第13話 ◇相談と交渉
「これからはなるべく家族を悲しませないように努力するよ。その為にも、父さんに相談とお願いがあるだ」
「おぉ、良い心構えだ。父さんが何でも聞いてやるから話してくれ」
父さんはいつもより嬉しそうな声で誇らしげな表情をした。俺が思うに、父さんは息子から頼られたことが嬉しかったのだろう。
「まずは、今日まで家族に技能を隠してたことについて話すね」
「あぁ」
俺が家族に技能をすぐに打ち明けなかったのは、ローグ側にもスキルのようなモノがあるのか、あの時点では知らなかったから。
それに家族に話してしまったら、母さんの過保護な心配によってスキルの育成が遅れることも恐れていた。
「あの日、技能が目覚めた時。最初はビックリしたけど、剣について分かってくるとだんだんと楽しくなってきた。だけど、技能が普通のことなのか……知らなくて家族に話していいのか不安になった」
「……」
「その答えがなかなか出なくて、考えることを止めたんだ。それでとりあえずは隠そうと思ったんだよ。それからは剣に夢中になってて……今、なんだ」
すべてを父さんに話すことはできない。
だけど、俺はなるべく嘘をつかないようにと意識しながら説明した。
「ごめんな。父さんと母さんは子どもたちが技能に目覚めたらすぐに話してくるもんだと思ってたんだ。父さんたちがそうだったからな。今になって思うと、ちゃんと技能のことを教えておけばよかったと後悔してるよ」
俺の話を聞いた父さんは少し申し訳なさそうに答えた。確かに、父さんの言う通りで技能について話してくれていれば良かった。
だけど、二人の考えも分からなくはない。
普通の子どもだったら、家族にすぐ技能を見せたり話したりするだろうし。
「いいんだよ。前向きに考えたら、今回の事は父さんと二人で話す良いきっかけになったからね」
「確かに、そうだな。ローグは昔から賢い子だったから。自分から父さんたちを頼ってくることがなかったよな。父さんは寂しかったんだぞ」
俺が秘密を打ち明けたからか。
父さんはいつもより本音で話してくれた。
「え、そうなの?」
「そんなに意外だったか。父さんはな、自分が子どもだった時のことを思い出しながら、あの時は……あんな事が分からなくて悩んだりしたな。だから、ローグも父さんと同じ事で悩むのかもしれない。その時はどうやってローグに教えようかと、いろいろと考えてたんだぞ」
「そうだったんだ」
父さんがそんな事を考えていたとは知らなかった。俺は意外なことへの驚きと、それを息子に話してもいいのか、と。
少し戸惑っていた。
「あぁ、賢い息子が誇らしい半面で頼られないことに寂しさも感じていたんだ。自分が父親の大きな背中を見て育ったように、父さんも息子のお前にカッコいい姿を見せ――」
「と、父さん?」
やはり、俺の戸惑いは正しく。
話の途中で父さんは、いきなり自分の両手で頬を軽く叩いてから口を閉じた。
「気にするな。少し胸の内を話し過ぎてな、羞恥心に耐えられなくなっただけだ。この話をこれ以上続けたら、父さんはどうにかなりそうだよ」
「ハッハハ、何それ」
そんな父さんの態度を見て俺は思わず笑ってしまった。
いつも落ち着いている父さんがこんな姿を見せるとは想像もしなかったからだ。
父さんは俺に胸の内を話し過ぎて。
恥ずかしくなった。
だから、自分の頬を叩いて。
気持ちを落ち着かせた。
前世で父親という生き物は息子や娘の前ではカッコつけたがる。そんな話を耳にしたことがあった。
前世の俺には、父親がいなくてその話を聞いてもピンとこなかった。
それがやっと理解できた。
その事に俺は何とも言えない。
幸福感のような感情を得た。
父さんの普段は見せない。
姿と本音に触れたことで、以前よりも親子の距離が縮まったと思えた。
