第12話 ◇父の技能
「ローグ、父さんに何があったのか話してくれないか? 母さんもローグの様子がおかしいと凄く心配しているんだ」
今日の畑仕事が終わった後。
父さんと母さんは俺たちを迎えに来た。
母さんはそのままルナを家へと連れ帰り、父さんは俺と一緒に人気のない静かな場所へと移動した。
父さんに連れて来られた場所には、二人が腰かけるのにちょうど良い大きさの岩があった。そこに二人で横並びに座ると、父さんは昨日の続きを話し始めた。
「父さん、自分でもまだ理解しきれてないから……説明するのは難しいんだよ。だから、見せてもいいかな?」
「いいが……何を見せるんだ?」
俺は今後も家族にスキルを隠したまま生活するのは難しいと思った。これ以上スキルを隠し続けて、昨日みたいに家族との関係が悪くなるのは避けたい。
だから、まずは父さんにスキルのことを打ち明けると決めていた。俺はゆっくりと立ち上がり、父さんの正面へと移動する。
右手を父さんの方へと向け。
「《剣召喚》」
「ッ!? 技能だったか。技能に目覚めていたと考えれば、ローグの様子がおかしかったことにも納得がいく」
俺がスキルを披露すると。
父さんは目を見開いて驚きを表すと、何かに納得したような表情を浮かべた。
「技能?」
「あぁ、そうだ。今、ローグが父さんに見せてくれたような特別な能力を技能という」
父さんの反応からしてヤシャ村にもスキルを持つ人たちがいるのだと分かった。
帝国ではスキルと呼ばれていたが、村だと技能と言うらしい。
「ローグ、その剣を俺に貸してくれ」
俺は言われた通り。
父さんに死鬼霊剣を手渡した。
なるほど、俺以外でも。
拒絶しない限りは持てるのか。
「次は父さんの番だな――《黒炎》」
「ッ!?」
剣を手にした父さんは少し悪い笑みを浮かべながら俺を見た。
それは父さんなりの仕返しだった。
技能で驚かされたから。
自分も同じ技能で驚かす。
そんな父さんの思惑は上手くいき、今度は俺の方が驚いてしまった。
父さんの右手に握られた。
剣には、黒い炎が纏われていた。
最初は父さんなりの演出だったのか。
無駄に大きな黒炎を纏わせていた。
俺が驚いた反応を満足げに確認した後。
父さんは技能を上手く制御し、無駄のない大きさへと黒炎を変化させた。
「どうだ、驚いただろう」
「うん、凄かったよ。父さんの技能は黒い炎を出したり、動かしたりできるの?」
「黒炎はあくまで補助だな。ローグみたいに何もないところから剣を出すことはできないが、父さんも剣の技能持ちだ」
黒炎の魔剣士。
まさか、父さんも魔剣士だったのか……。
魔剣士とは、剣技だけでなく魔法も使うことができる剣士のことだ。剣と魔法の二つの要素があるスキルなので、シンプルなスキルと比べて使いこなすことが難しい。
だから、人によってはどちらも中途半端な能力しか身につかず、器用貧乏な魔剣士になることもある。
つまり、魔剣士は使い手次第。
俺には、魔剣士に関するある程度の知識と理解がある。それはゼクスの父、シリウス・グラディウスも魔剣士だからだ。
ゼクスの俺がスキル開花の試みで父上から期待されていたスキルこそ。
まさに、魔剣士系統のモノだった。
ローグとゼクス。
どちらの父親も魔剣士だったのか。
そんな新たな発見をした俺は、気になったことを父さんに聞くことにした。
「父さんの技能はどうやって強くなったの? 最初から強かった訳じゃないでしょ」
「その通りだ。父さんの場合は、剣も黒炎も使えば使うほどに強くなったぞ」
やっぱり、同じだ。
父さんが持つ魔剣士の技能も経験によって強くなっていくのか。呼び方はゼクスの方とは違うけど、スキルも技能も同じモノだと考えてよさそうだ。
「そうなんだ。じゃあ、この技能とはやり方が違うだね。父さん、剣の先を見てて」
「ローグ、今度は何をするんだ」
「《素材吸収》」
「石が、消えた……」
