第4話

「それがしは大納言藤原清貫(きよぬき)殿と親交がある。そこで聞かされたのだ。追捕使の一人としてお前を推したい、と。大納言殿としては追捕使の功労者に近しい者を振り当てたいのだろうな」

「したが、それでは貴殿は。それはいくらなんでも酷(むご)うごおじゃる」

 好古の発言に「酷い、か」と慶幸は歯を見せて笑う。「朝廷の誰にこの話を聞かせても『致し方ない』で済ませた。あんたの言葉、嬉しかったよ」と告げた。

「縁起でもないが、追捕に同道することになったらよろしく頼む」

 と告げ、お参りして彼は去っていった。

「戦とは何か、今一度、我らは思案する必要があるやもしれませぬな」

 脇に控えていた名足が好古に一歩近づき声を発した。戦を知る、か――だが、その前に好古にはやることがある。

 帰宅した彼は従者たちに法師陰陽師を探してくるよう命じた。その後、目的どおり、紙冠をかぶった法師陰陽師が見つかった。老齢の今にも身罷りそうな人物は好古をひと目見るなり、

「貴殿には戦の相が出ておる」

 といきなり発言し、好古をおおいに怯えさせた。

「お、陰陽師殿。苦難を逃れるためには?」

「おぬしを絡み取った宿命は容易なものではない。反閇をし、方違えによって向かう道を教える」

「それで無事でいられるのでおじゃるな」

 好古の問いかけに法師陰陽師の返答はわずかに間が空いた。

「後は天命であろう」

 天命、好古は眩暈をおぼえた。そんな彼を横目に庭へと降りた法師陰陽師は、二歩ずつ歩く禹歩を実行する。南無、という言葉で始まり急急如律令の文言で儀式は終了する。好古に特に何か実感はない。

 騙されたかと思ったが、相手が本物で術を取り消されてもたまらない。法師陰陽師はそれからもし、山陽道追捕使に任じられた場合に避けるべき場所、迂回の方法を授けてくれた。ここまで仔細に語るとは案外、この法師陰陽師“本物なのかもしれない”。救いの手が欲しい光脩にとっては怪しげな者も神仏の使いに見えた。

 法師陰陽師が退出したところで名足が入室してくる。その顔には呆れが浮かんでいた。そこまであからさまに感情を露わにせずともいいだろうに。

「まだ追捕使が決まる前からこの騒ぎですか」

「ことが決してからでは遅いのだぞ、名足」

「決まる前に右往左往するのも無意味だと存じますが」

 またも、主の前で名足はこれ見よがしにため息をつく。嘆息したいのはこちらだ。

「ところで、純友討伐の儀ですがね。橘殿の申しようには異論がありまする」

 異論、と好古がいぶかしげな顔をしたのを受け名足は口を開いた。

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