第3話 ◇ローグの家族

 転生から7年の時が経ち。

 俺は7歳となった。


 2年前の今日。

 俺は今世を受け入れる覚悟を決め、今では前向きな思考を取り戻して、充実した日々を過ごしている。


 以前は喜びや幸せを感じても。

 受け入れられなかった。


 マイナス思考が邪魔をして、気づけば前世のように拒絶していた。

 それが今では、些細なことでも喜びを感じられるようになった。


 例えば。

 今、俺が食べている麦。

 麦にお湯をかけただけの質素な朝食を美味しいと感じている。


 麦が好きだからではない。


 家族四人揃って一緒に食べる朝食がこの上なく美味しいから。


 現在の俺、ローグは幸せだ。



「ローちゃん嬉しそうね」


「今日はローグの特別な日だからな」



 いつもと違う表情だったのだろう。

 母さんは子どもたちのちょっとした変化でも見逃さない。

 前世では感じられなかった。

 母親の凄さだ。


 父さんは俺が誕生日だから浮かれているのだと思ったらしい。

 確かに、俺は誕生日という特別な日に少し浮かれているが、一番の要因はそれではなく前世という比較対象があるからだ。


 それが尚更に。


 朝食の何気ない家族との団欒をいつも以上に特別なものだと感じさせている。

 

 ほんと、俺を救ってくれた。

 両親には感謝の気持ちでいっぱいだ。



 俺の母さんの名前はルシアといい。

 長い黒髪と紫眼が特徴的な美人さんだ。


 そんな美人な母さんと幸運にも結婚する事ができた父さんの名前はクロード。


 父さんは俺と同じ黒髪黒眼で一番の特徴は厳ついことだ。父さんの見た目は、筋肉質で体格が大きく前髪を後ろに流している。


 昔は髭もあったらしいが母さんの強い希望により今ではなくなった。



「うん、今日は――」


「おにぃのたんじょうびぃ~」


 今日は誕生日だからと、俺が言い終わる前に妹のルナがフォークを持った右手を上げながら元気よく答えた。


 ルナは母さんによく似ていて綺麗な黒髪を肩まで伸ばしている。眼の色は紫ではなく、俺や父さんと同じ黒眼している。


「ルナ、お行儀が悪いわよ」


「おにぃの誕生日でも~?」


「関係ないでしょ」


 俺の可愛い妹は5歳でまだまだ子どもだ。

 いつもは行儀よく食べれても、面白いこと楽しいことがあると気が逸れてしまう。


 そんなルナを母さんが注意する。


 母さんが子どもを『ちゃん』付けではなく呼び捨てにする時は、決まってお説教だ。



「今日は仲間たちとローグのために、大牙猪を捕まえてくるからな」


「うん、楽しみにしてるよ。僕も狩りをしてみたいな~」


「ローちゃんはまだ小さいんだから、狩りをするなんてダメよ!」


「母さんわかってるよ。いつかは僕も狩りに参加してみたいなって話で、今は畑仕事の方を頑張るよ」



 父さんの職業は狩り人だ。

 村の『狩り人団』に属している。


 そこには父さんと同じ狩り人達が集まり村の為に、食料の確保や危険な猛獣達が村へと近づかないようにと日々間引いている。


 そんな『狩り人団』で父さんは団長を務めているから息子としては鼻が高い。


 現在の我が家は父さんが狩り人で、母さんが専業主婦をしている。俺はまだ7歳なので遊んでても許されるが……日本の記憶があるから子ども遊びは楽しめない。だから、自主的に村の畑仕事を手伝っている。


