからな。ここは安堵しておこう。悔しいけど。

 ──というか、エイリル嬢に既視感があるのは気のせいか?

 なんか、名前は知らないけど顔を見たことがある芸能人を見た時とか、そういう感覚なのだが。うーん、わからん。


「なにぶん粗忽な家ですので、良い紅茶をご用意できなかったこと、お詫びします」


「お気になさらず。それより、こちらのお菓子は……?」


「私のメイドが焼いたもので、シフォンケーキといいます」


 ふっふっふ、甘党ジャパニーズ完全監修。自慢の一品だ。

 この世界でケーキと呼ばれるものは、タルト生地のものばかり。フルーツの味を楽しむ分にはそれもいいのだが、私としては生クリームたっぷりのケーキが食べたかった。

 前世では機械で行われていた生クリームの製造、そしてそれをホイップ上に撹拌する作業。この世界では技術的に難しかった工程を叶えたのは、私の護衛騎士の筋肉だった。


「口に入れた瞬間、舌触りの良いソースが踊りますわ。それに包まれたふわふわの生地は、中のフルーツの瑞々しさと優しい甘さを際立たせて、クセになりそうです」


「お気に召していただいたようで、なによりです」


 そうだろう!そうだろう!サマナのお菓子はうまいのだ!!

 公爵令嬢の蕩けた表情を見れば、私の治癒魔法で限界を超えても酷使され続けた騎士の腕も、きっと浮かばれるだろう。別に生きてるけど。


 このシフォンケーキは、第一歩だ。

 お父様やお母様に聞いたり、取り寄せてもらった書物で調べたりして、この世界の甘味に関して結構な知識を持っている私。夢見るスイーツ御殿には程遠い現状は、ちゃんと理解している。

 だからこその一歩。私から広がったスイーツ改革が、国中のお菓子作りを好む人たちの創作意欲に火をつけ、どんどん新しいものが生まれていくことに期待だ。



「キンベリー・ブリギート辺境伯令嬢様」


 二人でケーキに舌鼓を打ち、顔を合わせていなかった四年間の話を軽くしていたら、あっという間に時間は過ぎていく。

 私の魔法の話だけは、世間話の枠を越えて、控えめながら結構聞いてきたことに少し驚いていると、ケーキを嚥下したエイリル嬢が居住まいを正した。


「此度は、月光の聖女と噂されるあなたに、お願いがあって参りました」


「その呼称は、一応正式には認めていないのですが……」


「そうでしたか。しかし、あなたに類まれなる癒しの力があることは、確かなのでしょう?」


 こくり、と頷く。

 私が聖女として、この砦の兵士に持ち上げられるようになってから、だいたい一ヶ月が経った頃。私宛に届く、貴族からの手紙は爆増した。

 その多くが、縁談。次に、遠征と支援のお願い。お父様からは好きにしていいと言われたので、基本私のところに来る前に、断ってもらっている。

 だって面倒じゃん。素敵なお嫁さんになるのが夢!みたいに言った手前、両親には申し訳ないが、男と結婚する気はさらさらない。目的のために、王国や、下手したら大陸中を駆けずり回って、人助けに明け暮れるつもりもない。

 なので、お手紙もらっても困るのだ。


 マナリア公爵家からの手紙は、数少ない私の元まで届けられたものだった。

 辺境伯家うちよりも格上だからというのもあるし、手紙の内容が「来年から同じ学舎に通うもの同士、親交を深めたい(要約)」だったから、砦への来訪も快く受けたのだが。

 これが派閥形成に巻き込まれるくらいならまだしも、マナリア領まで顔出して誰それ治してくれ。ついでにあいつと結婚してくれ。とか言われるとマジで困る。


 そんなことを考えていたのが顔に出ていたのかもしれない。エイリル嬢は申し訳なさそうに、肩身が狭そうに俯いた。やべ、お嬢様フェイスお嬢様フェイス。


「マナリア公爵家からの要請を、私は正面から断ることはできません。しかし、私も望みある者。この地にて、幾人もの兵士たちを救ってきた自負もあります。どうか、その要請いかんでは、私の働きが望まれるものにならないことを、お許しください」


 なんか脅しっぽくなっちゃったが、治癒魔法の才能が希少である以上、格上の貴族にこんくらい言える権限はあると思う。まあたぶんだけど。大丈夫かな、お父様なんとかしてくれ。

 私のぶっ壊れ治癒魔法は、そうそう安売りできないし、この判断は間違っていないはずだ。


「誤解ですわ、キンベリー様」


「誤解、とは……?」


 しかし、私の予想に反して、エイリル嬢は苦虫を噛み潰したような表情ではなく、申し訳なさそうな顔をしていた。

 誤解って言うと、なんだ?お願いはお見合いの方とか?それはもっと嫌なんだけどなあ。


「このお話は、内密にしていただけますでしょうか」


「……わかりました。サマナ」


 彼女の真剣な眼差しに、どうやらしっかりとお願いの中身を聞かなかった私が悪かったらしい、と気づく。

 サマナに命じて人払いをさせ、部屋の周囲二十メートルには私たちと、メイドがそれぞれ一人ずつの状態になった。


「改めて、お願いを聞かせていただけますか」


「はい。……私に、治癒魔法を教えていただけますでしょうか?」


 ──えーっと。

 これ、他の人も使えるんですか?




────────────────────


なんか自分でつけた名前なのに、赤毛のメイドの名前間違ってました。

正しくは「サマナ」です。これからも間違える気がするので、気づいたら都度直します。sry

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