第16話 ◇剣技

 死鬼霊剣の第三能力 《剣技》が解放されたのは2日前、父さんと五回目の牙猪狩りに行った時のことだった。


 初めて牙猪を狩った日から父さんと2日に一回のペースで狩りをした。


 最初は牙猪一匹、二回目から四回目までは二匹、最後は三匹狩ることができ。


 無事に討伐条件の牙猪十匹を達成できた。


 既に石の吸収作業は終えていたので十匹目の牙猪を討伐すると、同時に死鬼霊剣の第三能力 《剣技》が解放された。


 剣技。

 この能力は剣術の上達を助けてくれる。


 いきなり俺の剣術が上手くなるようなことはなかった。だけど、どうすれば剣術が上達するのかと、感覚的にわかるようになった。


 例えば、剣を一振りすると。


 手首の動かし方がダメだったとか。

 肩の力をもう少し抜いた方がいいとか。


 そんな感じで何となく。

 より正しい剣術の方へと導かれていく。


 これだけでも、十分な能力だと言えるけどもう一つ良いところがある。

 それは俺の意識を『進段状況』へと向ければ確認する事ができる。


 ――――――――――――――――――――


『進段状況』


〈討伐〉

 ・牙猪(10 / 10)


〈吸収素材〉

 ・石『吸収率100%』


〈熟練度〉

 ・剣技(28 / 30)

 ――――――――――――――――――――



 剣技の熟練度。

 剣術の能力が熟練度によって数値化されてリアルタイムで自身の成長を確認できる。


 この能力は想像以上にヤバかった。


 自分の成長がすぐに数値化されることで剣術への向上心が刺激される。

 これは前世にあったアプリゲームと似ていて、ログイン報酬を受け取る度にドーパミンが出ることに近い。


 快感や多幸感などが得られる。

 快楽物質。


 これは人をやる気にさせるポジティブな面もあれば、より大きな快楽や多幸感を得ようと中毒症状に陥るネガティブな面も合わせ持つモノだ。


 つまり、俺は新たな能力のせいで剣術中毒にさせられる可能性があるとも言える。そうなれば、俺の行き着く先は狂戦士とかのようなバトルジャンキーかもしれない。


 俺はそれを望んでない。

 今は強くなりと思っている。

 だけど。

 それは戦いが好きだからじゃない。


 今の幸せを守りたいから。

 大切なものを奪われたくないからだ。


 たとえ、この先。

 俺がどんなに強くなったとしても、そこだけは変わらないようにしたい。


 そう、思ってしまうほどに剣技の熟練度が俺に与える影響は強かった。


 第三能力 《剣技》を解放した夜。

 剣技の熟練度は7だった。


 それがゼクスでたった一日過ごしただけで、剣技の熟練度は14まで上がった。


 前からゼクスで身に付けた剣術がローグでも活かせることは知っていた。それが数値化して見えるだけでも嬉しいのに、今回の能力に関してはゼクスの方でも有効だった。


 剣術の上達補正。


 これがどちらの体でも使えるのは、正直に言ってチートレベルに強い。そのことが嬉しく思うと同時に危機感を持たされた。


 たったの二日間。

 それだけで俺が以前よりも剣にのめり込んでいるのが分かるから。


 今の俺は剣術が楽しくて、何もしてない時は剣を握りたくなるほどだ。


 この能力を手にしてから。

 ローグで一日、ゼクスで二日。

 剣術の訓練をした。


 そして、今日はこれから。

 ローグで二日目となる剣技の熟練度上げが始まろうとしていた。


 特に今日の朝練で剣技の熟練度が30を越えるから楽しみだ。恐らく、今日ですべての進段条件を満たし、死鬼霊剣は石剣から別の剣へと進化するだろう。




 ◇◇◇




「ローグ、随分と成長したな」


「毎朝、父さんが鍛えてくれたお陰だよ」



 今、俺は父さんに向かって木刀で打ち込みをしている。体幹素振りでは自分で召喚した剣を使うけど、父さんへの打ち込み訓練ではお互いに木刀を使っている。


 基本的に打ち込みの訓練では、俺が父さんを攻める形で行われる。

 俺の攻めに対して、父さんは攻撃を受け流すような守りの剣で対応する。


 だけど、俺が隙を晒した時は父さんからの反撃もある。


 これが木刀を使う理由だ。


 朝練初日と今では、父さんからの反撃回数は半分以下に抑えられている。


 それだけ俺の攻撃に隙がなくなったという意味だ。そんな自分の成長を実感しながら俺は『進段状況』の方へと意識を向ける。


 そこには、期待通りの結果があった。


 ――――――――――――――――――――


『進段状況』


〈討伐〉

 ・牙猪(10 / 10)


〈吸収素材〉

 ・石『吸収率100%』

〈強化素材〉

 ・銅


〈熟練度〉

 ・剣技(30 / 30)


 ――――――――――――――――――――

 

 

 剣技の熟練度が30となった。

 これで次の段階へと進められる。



「まだまだ、ローグの体力があるように見えるが……終わりにするのか」


「うん、今日もありがとう」



 いつもの俺なら体力が尽きるまで打ち込みをする。だから、父さんは俺が突然打ち込みを止めたことに疑問を抱く。



「父さん、たった今技能に変化があったんだよ。それでなんだけど、次は剣を強化するのに銅が必要なんだ。どこで銅が手に入るのか知ってる?」


「あぁ、そういう事だったか。それなら村長さんに言えば、使わなくなった銅を分けてくれると思うぞ」


「じゃあ、今日は久しぶりにおじいちゃんの家に行かないとだね」


「ローグ……用がなくても会いに行くんだ。孫の顔はいつ見ても嬉しいものらしいぞ」


「も、もちろんだよ。最近は技能のことで忙しくて会えなかっただけだよ」



 こうして、俺は久しぶりに銅を求めて村長の家へ向かうのだった。

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