第5話

「海と縁の薄い者が海戦を戦えるかという儀ですが、敵も人間なればいつまでも海に浮かんではおられぬでしょう。敵を陸での戦に引きずり込めば、陸で腕を磨いた者たちの技が生かされます。敵が海にあくまで居座ろうとするなら、結びつきの強い土地、人を攻めて陸に誘い込めばあとは騎馬武者の出番です」

 むう、と好古はいち従者に過ぎない進言に胸のうちで唸る。

「なあ、名足。もし、もしだが麿が追捕使に任じられたら、おぬしが小野好古として出撃せぬか?」

「各宰領には顔を知る者も任じられましょう、幼稚な逃げの打ち方はお止めください」

 名足の言葉に好古は幼稚に舌打ちする。

「しかし、いま西国はどのような有様なのだろうな? 都とて決して暮らしやすい場所ではない。それが乱が起きたとなればいかような仕儀に至るのか」

「さて、国司受領、目代の横暴とさして変わらぬように存念いたしますが」

 好古の疑問に名足は棘のある口調で応じた。

「どちらも民草を苦しめる点に変わりはありません。都合の悪い者を殺すというやり口も」

「名足、聞いてくれ。国司受領のすべてが非道ではない」

「ならば、西国の賊にも義があるのでは?」

「結句のところ、それぞれの義がぶつかるということか」

 絞りだすような声で好古は声を発した。

「あなたは此度の戦に“義”を見出せますか。戦は強い信念を持たねば死ぬと聞いております。あなたにそれはありますか」

「義、か」好古は難しい顔になって寝殿の畳の上で考え込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る