第27話 ◇第四鬼門

 第三鬼門で討伐条件を達成した一か月後、俺は第四鬼門へとやってきた。


 第三鬼門で狩りを終えたあとは第四鬼門には行かなかった。だから、夜叉の洞窟へと来るのは一か月ぶりとなる。


 期間が空いたのは、剣技の熟練度上げに集中していたから。熟練度上げを優先した理由は、狩りのブランク期間が長くならないようにと、今回から臨機応変に対応してみた。


〈熟練度〉

 ・剣技(738 / 750)


 その結果、剣技の熟練度はあと12で条件を達成できるところまで上がった。これなら、第四鬼門での狩りと少しの熟練度上げ期間で次へと進められる計算になっている。


 というわけで、今日から第四鬼門で牛頭鬼と馬頭鬼の狩りを始める。



「第三鬼門と変わらないね」


「あぁ、そうだな。違いがあるとすれば草原の所々が抉れている事くらいだな」


「牛頭鬼か、馬頭鬼の仕業だね」



 第四鬼門の環境は第三鬼門とほとんど変わらず、昼間の草原地帯が広がっていた。


 違いがあるとすれば、鬼門の入り口から少し離れた辺りから草原が所々抉れていて土が見え隠れしている。


 その犯人は探さなくても分かる。

 第四鬼門に住まう牛頭鬼か馬頭鬼だ。



「モォォーー!」


「最初の相手は牛頭鬼の方か」



 牛頭鬼。

 その姿は牛鬼のような蜘蛛の怪物ではなく、人身で牛の頭を持つ鬼だった。


 初見の印象は、ゼクス側の本で知った。

 ミノタウロスとそっくりだな、と。


 そんな牛頭鬼の身長はだいたい3メートルくらいでガッシリとした大きな体格だ。

 全身は焦げ茶色の毛並みで覆われ、深紅色をした二つ眼と二本の銀角が特徴的。


 そのような見た目をした牛頭鬼は俺の予想に反して、牛鬼と似ているのは紅眼と銀角の部分だけだった。



「モォォ〜~」


「四つん這いかよッ! 《剣召喚》」



 のんきに俺が姿を観察をしてると、威嚇を終えた牛頭鬼が鳴きながら突進のような攻撃を仕掛けてきた。


 威嚇時は両腕を大きく広げて二本の足で立っていたのに、こちらへと突進してくる牛頭鬼は四足歩行となっていた。


 そんな状況に俺は思わず牛頭鬼へとツッコミを入れる。まあ、ツッコミを入れたところで牛頭鬼の行動は変わらないけどな。


 だから、いつものように剣を召喚してから動きを見極め突進を受け流した。



「ムゥッ、ムゥッ、ムゥーッ!」


「なるほど、殴る攻撃の時は二足歩行に戻るのか。攻撃が当たらないからって、そう怒るなよ――なッ」


「モッ、モーー!」



 突進を受け流された牛頭鬼は二足歩行へと戻り、自慢の剛腕を三度振り回した。

 殴りの攻撃を俺が身軽に躱すと、牛頭鬼は怒りで鳴き声を強めた。


 そんな煩悩に支配された牛頭鬼を叱るように、俺は軽く剣を振るった。すると、剣先は前腕の外側をかすめ牛頭鬼が鳴き叫ぶ。


 牛頭鬼の前腕から黒い血が噴き出し、俺はそれを見ながら力の加減を計算していた。



「モォォーッ! ムゥッモーーッ!!」


「牛頭鬼ごめんね。モォ、遊びの時間は終わりなん――だッ!」


「モーーッ!!」



 前腕に傷を負った牛頭鬼は吠えてから俺を本気で殴ろうとしてきた。俺は殴りを避けながら、その腕を斬り上げて切断した。


 その後、俺は牛頭鬼に残るもう片方の腕も同じように素早く斬り飛ばした。



「両腕が無くなれば突進もできないだろうしこれで積みかな。なかなか楽しかったよ牛頭――鬼ッ」


「ムッゥッ、モッ……」



 二本の腕を失った牛頭鬼の前方は隙だらけとなり、俺はそこへと入り込んで顎の下から脳天を剣で突き刺した。


 突き刺した剣はそのままに。

 俺はその場を離れる。

 そして牛頭鬼の体から力が抜けるのを確認し、ソッと剣を消した。


 父さんの言ってた通りで第四鬼門もこの調子なら簡単に突破できそうだ。これは牛頭鬼が弱いのではなく、死鬼霊剣の新たな能力が強すぎるだけだ。


