第24話 ◇剣技同身
季節は初春となり。
俺は望んでいた力を手に入れた。
数か月前の牛鬼戦は討伐には成功したものの、力不足が浮き彫りとなった。そのせいで牛鬼とは正面から戦えず、勝ったのに敗戦したような気分を味わった。
それがきっかけとなり、俺は力を以前よりも渇望するようになった。
力があれば、正面からでもやり合えた。
そういった気持ちから俺は日々の訓練を今まで以上に努力するようになった。
ちょうど、俺が力を望むと技能はそれに答えるかのように道を示してくれた。
剣技の熟練度。
俺が強くなりたいと渇望すると、自然と剣技の熟練度上げに意識が向くようになった。
剣技の熟練度が上がれば。
何かが変わる、と。
だから、俺は二つの体で必死に剣技の熟練度上げを励むようになった。
それから三ヶ月が経ち。
現在の俺は劇的に強くなった
やはり、そのきっかけは技能に導かれた。
剣技の熟練度によるものだった。
――――――――――――――――――――
『進段状況』
〈討伐〉
・餓鬼 (100 / 100)
・毒蜘蛛(100 / 100)
・牛鬼 (1 / 10)
〈吸収素材〉
・青銅『吸収率100%』
〈熟練度〉
・剣技(700 / 700)
――――――――――――――――――――
剣技の熟練度700。
それは死鬼霊剣の新たな能力を解放させる為に必要な条件だった。
――――――――――――――――――――
【剣名】死鬼霊剣〈参〉
【剣質】良質な青銅剣
【段階】参
【解放】四
『能力一覧』 『進段状況』
――――――――――――――――――――
死鬼霊剣の状態に意識を向ければ、今までと違い【解放】は三から四へと変化した。
新たに解放された第四能力。
それは――。
――――――――――――――――――――
『能力一覧』
〈初期能力〉
・能力 《剣召還》
・特殊能力 《解》
〈解放〉
・第一能力 《素材吸収》
・第二能力 《進段強化》
・第三能力 《剣技》
・第四能力 《剣技同身》
・第五能力 《――――》
――――――――――――――――――――
――剣技同身。
これは第三能力 《剣技》と同じで常に発動するパッシブ型の能力だった。
前回の第三能力 《剣技》は剣術の上達を常時補助して導いてくれた。
それに対して、第四能力 《剣技同身》の方は身体を常時強化してくれるものだった。
二つの能力は関係性が深く。
剣技の熟練度に比例して、新たな能力の身体強化値も変化していく。つまり、剣技の熟練度が上がれば上がるほどに身体能力も比例して上がっていく。
これは俺の能力をゲームのステータス値みたいに考えるとわかりやすかった。
【身体】70
【剣技】700
これが第四能力 《剣技同身》が解放される前のステータス値だとすれば。
【身体】770(+700)
【剣技】700
こっちが能力解放後の値だ。
実際に、以前の俺と比べて身体能力が十倍以上は強くなったと感じている。
この急激な成長幅は第三能力が解放されてからの二年半にも及ぶ。
努力の結晶だ。
今回は二年半の努力による貯金で身体能力が急激な成長を遂げることができた。
だけど、これからは剣技の熟練度上げと同じように徐々に上がっていく。
剣技と同等の身体を得る。
これが四つ目に解放された能力だった。
剣術が上達すれば、身体も強くなる。
身体が強くなれば、剣術の幅も広がる
死鬼霊剣の第三能力と第四能力には、こういった相互関係がある。
そのどちらも。
俺にとってプラスの働きをしてくれる。
そのお陰でとても良い。
相乗効果が得られるようになった。
間違いなく。
今回の収穫は俺にとって過去最高に大きなものとなった。
欲しかった力が得られた。
そんな俺の次なる行動は決まっていた。
もちろん、それは牛鬼との再戦。
その為に俺は再び、第二鬼門の最深部へと戻ってきた。
「ブオォーー!!」
「牛鬼、久しぶりだな」
前回と同様に牛鬼のテリトリーに俺が入ると大きな鳴き声で威嚇してきた。これが俺と牛鬼の二戦目が始まる合図となった。
しかし、俺は戦いが始まっても悠長に歩きながら牛鬼へと接近していく。その間、俺は牛鬼との初戦について思い出していた。
あの時の俺は余裕がなく、牛鬼の懐に潜り込むために走っていた。
そうしなければ牛鬼のかぎ爪攻撃を避けることができなかったからだ。
しかし、今回は違う。
正面からでも牛鬼と対峙できる。
その事が余裕を与えてくれる。
俺はゆっくりとした足取りで水面に音を立てることなく歩んでいる。
その背後には、無数の足跡が無音で波紋を作り水面に広がっていた。その波紋一つ一つに、数か月間の想いが込められている。
牛鬼との苦戦。
その時の事を思い浮かべながら必死に走り剣を振るった日々。そして、その努力が実り望んだ力を手にした時の達成感。
やっと、それらの感情を込めた力を。
牛鬼へと振るえる昂り。
「さあ、どっからでも掛かってこいよ」
「ブオォー!」
「《剣召喚》」
牛鬼は俺が射程圏内に入ると、初戦と全く同じように俺から見て左側のかぎ爪でなぎ払い攻撃を仕掛けてきた。
俺はその攻撃を見極めギリギリのところで剣を召喚し、かぎ爪を地面へと受け流す。
俺の真横では、牛鬼のかぎ爪が水面を激しく叩いて水しぶきが舞っていた。俺はその光景を横目に見ながら、剣を左下から斜め上へと斬り上げる。
すると、真横にあった牛鬼の前脚が切断されて水面へと力なく沈んでいく。
そして、二色の水しぶきが宙を舞う。
赤錆色の空を映した血のような水と、前脚の切断面から吹き出す。
牛鬼のどす黒い血。
俺はその血を避けながらもう片方の前脚へと近づき、再度剣を振るった。
「ブッオォー! ブオォーー!! 」
俺の二振りで両前脚が切断されると、少し遅れてから牛鬼の悲鳴が上がる。
その時、俺は牛鬼の悲鳴を聞きながら後方へと下がった。
「前の俺では無理だったな……」
牛鬼の苦痛に歪む顔を眺めながら、かぎ爪のなぎ払い攻撃を思い出していた。
もし前回の俺があの攻撃を剣で受け流そうとしていたら、間違いなくそのタイミングで敗北が決まっていた。
過去の自分が正しい選択をした、と思うと同時にあの時の無力感も蘇る。
「もっと、強くなろう」
俺はもう二度と。
あんな感情を味わいたくない。
だから、もっと強くなる。
そんな想いで俺は頭上に剣を掲げる。
俺は両手で剣を強く握り大きく息を吸い込み、息を止めると同時に一歩踏み出す。
「ブォッ」
牛鬼の正面へと一気に距離を詰め、渾身の一振りを牛顔へと放った。
一刀両断。
攻撃を受けた牛鬼の顔は首の付け根の辺りからパックリと二つに分かれ、無駄に綺麗な断面を露出させていた。
圧勝。
前回の苦戦が嘘に思えるほどに牛鬼は呆気なく力尽きた。こうして、俺は二度目の戦いを終えるのだった。
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