第25話 ◇第三鬼門
俺は二回目の牛鬼討伐から休むことなく討伐条件を満たすまで狩り続けた。狩りを終えた俺は牛鬼の亡骸付近で死鬼霊剣に必要な強化素材へと意識を向けていた。
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『進段状況』
〈討伐〉
・餓鬼 (100 / 100)
・毒蜘蛛(100 / 100)
・牛鬼 (10 / 10)
〈吸収素材〉
・青銅『吸収率100%』
〈強化素材〉
・牛鬼の鉄爪
〈熟練度〉
・剣技(700 / 700)
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「強化素材は牛鬼の鉄爪か」
今回の強化素材は木の枝や鉱石の素材ではなく、生き物から取れる素材だった。
牛鬼の鉄爪。
俺がもっとも警戒していた。
銀色のかぎ爪は鉄だった。
つまり、牛鬼の前足二本は鋭い鉄鎌が付いていたのと変わらない。
巨大な怪物が二本の鉄鎌を振り回す。
それだけでも十分に恐ろしい。
まさに、牛鬼はボスといえる存在だった。
「《進段強化》」
「おぉ、それがローグの言っていた剣を進化させる力か……青銅の剣が一瞬で鉄の剣へと変わるとはな。ほんと、職人要らずの便利な能力だな」
俺が牛鬼の鉄爪に死鬼霊剣を当てながら進化させていると、父さんが近くでその光景を好奇の目で眺めていた。
そういえば、剣の進化を父さんに見せるのは初めてだったな。
俺は父さんの好奇心に溢れる。
珍しい姿を横目にしながら、新たな死鬼霊剣の方へと意識を向けた。
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【剣名】死鬼霊剣〈肆〉
【剣質】粗悪な鉄剣
【段階】肆
【解放】四
『能力一覧』 『進段状況』
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鉄剣の【剣質】はまだ吸収作業をしていないので、当然ながら粗悪な鉄剣のままだ。
死鬼霊剣の【段階】は参→肆となり、剣が四回目の進化を遂げたと分かる。
次は恒例行事となった。
死鬼霊剣の新たな進化条件を確認するために『進段状況』へと意識を向ける。
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『進段状況』
〈討伐〉
・小鬼 (0 / 300)
・牛頭鬼 (0 / 30)
・馬頭鬼 (0 / 30)
〈吸収素材〉
・鉄『吸収率9%』
〈熟練度〉
・剣技(701 / 750)
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新たな討伐条件は小鬼、牛頭鬼、馬頭鬼の三種が討伐対象となっていた。討伐数の方に関しては、前回よりも増えているけど問題はないだろう。
気になるのは、三種の鬼だ。
最初の小鬼は小さい鬼。
その姿を見た事はないけどゼクス側の知識が影響して、どうしても小鬼の名前からゴブリンの姿を連想してしまう。
ゴブリンに関しては、前に暇つぶしで読んだ『モンスター図鑑』に載っていた絵と説明書きからある程度のことは知っている。
小さくて醜い人型の魔物。
ゴブリンは深緑色の肌を持ち、目つきの悪さと鼻や耳が尖っているのが特徴だ。それに加えて禿げ頭で異臭もする。
不潔な存在。
それだけでも最悪なのに、性格は極悪非道でずる賢く良いところが全くない。
それがゴブリンだ。
そんなゴブリンは別称で小鬼とも呼ばれている。だから、小鬼を脳内でイメージするとゴブリンの存在がチラついてしまう。
残りの牛頭鬼と馬頭鬼は、その名前から牛と馬の頭を持つ鬼だと想像できる。
馬の方は新しいけど、牛の頭を思い浮かべると目の前に転がっている。
牛鬼しか思いつかない。
だからまた牛なのかよ、とほんの少しだけガッカリしている俺がいた。
「父さん、小鬼も夜叉の洞窟にいるの?」
「次の第三鬼門にいるぞ」