 狩りができるくらいに成長したら畑仕事の手伝いをやめて、父さんと一緒の狩り人団に参加する予定でいる。



 ◇◇◇



 朝食を済ませた後。

 俺、ルナ、父さんの三人は家を出た。


 父さんの肩に乗ったルナはニコニコと嬉しそうに、村のあっちこっちを見ている。



 俺がローグとして転生したのはマヒョウ島にあるヤシャの村。まだ7歳の俺は行動範囲が限られているので、マヒョウ島がどれほどの大きさなのかは分からない。


 聞いた話しによるとマヒョウ島にはヤシャの村しかないらしい。そうなると、そこまで大きな島ではないと思う。


 ローグが暮らすヤシャ村での生活は農耕民族に近い。村にはたくさんの畑があり、それだけでも食糧には困らない。

 それにマヒョウ島には、ヤシャ村しかないので税金として食糧を納める必要もない。

 村人達はそういったプレッシャーもなく、皆が自由にのびのびと暮らせている。


 文明レベルは前世と比べれば低いが、それでも村での生活はとても良いものだ。


「ローグ、ルナのことよろしくな」


「うん、任せて」


「おにぃ、おてて~」


 家から村の中心へと10分ほど歩いたところに共同水くみ場がある。そこで父さんは立ち止まり、肩からルナを下ろす。

 ルナは肩車が終わると、俺の左手を触り『おてて』と言いながら手繋ぎを求める。


 可愛い妹のお願いを断るはずもなく、俺は優しくルナの手を握った。


 それから父さんは俺たちと別れ、村の門がある方へと去っていった。門の近くには狩り人団の小屋と倉庫があり、そこで仲間たちと待ち合わせて狩りに行くのだ。


 父さんと別れてから俺とルナはそのまま村の中心へと手を繋ぎながら歩いていく。


 そして、目的地。

 村長の家へとたどり着いた。


 こうして、二人で共同水くみ場から村長の家まで通うようになったのは、ルナが5歳になった時から。我が家では、3歳から自宅の庭で遊ぶことが許され、5歳から村の中ならと門限付きで許可される。


 今年の六月でルナが5歳となり、九月に俺が7歳となった。


 この世界にも四季があり、春夏秋冬で前世と同じように環境は変化する。現在の季節は暑い夏から秋へと変わろうとしている。


 ヤシャの村では春に種まきが始まり、秋に育った作物の収穫が始まる。

 なので、この時期の畑仕事は収穫だ。


「村長、おはようございます」


「ロー坊おはよう。今日もよく来てくれた」


 俺から朝の挨拶をすると、村長は嬉しそうな表情を浮かべながら返事をした。


「おばあちゃんもおはよう」


 俺が村長に挨拶をしていると、ルナがおばあちゃんを連れてやって来た。気づいた俺はおばあちゃんにも朝の挨拶をした。

 すると。


「おはよ――」


「――ちょっと待ったぁー! ロー坊よ……なぜじゃ、なぜなのじゃ!? ばあさんだけ『おばあちゃん』と呼び、なぜ儂のことは『村長』と呼ぶのじゃ?」



 おばあちゃんの言葉を遮って、村長が声を荒げながら抗議を始めた。



「じいさん煩いわよ! 皆が見てるのよ! 村の代表である村長として、あなたは恥ずかしくはないのかしら?」


「じぃじおもしろい。また、ばぁばに怒られてるぅ~~」



 実は母さんの両親が村長夫婦なので、俺とルナは二人の孫ということだ。

 人前では『おじいちゃん』とは呼ばずに『村長』と呼んでるんだけど……時々、騒ぎ出してしまう。

 そうなると、いつものように村長ことおじいちゃんはおばあちゃんに叱られる。


 ヤシャ村には500人ほどの住人がいて、その代表である村長は『孫馬鹿』が発動してしまうと威厳がなくなってしまう。

 俺にとっては、前世でどちらの祖父母にも会ったことがないから嬉しい光景だ。


 今世は優しくて温かい家族と、村の人達に恵まれたお蔭で本当に良い幼少期を過ごせていると、日々感謝の気持ちで一杯になる。



 さて、今日も畑仕事を頑張りますか。



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