第17話 ◇村長チート

 朝食の席。

 俺が銅を貰いにおじいちゃんの家へ行ってくると母さんにも伝えると、それなら今日はみんなで行こうという流れになった。


 そういった訳で今日は久しぶりに家族四人揃って、村長ことおじいちゃんの家へと行くことになった。


「お母さん、今日は四人で来たわよ」


「えぇ、ルシアお帰りなさい」


 村長の家に着くと、庭先でおばあちゃんが藁ほうきを使って掃除をしていた。

 それに気づいた母さんがおばあちゃんのもとへと行き会話を始める。


「お義母さん、おはようございます」


「クロード君もよく来たわね」


 母さんに続いて、父さんもおばあちゃんに挨拶をしてから会話に混ざる。


「ばぁば、おはよう。今日はおにぃ~も一緒にきたよ~~」


「おばあちゃんおはよう」


「二人ともいらっしゃい」



 俺とルナも少し遅れておばあちゃんのもとへと行き挨拶をする。ルナとは一時的に気まずい関係になったけど、今は元通りの関係へと戻ることができた。


 父さんの言ったように、何も隠さずに素直な気持ちを伝えたのが良かった。もちろん、俺のすべてを話すことはできないが言える範囲では伝えたつもりだ。


「おじいちゃんはどこ――」


「ばあさん、誰か来たのか?」


 ちょうど、俺がおじいちゃんの居場所を聞こうとした時。家の中からタイミングよくおじいちゃんが現れた。



「ルシアたちが来たわよ」


「なんだと……また、ばあさんだけ抜け駆けしよって儂も混ぜてくれ」


「いい歳して走るんじゃないわよ! 転んだら危ないでしょ。まったくもう、じいさんは孫たちの顔を見るとせわしないんだから」


「じぃじまた、ばぁばに怒られてるぅ~~」



 俺たちが来たことを知ると、おじいちゃんは小走りでこちらの方へとやってきた。

 そんなおじいちゃんに呆れながら、いつもの様に叱るおばあちゃん。


 お決まりの身内芸だ。


 その光景を母さんと父さんは苦笑いをしながら見守り、ルナは笑いながら喜んでいる。


「おはよう、儂の孫たちよ」


 おじいちゃんはおばあちゃんに怒られていることを一切気にすることなく、俺たちに満面の笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「じぃじもおはよう~」


「おじいちゃんおはよう」


 俺は心の中で一瞬。

 今、村長呼びをしたら面白くなりそうだなと思ってしまった。

 だけど、今日はおじいちゃんにお願い事があって来たし、何よりもあの笑顔を壊したくないと思って村長呼びはやめた。



「ロー坊よ、最近はなかなか顔が見れなくて儂は寂しいぞ」


「おじいちゃん、ごめんね。技能に目覚めたからバタバタしてたんだよ」


「技能も結構じゃが、儂らのことも忘れないでおくれよ。孫たちの顔が三日見れないだけでも、儂の短い寿命がさらに縮まるのじゃからな。ゴホンッ、ゴホンッ」


「じいさん、つまらない猿芝居で孫たちにいらぬプレッシャーをかけるでないよ」



 おじいちゃんは今日も絶好調だな。

 そろそろ、本題の銅について話しても問題ないだろう。


「おじいちゃんお願いがあるんだ」


「なんじゃ、儂にできる事なら何でも叶えてあげるから遠慮せずに言うといい」



 俺がお願いがあると伝えると、おじいちゃんは表情を変えてから急に祖父の威厳を見せ始めた。今日はその頼りがいのある威厳にたっぷりと甘えようと思う。



「技能に銅が必要なんだ。だから、できれば沢山の銅が欲しいんだよ」


「儂に任せるのじゃ。ばあさん、今から村人全員を村長命令で集めるのじゃ。村中からありとあらゆる銅を集め――」



 ――パンッ!!



