第5話 ◆スキル開花

 スキル開花。


 ゼクス側の世界には、スキルという不思議な力を持つモノが存在する。

 もしかしたらローグ側の方にもあるのかもしれないが、7年間ヤシャ村で生活した中では一度も聞いたことはない。


 スキルとは、前世のゲームに出てくるのと似たようなモノだった。

 どんなスキルでも、所持するだけで人生が有利になる。もしもそのスキルが強力なモノならば、一代で富を築くことも可能だ。


 人々の人生を大きく左右する特別なスキルは、全員が平等に所持できる訳ではない。

 また、所持者であっても一人で複数のスキルを所持する事はできない。


 つまり、この世界ではスキル所持者と未所持者の二通だけが存在する。


 スキルは遺伝的な関係も強いらしく、平民の場合だとスキル所持者の方が珍しい。


 逆に貴族といった特権階級に属する者たちの場合だと、殆どの者が何かしらのスキルを所持している。

 スキルを持った者たちが社会で成り上がると考えれば、貴族の多くがスキルを所持しているのも頷けるだろう。


 そんな何らかの特別な力を秘めたスキルを取得する方法は二つある。


 一つ目の方法は12歳の少年少女の為に行われる『開花祭』という祭りだ。

 この祭りのメインイベント『開花の儀』を終えると、スキルを所持する事のできる少年少女の全員がスキルを取得する。


 逆に言えば『開花の儀』を終えてもスキルを取得できなかった少年少女たちは、残念ながらスキルを一生得ることない。


 この世界での12歳とは、大きなターニングポイントの一つと言えるだろう。



 行事の名前にもある『開花』というのは、スキルを取得する瞬間の事を指す言葉だ。


 一つ目の『開花の儀』による開花については『強制開花』などと呼ばれている。


 今日、俺が試みるのは『強制開花』ではなくて『自然開花』などと呼ばれている。


 もう一つの開花方法だ。


 何が『開花の儀』を行いスキルを強制的に開花させる『強制開花』と違うのか?



 一つ目の開花方法は、スキルを所持できる者ならば確実にスキルを開花できる。これを12歳以上の者に行う場合は問題がない。


 しかし。


 12歳未満の者へ行えば後遺症が残ったり、最悪の場合は命を落としてしまう。


 この事から『開花の儀』が行われる。

 年齢は12歳となっている。


 一つ目の『強制開花』は確実に開花できるというメリットがある。その一方で12歳まで成長しないと行えないという。


 大きなデメリットがある。


 それに対して『自然開花』の方には年齢を問わないというメリットがあるが、開花する方法は分からない。


 開花の方法が分からないと言っても開花を試みるやり方はいくつもある。その中で一番簡単なやり方は過去に『自然開花』をした人達と同じ事をする。


 例えば、俺が剣術に関連したスキルの才能を秘めていたとする。その場合だと、過去に剣術に関連したスキルを『自然開花』させた人達と同じ事をすれば良い。


 まずは、剣に触れてみる。


 これがダメなら剣を実際に素振りしてみるだったり、剣術の稽古を見学するなどの方法で剣術に関する経験と知識を得る。


 しかし、俺に秘めているスキルが剣術系統ではなかった場合は意味がない。


 これが『自然開花』の難しいところだ。


 まず、自分がスキルの才能を秘めているのかも分からないし、秘めてたとしても何系統のスキルなのかが分からない。


 だから、多くの者たちは『開花の儀』へと参加して『強制開花』を試みるのだ。


 だったら最初から『開花の儀』でスキルを開花させると決めて、何もせずに時が来るのを待てば良いと思うだろう。


 皆が『自然開花』を試みるのは、スキルに成長期の様なものがあるからだ。


 成長率は若ければ若いほど高い。


 つまり、同じスキルでも10歳で開花させるのと12歳で開花させるのでは、スキルの強さが大きく変わるという事だ。


 スキルは使えば使うほど強くなると言われているので、前世で遊んでたゲームのようにレベルや熟練度があるのだろう。



 まとめると、この世界ではスキル所持者と未所持者には大きな差がある。

 それに加えて、スキルの開花時期によっても差が生まれてしまう。




 ◆◆◆




「《ファイアボール》」


「《ウォーターボール》」


 現在、スキル開花の試み中。

 今は属性魔法を見せてもらっている。


 この世界には、なんと魔法が存在する。


 俺が今日一番楽しみにしていたのは、間近で魔法が見られることだ。

 まさか、本物の魔法を見られるとは夢にも思わなかったので、ゼクスとして初めて魔法を見た時は興奮した。


「《エアボール》」


「《ロックボール》」


 魔法は大きく分けて無属性魔法と属性魔法の二種類がある。

 無属性魔法の方は誰でも使えるけど、属性魔法の方はスキル持ちだけだ。


 属性魔法は火、水、風 、土、氷、雷、光 、闇の八属性があるとされている。


 ごく稀にだが、この八属性に当てはまらない属性もある。


 それらは『特殊属性』と呼ばれている。


 もしも、俺のスキルが『特殊属性』の魔法だった場合は今日開花する事はない。


 グラディウス伯爵家が『自然開花』の試みの為に用意するのは八属性のみだから。


 それでも十分に凄い事だ。


 村生まれの平民とかだと、一つの属性魔法すら見れない可能性もありえる。


 家族仲が悪くて憂鬱な日々でもグラディウス伯爵家には、権力と財力がある。

 今回の『自然開花』の試みだったり、教育に関しては良い環境だ。


 ただ、ローグ側の楽しい生活と比べちゃうと……俺にとっては微妙な環境となる。


「《アイスボール》」


「《サンダーボール》」


 だよな、なんとなく予想はしていたが今年も『自然開花』の試みはダメそうだ。


 少し離れたところから仁王立ちでこちらの様子を伺う父上の表情が……少しずつ険しいものへと変わっていく。

 環境が良いだけに貴族のゼクス側はプレッシャーが凄いんだよな。



 グラディウス伯爵家の教育方針としては、自由に過ごさせるのは5歳までだ。


 5歳になると、リユニオン帝国の貴族として最低限必要な教育が始まる。

 教育の内容としては、言語学、礼儀作法、歴史、地理、算術、武術となる。


 この中で武術だけはスキルの影響を大きく受けてしまう。その為、スキルが開花しなければ7歳までの間は戦闘に関連した知識などを中心に学ぶことになる。


 なので、あまり実践的な事はしない。


 しかし、7歳になると『自然開花』の可能性は低いと判断して諦める。その理由としてはいつまでも武術の実践的な教育をしないのはマズいからだ。


 このような理由からグラディウス伯爵家では、7歳の時に行われるスキル開花の試みを最後の機会としている。


 その最後の機会で何の成果も得られなければ、グラディウス家では剣術の教育が始まることになっている。



「《ライトボール》」


「《ダークボール》」



 たった今、八属性の魔法を見終えたことで今年の開花の試みも終わりを迎えた。


 最後の機会を逃した俺は、今日の午後からスキルに関連しているのかも分からない。


 剣術の稽古が始まるのだった。


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