Ep011 ネット恋愛編 私好みの彼

名前で呼び合うのが自然となっていた。私は母や主人の前でしか使わない一人称が名前のノラになっていた。




彼の方は彼女が出来ても変わらずにネットで女性との新しい出会いを楽しんでいた。出会った女性とLINE交換をしたこと、その人と電話し自分と話したがっている様子だと自慢げに私に報告をしていた。


以前より恋愛エンターテイメント色は薄く感じるようになっていた。彼女の惚気話も出会った女性たちの話も私を苛立たせていた。

私は彼のことが好きと認識するようになっていた。しかし初めてのネット恋愛に戸惑いから自分の気持ちを認められなかった。


会ったこともない33歳年下の男の子を好きと認めたくない。でも20年以上ぶりの恋に沸き立つ脳を止める手立てが分からない。

ただただ彼の声が聴きたい。彼に名前を呼ばれたい。その願望で頭がいっぱいだった。




この日も朝から頻繁にLINEをやり取りしていた。話したいと彼から言われたが自動車保険の更新手続きや仕事があるためお喋り出来ないよと伝える。だったら、お勧めの曲をBGMに掛けてあげるよと言われ電話することになった。




BGMにはPeople1のアムバムを掛けてくれた。気に入った曲があって、もう一回聴きたいとリクエストすると「まだアルバムに曲があるから全部掛けてからね」とお願いを聞いてもらえない。じれったいと思いながら流される曲を聞いていく。聞いているうちにJ-waveで流れてハマったスラップスティック・ガールがPeople1だったことを思い出し、滅多に日本人アーティストにハマらない私にとっては珍しいことで興奮して彼に伝える。しかし彼からの反応は薄く軽く流された。


今ままでも、あまり人に読まれていない共通の本や漫画の話でも、やっと共感してもらえる人に出会えたと私が喜んでも彼の反応は薄い。いつもはぐらかされる。この思い通りにならない感覚が物凄く私好みだ。




私は自分が好きになる前に好きになられることが物凄く苦手。まだ少ししか好きでないのにアプローチされると気持ちが悪いくらいに嫌いになってしまう。


だからと言って自分に全く気がない人には気持ちが動かない。好意はあるがアプローチしてこない人。尚且つ、私のことを特別扱いする人しか好きにならない。


これは恋人だけではなく友達にも同じ価値観でいる。私をちゃんと特別扱いする人しか友達にならない。

付き合ったら付き合ったで自分の言うことを何でもきかれてしまうのは嫌。でも直ぐに思い通りにならないのは気に入らない。


それを言うことをきかせたい。その欲から相手を好きになっていく。自分でも自分はかなり面倒臭いと思う。

そんな私に彼はぴったりの人だった。


LINEすれば直ぐに返信があり、話したいと言えば応じる。彼からも毎日、私と話たがるのに思い通りにならない。好意を寄せてくるのに彼女の惚気話や他の女性との自慢話をする。彼を思い通りにさせたい。


なかなか思い通りにならないその渇望感から彼にどんどん夢中になっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る