「じゃあ、馬頭鬼と牛頭鬼は?」
「馬頭鬼と牛頭鬼は第四鬼門だ。しかし、ローグの技能はほんと特殊だな……夜叉の洞窟と何かしらの関係があるのかもしれないな」
第三鬼門と第四鬼門。
という事は第四鬼門に行くまでは死鬼霊剣の姿はこのままか。
「父さん、もしも今の実力で馬頭鬼と牛頭鬼を相手にしたら倒せると思う?」
「今のローグなら大丈夫だろう。正直、言って短期間で強くなり過ぎなんだよ。実力的に考えても第五鬼門までは問題ないと思うぞ」
父さんが言うには、今の実力なら第五鬼門までは問題ないらしい。
そう考えると今回は剣技の熟練度が50上げだけで条件達成だし、二か月もしない内にすべての条件が終わりそうだな。
◇◇◇
第三鬼門。
此処は昼間の草原地帯だった。
辺り一面に背の低い草が茂っているだけで身を隠せそうな場所は何処にもない。
そして、空を見上げれば第一鬼門と第二鬼門で散々見てきた。
赤錆色の風景があるだけだった。
「あれが小鬼か……」
「想像と違っただろ。父さんも初めて小鬼の姿を見た時は戸惑ったな」
小鬼の姿を発見した俺は想像との差に戸惑いを隠せずにいた。餓鬼やゴブリンみたいな醜い生物だと思いきや、小鬼の姿は純真無垢な体格のよい少年だった。
灰色の肌と頭にある二本の角さえなければ、人間の少年だと言われても信じてしまうほどに酷似していた。
しかも、その顔は醜いどころか美少年のように整った顔立ちをしている。
そんな小鬼は俺よりも背が少し大きく筋肉質のよい体をしていた。
小鬼は武器のようなものは何も持っておらず、腰の辺りに黒いフワフワとした。何かを巻き付けているだけだ。
小鬼の第一印象は、上半身裸で半ズボンを履く純粋そうな少年だった。
「ケラケラ、ヶラヶラ」
「……」
小鬼に近づくと笑顔でただ楽しそうに笑っていた。その心は清らかでなんの飾り気もなく、邪心の欠片すら感じない。
純粋な小鬼。
その姿を見て。
俺は初めての狩りで兎を討伐した時の事を思い出した。
目の前の小鬼をこのまま狩ったら、あの時よりも強い自責の念に駆られそうだ。
「ローグ、あれは人に似ているが決して人ではない。だから、迷わずに戦えばいい。どうしても罪悪感があるのなら、一振りで痛みを感じさせない内に決着をつけるんだ」
「そうだね……《剣召喚》」
俺は頭ではわかっているけど、小鬼の姿を見てしまうと動けずにいた。
そんな心情で戸惑っている。
俺の背中を父さんが押してくれた。
父さんに後押しされなくても、俺の行動は最初から決まっていた。
だけど、行動は変わらなくても精神面では大きな違いを生む。
一人で背負わないこと。
それがこんなにも温かいことだったとは、前世の俺は一度も知らなかった。
そんな事を思いながら、俺は剣を召喚して息を吸い込んだ。そして、息を止めると同時に感情も一時的に捨て去り。
一振り。
自分よりも少し高い位置にある小鬼の首を無駄のない動きで刎ねた。俺は餓鬼の初討伐と同じように、小鬼の首が落ちる前に視線を外してその場を後にする。
「父さん、次に行こう」
行動事態は餓鬼の時と変わらない。
しかし、今回の小鬼討伐はあの時と違って俺は複雑な心情を抱いていた。
達成感と疑問。
剣一振りで討伐したという達成感と、夜叉の洞窟への疑問。いろんな疑問が夜叉の洞窟にはあるけど、今ある疑問は一つだ。
第三鬼門。
夜叉の洞窟を創った者は何故。
こんなにも、人の感情を乱そうとしてくるのだろうか。
純真無垢な小鬼。
どうして、夜叉の洞窟へ挑戦する者たちに第三鬼門で小鬼を狩らせるのか。
その意図は何なのだろうか。
悪意か、気まぐれか。
それとも挑戦者たちへ伝えたい。
何かがあるのだろうか。
此処を創った者に。
どんな思惑があったにしろ。
少なくとも今日は恨まずにはいられない。
俺はそんな心情を抱きながら、第三鬼門で小鬼たちを狩っていくのだった。
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