第4話 4日目 ヴィランドリーへ
トラベル小説
今日は、ロワール川沿いの城をめぐる。
まずは、ジャンヌ・ダルクとシャルル王太子(7世)が初めて会ったシノン城をめざす。ロワール川ぞいの道は走りやすい。ほとんど直線なので快適に走れる。途中、ブロワ城やショーモン城といった瀟洒な城が見えたが、長谷川さんの眼中にはない。今回の旅はジャンヌの足跡をたどる旅なのだ。
昼前に、目的のシノン城についた。ロワール川の支流ヴィエンヌ川のほとりの丘に建っている。1429年、17才のジャンヌは500km以上の道のりを越えて、ここまでやってきたのである。ここで有名な逸話がある。シャルル王太子は、ジャンヌが神の使いということを確かめるために、替え玉を玉座に座らせて、自分は家来に扮して人々の間に紛れていた。ところが、ジャンヌは偽の王太子には目もくれず、面識のない本物の王太子の前にひざまずいたということである。これでジャンヌは聖人として認められたとあるが、後日談があった、重臣がジャンヌに教えたという説がある。重臣にとっては、王太子に王位を継いでもらいたいという願いがあったからだという。どちらにしても、ここシノン城は歴史の大舞台になったのである。
シノン城は廃墟であった。対岸から見ると細長い壁が続く大きな城に見えるが、中は荒廃している。ジャンヌを迎えた大広間も今は暖炉跡しかない。長谷川さんは、じっと立ち尽くしている。何を思っているのだろうか。
ふもとのビストロでフライドチキンを食べた。細長いチキンで、それほどうまいとは思えなかった。
次に向かったのが、ロシュ城である。ここはジャンヌがオルレアンを解放して、ここに住んでいたシャルル王太子に、ランスでの戴冠を進言したのである。ここも廃墟となっている。高さ36mの尖塔だけが往時の威容を残している。ここでも、長谷川さんは無言だった。
3時になり、
「ヴィランドリーに行きましょう」
と声を発した。
「ヴィランドリーって、ジャンヌと関係あるんですか?」
「ないです。NHKで空撮の番組があったの。それで見て、行ってみたかったの」
「あっ、それ、私も見ました。庭園のきれいな城で、迷路があって子どもが遊んでいるやつですよね」
「そうです。その子は城主のお子さんなんですが、迷路の抜け道を行って、空に手を振っているのが印象的だったんです」
「やはり同じ番組ですね。それでは出発しましょう」
重苦しい雰囲気の城をみたので、庭のきれいな城を見るのはいい気分転換になると思った。
30分ほどで、ヴィランドリー城に着いた。駐車場は野っ原である。閉門は5時ということで、後1時間ほどしかない。急いで、庭園が見える高台まで登った。城内の階段を上っていくのが早いということで、城内に入ったが、室内の装飾物には目もくれなかった。高台にあがると、きれいに整備された庭園が眼下に広がっている。幾何学模様の庭園で10m四方の花壇が30近くある。それぞれにテーマのある花や野菜が植えられている。大きく分けると4つに分かれており、「愛の庭園」と呼ばれている。恋人どうしならば抱き合うところかもしれない。
中央に小さな階段状の滝が流れる小川があった。そこにバラのアーチの道がある。これまた気持ちのいい道である。ところどころにベンチがあり、そこに長谷川さんが座ってポーズをとると、モデルさんみたいに見える。30過ぎには見えない。
5時になって、スタッフから退場をうながされた。この城は16世紀前半に建てられたということだが、今は個人の所有物である。国や町の補助なしで維持しているとのこと。頭が下がる思いがした。
泊まりは、ヴィランドリー城の隣の小さなホテルであった。お城の駐車場からわずか100mでホテルの駐車場で拍子抜けした。本日の走行距離150km。
ホテルにチェックインして、私はびっくりした。長谷川さんと同室だったのだ。
「長谷川さんと同じ部屋ですか?」
「他に部屋がなかったの。ベッドはふたつあるし、シャワーしかないから何も問題ないですよ。木村さんは安全だし」
「安全とはいえ、いびきはかくし、おならもしますよ」
「あら、それだったら私も寝言をいいますよ。お互いに気をつかうのはやめましょ」
ということで、同室を受け入れるしかなかった。
夕食は、ホテルのレストランでディナーをとった。満室の割にはお客は少なかった。と言っても、部屋は5室しかないとのこと。夜はまだなので、到着が遅いのかもしれない。
二人で白ワインを飲みながらメインのカツレツを待った。ゆったりした時が過ぎていく。でも、同室に泊まるということで、何か落ち着かない。長谷川さんの話も頭にはいらない。料理の味もわからなかった。
デザートが出てくる前に、
「すみません。調子が悪いので、先に寝ます」
と言って、先に部屋にもどり、早々に奥のベッドに入った。だが、なかなか寝られない。長谷川さんが部屋にもどってきたのはわかったが、狸寝入りをしていた。緊張の一夜であった。
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