俺は一番近くにあった石に死鬼霊剣の剣先を向けて、父さんの視線を確認してから石を吸収させた。
今までの俺の行動を説明しつつ、父さんに今後の相談をするためだ。
「父さん、この剣は特定の素材を吸収することで強くなるんだよ。最初に召喚した時はボロボロな木剣だったんだ。それが木の枝をたくさん吸収したことで綺麗な木剣になって、今では見ての通り石剣になったんだよ」
「そんな剣の技能もあるんだな。という事は……昨日は素材集めに夢中になり過ぎて、ルナとの約束を忘れたのか」
「そうなんだ」
「よく話してくれた。つまり、ローグが剣の技能に目覚めたから最近の様子がおかしかった。それに加えて、素材集めの時間が増えてルナと遊ぶ時間もなくなった。これで父さん以外の疑問はすべて解決した訳か……」
俺から聞いた話をまとると、父さんの表情は急に真剣なものへと変わる。
「ローグ、父さんから最後の質問だ。その技能の為に村の外へ行ったのか」
「なんで、わかっ――イテッ!」
父さんの表情が変わった理由。
それは俺の頭に落とされたゲンコツの痛みによって理解することになった。
「当たり前だ。あの日、ローグの体や服から漂う森の微かな匂いに父さんが気づかない訳ないだろう」
確かに、言われてみればそうだった。
狩り人団の父さんなら森の匂いに気づいていてもおかしくなかった。そんな簡単なことにも気づかないほどに、俺は剣の育成にのめり込んでいたのだと実感させられた。
「昔、父さんも興味本位で村の外へ出たことがあった。当時は分からなかったが……父親になってからそれがどれほど愚かなことだったのかを痛感させられたよ。だから、父さんはローグに強く言うことはできない。だけど知っておいて欲しいんだ」
「……」
「狩り人団が日々、村の周囲で危険な獣たちを間引きしているが……だからと言って必ずそういった獣に出くわさないとは限らない。もし、それが起こってしまったら家族や村の人たちがどれほど悲しむことになるか。一回でいいから想像してみて欲しい」
「うん、すごく悲しい」
「そうなんだ。もし、ローグに何かあったら父さんも母さんもルナも凄く悲しむ。頼むから今後は家族に心配をかけるようなことはよしてくれ。ルシアやルナが悲しむ姿を見るのは耐えられない」
「父さん、わかったよ」
一人で森に行くことが心配される事だとは分かっていた。だけど、一回だけだしバレなければ問題ないとも思っていた。
そんな軽い気持ちだった。
父さんの言葉を聞き、俺はまだ家族というものを理解しきれずにいると実感した。
頭では分かっている。
けど、感覚的には分からない。
俺は今世の5歳を境に前世の呪縛から解放されたが、前世の経験はそのままだ。
だから、家族を心から受け入れ。
本当に愛していたとしても。
まだ馴染み切れずにいる。
前世で家族だった母親との接し方や距離感が未だに、経験として残っているからだ。
それが感覚的なズレを生む。
頭ではしっかりと理解している。
理性は適応できている。
でも、本能の方は未だにズレがある。
この問題は俺が頑張ったとしても、すぐに解決できるような事ではない。そう思っていたから今までは一人で抱え込んでいた。
俺は今回の事がきっかけとなり、一人だけで抱え込むことは良くないと思えた。
だから、父さんを頼ると決めた。
俺には前世と一心二体の事もあるし、すべてを打ち明ける事はできない。
だけど、せめてローグとしての問題や悩みについては家族に頼らない、と。
「これからはなるべく家族を悲しませないように努力するよ。その為に、父さんに相談とお願いがあるだ」
「おぉ、良い心構えだ。父さんが何でも聞いてやるから話してくれ」
こうして、俺はまた一歩。
家族との距離を縮めるのだった。
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