「この孫馬鹿じぃじぃッ!!」



 暴走したおじいちゃんが孫の頼みを叶えるために村長命令まで発動しようとした。


 そんな事は許されるはずがなく、おばあちゃんに藁ほうきでお尻を思いっきり叩かれて地面へと倒れこむ。


 祖父の威厳は今日も見れなかった。




 ◇◇◇




 現在、俺はボロい倉庫の中にいる。


 先ほど暴走してしまったおじいちゃんは冷静さを取り戻すと、家の近くにある倉庫の存在を思い出した。


 村長の家は村の中心にあり、家の周りにはいくつもの倉庫がある。


 収穫した作物。

 干し肉などの保存食。

 薪や石炭といった燃料。


 これらの生活に必要な物が用途別でいくつかの倉庫に保管されている。それらの倉庫を村の代表である村長が管理をし、村人たちへ平等に分け与えられている。


 これも村長の仕事だ。そういった理由から村長の家付近には倉庫がある。


 その中で一番ボロい見た目をした倉庫の中には、いつか再利用するかもしれない壊れた物がたくさん収納されている。


 その中にお目当の銅がある。


 だから、俺はおじいちゃんから借りてきた鍵を使ってボロい倉庫の中へと入ってきた。


 この倉庫にある物ならすべて吸収してもいいと許可が出ている。パッと辺りを見ただけでも、俺が欲しい銅で作られた破損品がたくさんあった。


 やかん、鍋、釜のような。

 誰かが使っていた調理器具。


 剣、短剣、槍などの壊れた銅製の武器。


 こんだけあれば。

 今回の吸収作業は一瞬で終わるだろうな。



「まずは、《進段強化》からだ」



 いつもなら感動に浸るとこだけど、今回はすぐに吸収作業へと移る。


「《素材吸収》《素材吸収》《素材吸収》《素材吸収》《素材吸収》…………」



 俺は止まることなく、目に付いた銅製品を片っ端から吸収していった。



「マジで村長チートだろ? これは……」



 おじいちゃんの威厳。

 村長チート。


 そのお陰で10分もしない内に今回の吸収作業を終えることができた。今まで苦労して走り回っていたのが馬鹿みたいだ。


 一通りの作業を終えた俺は死鬼霊剣の方へと意識を向ける。


 ――――――――――――――――――――


【剣名】死鬼霊剣〈弐〉

【剣質】良質な銅剣

【段階】弐

【解放】三


『能力一覧』 『進段状況』


 ――――――――――――――――――――



 銅剣の【剣質】は粗悪なではなく、いきなり村長チートで良質な銅剣となった。


 死鬼霊剣の【段階】は壱→弐となり、剣が二回目の進化をしたと分かる。そして、次の死鬼霊剣へと進化する条件を確認するために『進段状況』へと意識を向ける。



 ――――――――――――――――――――


『進段状況』


〈討伐〉

 ・大牙猪(0 / 50)


〈吸収素材〉

 ・銅『吸収率100%』


〈熟練度〉

 ・剣技(30 / 600)


 ――――――――――――――――――――




 討伐と剣技の熟練度条件。

 確認するのはその二つだけでいい。



 まず、討伐条件は大牙猪を50匹か。


 前回の討伐条件と比べて討伐対象が牙猪→大牙猪へと変わり、討伐数が10→50匹と条件が難しくなった。


 どちらの条件も妥当ちゃ、妥当だけど……今までみたいに短期間で死鬼霊剣を進化させるのは厳しいだろう。


 それに俺の実力的にも、まだ大牙猪を狩るのは難しく、そういった問題点もある。


 牙猪の体重が40〜60キロなのに対し、今回の大牙猪は100キロ越えの重さだ。

 そして、何よりも恐ろしいのが1メートルはある二本の大牙だ。


 全てにおいて牙猪の上位互換だ。


 とはいえ、もう一つの条件と比べてしまえば大した問題ではないだろう。


 ――熟練度600。


 いきなり剣技の達成条件が二十倍となった事には、驚きを隠せないし不安も抱く。


 俺には、剣術の上達補正と一心二体による成長速度が二倍となる強みがあるが、それらの成長補正があったとしても、必要熟練度が二十倍になるのは流石に厳し過ぎる。



「これは現実逃避レベルだろ」



 剣技の熟練度を0から30まで上げるのは補正のお陰もあって、割とすんなり終える事ができたが……これからは違う。


 どんな事でも、ある程度のところまでなら簡単に成長する事もできる。しかし、それはいつまでも続くことはなく段々とブレーキが掛かっていくものだ。


 熟練度を0から30へと上げた時のペースをいつまでも維持できるのなら良いが、間違いなくどこかのタイミングで剣技の成長速度は失速していく。


 その事も考慮して考える、と。


 剣技の熟練度条件を達成するには最低でも年近くの時間を費やすことになるだろう。



「長い道のりになりそうだな……」



 こうして、俺は現実逃避をしたくなるような達成条件を突きつけられるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る