 最初の攻撃は様子見で軽く剣を振るい。


 結果的に、その三倍程度の力で牛頭鬼の腕は難なく斬り飛ばすことができた。


 やはり、俺の身体は強くなった。


 そんな事を思いながら、草原に力なく倒れ込んだ牛頭鬼の亡骸を見ていた。



「ローグ、強くなったからとあまり油断をしすぎるなよ」


「父さんの言う通りなんだけど、強くなったことが嬉しくてついね。それでも、気をつけて戦ってるから安心して欲しいかな」




 ◇◇◇




「ヒヒーーンッ!」


「馬頭鬼は境界線の右側だったか」



 俺は牛頭鬼を初討伐してから鬼門の左側へと進み狩りを続けていたが、数鬼の牛頭鬼を狩ったところで異変に気づいた。


 馬頭鬼に遭遇しない、と。


 そして、俺は第四鬼門には境界線のようなものが存在することを知った。その境界線は入り口の鬼門から出口の鬼門を一直線に結んだものだった。


 第四鬼門の入り口から見て。

 左側の境界に牛頭鬼が生息し、右側の境界には馬頭鬼がいる。

 その様な見えない境界線によって、なぜか牛頭鬼と馬頭鬼はお互いの領域を侵さないようにしている。


 そういった理由で俺は、馬頭鬼を狩るためにわざわざ進路を変えて右側の境界へとやってきた。


 馬頭鬼。

 その姿は牛頭鬼と同じで人身に馬の頭を持つ鬼だった。馬頭鬼の方は、牛頭鬼よりも細身の体格をし身長に関しては同程度。


 見た目の特徴としては黒色の毛並みに全身が覆われ、牛頭鬼と同じような紅眼で二本の銀角を生やしている。


 そんな感じで。


 牛頭鬼と馬頭鬼の違いは毛並みの色と体格差があるくらいだった。



「ヒッ、ヒッ、ヒーンッ!」


「はやッ! 《剣召喚》」



 馬頭鬼は二歩で俺へと接近し、叫びながら胴回し回転蹴りで攻撃してきた。俺の顔を狙った蹴りは空を切り、蹴りの勢いそのままに地面へと踵を落とす。



「犯人はお前かよッ!」



 地面に激突した馬頭鬼の蹴りは草原の土を掘り返した。当の本人はその事をまったく気にすることなく、軽快に体を動かし倒れることなく元の態勢へと戻る。


 俊敏な蹴り。


 一瞬の対峙だったが、これが馬頭鬼の脅威で強みだと把握できた。蹴り自体の力は強くないが、それに得意とする速さが加わることで威力を増している。


 力の牛頭鬼、速さの馬頭鬼か。


 馬頭鬼の方は、牛頭鬼と比べて大きな隙がないから多少のやりづらさを感じた。



「ヒッ、ヒッ、ヒヒーン」


「三連蹴りか……悪くないね」


「ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒヒーン」


「おッ、五連蹴りもできるのか」



 馬頭鬼の攻撃には、あまり隙がないから俺は避けに専念して様子を見る。馬頭鬼の軽やかな動きで繰り出す連続蹴りに、俺は攻撃を忘れて見入っていた。



「ヒーッ、ヒーッ、ヒーッ」


「なんだ、疲れたのか? それな――らッ、次はこっちが攻める番だね」


「ヒッ、ヒーーンッ!!  ヒーーンッ!!」



 馬頭鬼の連続蹴りを見るのが楽しくて時間を忘れて避けていた。そしたら、馬頭鬼は息を荒くしながら動きを止めてしまった。


 その事に落胆した俺は持っていた剣で反撃を開始した。まずは馬頭鬼の機動力を落とすために、両脚の太ももと脹脛を順に素早く斬り裂いた。



「おッ、それは凄く助かる――よッ」


「ヒィッ……」



 俺が機動力を落とすために振るった剣により、馬頭鬼は膝から崩れ落ちた。馬頭鬼が跪いてくれたお陰で馬頭がちょうど良い高さまで下がってきた。


 だから、俺はその行為に遠慮することなく馬頭を刎ねさせてもらった。


 こうして俺は第四鬼門での初討伐を終えるのだった。討伐した牛頭鬼と馬頭鬼が弱体化版に過ぎなかった、とは知らずに……。


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