第9話 ◇進段強化
「や、やっと、終わったッ!!」
俺は『はぁはぁ』と息を切らしながら吸収作業が終わった喜びから呼吸が整わない内に歓喜の声を上げた。
そんな興奮状態の俺は声を上げるだけでは収まらず、右手に握られた木剣を天に向かって勢いよく掲げた。
俺が息を切らしているのは、吸収率が99%となってから残り1%だと舞い上がり吸収作業のペースを一気に上げたから。
はやくッ! もっと、はやくッ!
一秒でも早く、素材の吸収率を100%にしたいという気持ちで木の枝を求め、俺はほぼ全速力で走り回っていた。
いつもの俺らしくはない。
だから、心配になる。
村の誰かに見られていないか、と。
もしも、誰かに見られていたら間違いなく恥ずかしさを数日引きずることになる。
それは避けたい。
吸収作業が終わってから数分後、俺の中で達成感や好奇心による興奮が少しずつ収まっていき、冷静さを取り戻していく。
俺が感じていた達成感は九日にも及ぶ吸収作業が終わったことからだ。そして、作業が終わった事により死鬼霊剣が木剣からどんな姿へと変化し、成長を遂げるのか?
という期待で好奇心が掻き立てられた。
「すうぅ……はぁーー」
俺はこのまま喜びに浸っていたい気持ちもあったが、それ以上に早く次に進みたいという想いから深呼吸をする。
よし! 順番に情報整理しよう。
――――――――――――――――――――
【剣名】死鬼霊剣〈零〉
【剣質】良質な木剣
【段階】零
【解放】二
『能力一覧』 『進段状況』
――――――――――――――――――――
やっぱり、剣の【剣質】は素材の吸収率が50%で粗悪な木剣から木剣へと変わり、その次は吸収率が100%で木剣から良質な木剣へと変化した。
この事から【剣質】は悪い→普通→良いの三段階あることが分かった。
あとは木剣の吸収率が100%になったことで新たな能力が解放された。
その能力とは――。
――――――――――――――――――――
『能力一覧』
〈初期能力〉
・能力 《剣召還》
・特殊能力 《解》
〈解放〉
・第一能力 《素材吸収》
・第二能力 《進段強化》
・第三能力 《――》
――――――――――――――――――――
「よしッ! 《進段強化》だ!!」
俺は新たに解放された第二能力を認識したことで、また感情が爆発する。
今日の俺は情緒不安だな。
前世の心が壊れていた頃の俺だったら落ち着いていられたかもれないが、現在の状況だと情緒が乱れない方がおかしいか。
本当に、転生してからの俺は。
心がよく動く様になった。
そんなことを思いながら、解放された第二能力 《進段強化》について考える。
この能力を待ってたんだよ。
ずっと、楽しみにしていた死鬼霊剣〈零〉をレベルアップさせる能力だ。
俺が興奮するのも無理はない。
早速、俺は死鬼霊剣〈零〉をレベルアップさせる為の条件を意識して確認する。
現在の『進段状況』は――。
――――――――――――――――――――
『進段状況』
〈討伐〉
・兎(1 / 1)
〈吸収素材〉
・木の枝『吸収率100%』
〈強化素材〉
・石
――――――――――――――――――――
木の枝……の次は石か。
第一能力 《素材吸収》の時は〈吸収素材〉として必要だった木の枝を吸収することで剣が強化された。
第二能力 《進段強化》の方は〈強化素材〉として石が必要らしい。
一個だけで良いんだよな?
また何日もお預け食らうのは精神的に耐えられないと思う。とりあえず、少し大きめの石を使って試してみることにした。
「《進段強化》」
ん……何が変わったんだ?
右手に握られた木剣を見るも、パッと見ただけでは変化がわからない。
「おッ!? これか……」
よく見てみると、木剣の剣先だけが石のような物で少し覆われているのを発見した。
という事は――。
――――――――――――――――――――
『進段状況』
〈討伐〉
・牙猪(0 / 10)
〈吸収素材〉
・石『吸収率1%』
――――――――――――――――――――
認識してしまった討伐条件の牙猪も気になるところだが……今はスルーだ。
やはり、俺の予想通りで〈吸収素材〉が木の枝から石へと変わっていた。今、俺の手に握られている木剣は剣先にチョロっと〈強化素材〉として使用した。
石がある程度だ。
これは石の吸収作業を進めていくことで剣の全体が石で覆われ、木剣から完全な石剣へと変化していくのだろう。
今の剣は見た限りだと、木剣がメインで石が装飾品みたいなオマケ扱いだ。
これは木剣or石剣どっちだ?
――――――――――――――――――――
【剣名】死鬼霊剣〈壱〉
【剣質】粗悪な石剣
【段階】壱
【解放】二
『能力一覧』 『進段状況』
――――――――――――――――――――
木剣か石剣の答えは【剣質】が粗悪な石剣となっているのを確認して解決された。
まだ時間もあるし、今日中に見た目の方も石剣になるまで育てたいよな。
石ならそこら中にあるし、イケるよな。
次はやっと上がった【段階】に意識を向けてみる。新たに解放された能力 《進段強化》により【段階】は零→壱となった。
それと同時に【剣名】の方も変化した。
死鬼霊剣〈零〉から死鬼霊剣〈壱〉へと。
これによって。
俺の中で曖昧だった認識が改められた。
今までは【剣名】を死鬼霊剣〈壱〉なんだと認識していたが、名前の横にある〈―〉が【段階】を表していたと明確に分かった。
なので、これからは死鬼霊剣〈壱〉と呼ぶことはせず、死鬼霊剣とだけ呼ぶ。
それともう一つ分かったのが。
俺は【段階】が上がることをレベルアップのようなものだと予想してたけど違った。
レベルアップでなく、進化の方が適切だと今は認識している。
それにより【段階】が上がるというよりも進むと言った方のが正しいだろう。
よく考えてみれば、レベルアップだったのなら『進段状況』ではなく『昇段状況』とかで認識していたと思う。
つまり、死鬼霊剣は『進段状況』で認識する事のできる条件を全て達成すると第二能力 《進段強化》が使用可能となり――。
――死鬼霊剣は進化する!
この事は死鬼霊剣〈壱〉へと進化後に確認した『進段状況』から〈強化素材〉が消えていた事によって判明した。
こんな感じでスキルが育っていくと認識が改めてられていくのか。
これは面白いッ! 面白いぞ!
俺の持つスキル死鬼霊剣への探究心がどんどん膨れ上がっていく。
もっと、もっと。
死鬼霊剣について。
知りたい、強くしたいと。
まだまだ謎の多い死鬼霊剣だけど、今回の新たな能力 《進段強化》を使用した事により基礎的なことはある程度わかった。
ゲームでいうと……丁度、チュートリアルが終わったくらいか。
これから楽しくなるんだろうな。
それからの俺は死鬼霊剣の見た目が完全に石剣となるまで、吸収作業を上機嫌で行なってから帰宅した。
――帰りが遅くなったことで。
小さな可愛い悪魔が頬を膨らませ。
俺の部屋で待ち構えてるとも知らずに。
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