もしかしたら、今日やっと父さんと本当の親子になれたのかもしれない。そんな感情を抱きながら俺は話を続ける。
「それで技能の剣をはやく育てたい気持ちと今まで通りにルナと遊んであげたい、という気持ちで悩んでるんだ。昨日みたいなルナの顔はもう見たくないからさ」
「ローグ、難しく考えるな。お前がやりたいようにすれば良いんだよ。その代わり、ルナには何も隠さず素直に言うんだぞ。そうすれば、寂しくてもきっとわかってくれるさ」
「そうかな……」
父さんは隠さずに話せばルナもわかってくれると言った。俺はそれを聞いてもよく分からないというのが本音だった。
「ローグは賢いから何事も難しく考えすぎなんだよ。俺たちは家族だろ? 家族に遠慮する必要はないんだよ。特にお前たちはまだまだ子どもなんだからさ。ありのままの姿でいいんだよ」
「いいのかな?」
「いいんだよ。家族に壁なんか要らないんだ。普段は自分のやりたいように過ごせ。もし家族の誰かが困った時、その時はお互いに助け合えばいいんだよ。それが家族じゃないのか?」
「わかったよ。ルナには、正直に自分の気持ちを話してみるよ」
難しく考えすぎなんだよ。
という父さんの言葉が胸に刺さった。
今の俺は子どもの姿だけど、中身は大人の自分がいる。だから、子どもなら考えないことも余計に考えてしまう。
それが家族との壁を作っているんだ。
まだ、父さんの言うことは半信半疑で実感することは出来ていない。だけど、俺はもう少し素直に我儘な自分になろうと思えた。
「それで父さんにお願いがあるんだ。時間がある時でいいからさ、森で一緒に狩りがしたいんだよ」
「なぜ、そうなるんだ……」
相談を終えた俺がいきなり狩りに行きたいと言ったから。父さんは少し呆れたような声で俺の言動に疑問を抱く。
「さっき父さんが聞いたよね……『その技能の為に村の外へ行ったのか』と。うん、そうなんだよ。この技能は強くするために、素材の吸収と獣の討伐が必要なんだ」
「ほんと、ローグの技能は変だな。父さんと同じ剣の技能なのにな」
俺の技能について話すと、父さんは自身の能力との違いに不思議そうな表情をした。
「次は牙猪の討伐が必要で、村の中でも狩れればいいんだけど無理だからさ」
「当たり前だ。もしも村で牙猪が見つかる様な事があれば、狩り人団が村の皆から責められる。あんたたちが仕事をサボるから子どもたちを安心して外にも出せないってな」
「まあ、そうなるよね。冗談はこの辺にしてこのままだと技能の成長が止まっちゃうんだよ。だからと言って、前回みたいにこっそりと村を抜け出したら、母さんたちが心配するでしょ。それは避けたいから父さんにお願いしてるんだよ」
「もう少し待てないのか?」
俺の話を聞くと、父さんは少し考えてから真剣な表情でもう少し待てないのか、と俺の意思を再確認してきた。
「待ちたくないよ。今は父さんたちのお陰で村は安全だけど、それがこの先も続いていく保証はないでしょ。そうなって欲しくはないけど、そうなった時の為にできるだけ早く強くなりたいんだよ。家族や村の大切な人たちを失いたくないからさ」
「わかった。一度、試しに連れてってやる」
「父さんありがとう」
「話は終わりだ。さあ、帰るぞ」
俺の想いが通じたのか。
それとも父さんの優しさなのか。
父さんは覚悟を決めた表情を浮かべてから連れてってやる、と俺に言ってくれた。
話を終えて家の方へと歩き出す。
父さんの背中はとても大きくて。
カッコよく見えた。
「ルシアをどう説得するかな……」
どうやって母さんを説得するのかと、頭を掻きながら悩み出すまでは。
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