第3話 3日目 オルレアンにて

トラベル小説


 3日目。8時にホテルの朝食をとる。典型的なコンチネンタルスタイルで、パンとコーヒー、それにわずかなハムとチーズ。でも、お腹がすいているので、おいしく感じる。

 今日は、オルレアン観光とのこと。ドライヴではなく歩きが中心だ。街の中心部のマルトロア広場の近くの地下駐車場にクルマを停める。

 まずは、広場のジャンヌ・ダルク像を拝む。「オルレアンの乙女」と言われ、街のいたるところにジャンヌ・ダルクの姿が見られる。17才の乙女がイギリス・ブルゴーニュ連合軍に包囲されていたオルレアンの街を解放したのである。

 次に、グロロ邸に行く。ここは元は貴族の館だったが、旧市庁舎で、ジャンヌの像や絵画が展示されている。英語とフランス語なので、よくはわからないが、ジャンヌの一生が描かれている。火刑にあう画はいたたましい。

 ジャンヌの家にも行くが、生家ではなく、滞在した家である。周りの建物とは違う雰囲気の建物だった。後世に残すために手を加えたのかもしれない。

 街の中心ともいえるサント・クロア大聖堂に行く。88mの高さがある2つの塔が街のどこからでも見える。元々は13世紀に建てられたものだが、今の建物は19世紀に建てられた。行ってみると、大聖堂の門は閉じられていた。どうやらミサの最中らしい。午後には開きそうなので、激戦地のトゥーレル要塞跡に向かう。

 街の南側、ジョルジュ・サンク橋をわたる。ヨーロッパ特有の石のアーチ橋で長さは325mある。ここを奪取するための攻防戦が繰り広げられたのだ。橋を渡ったところの激戦地のトゥーレル要塞跡についた。ここでジャンヌは傷つきながらもフランス軍を鼓舞し、勝利をおさめるのである。映画「ジャンヌ・ダルク」でその攻防が描かれていた。

 長谷川さんは、ここでも手を合わせていた。


 昼は、大聖堂近くのビストロに入った。2品コースと3品コースがあり、前菜つきの3品コースを注文した。4000円ほどだ。まずは前菜、サーモン2種。生と焼いたのがでてきておもしろい。メインはポーク。しゃれた料理だった。デザートはコーヒーとクッキーの盛り合わせ。値段相応といえる。あまり待たずに食べられたのがよかった。


 午後に大聖堂に入った。13世紀のゴシック様式の教会だが、現在の建物は19世紀に建てられたものである。内部は目を見張るものがあった。特にステンドグラスが見事だった。ジャンヌ・ダルクの一生の物語が表現されている。長谷川さんは1枚1枚をじっくり見ていた。奥にあるジャンヌを祭った礼拝堂で、長谷川さんはしばらく目をとじて頭を下げていた。何を思っているのだろうか。

 教会を出て、街を歩いているとエスカルゴの看板を見つけた。夕食にはまだ早いがその店に入った。メイン料理はエスカルゴのグラタン。ひとつの皿に、8つほどのエスカルゴが盛られている。タコ焼き器みたいな穴があいている皿である。

「おいしいですわね。日本で食べるのよりふっくらしているし、ガーリックの味がいいですね」

「ベルギーで冬に食べるエスカルゴ・ラ・メールとよく似ています。食べ過ぎると鼻血がでるといいますよ。ところで、教会で何を祈っていたんですか?」

「ごめんなさいね。何度も足を止めてしまって、実は姉のことを思っていたんです」

「お姉さんのこと?」

「はい、去年の7月に亡くなりました。まだ35才の若さでした」

「それはお気の毒に。7月というとベルギー旅の後ですね」

「あの時は、まさか亡くなるとは思っていませんでした。体調は悪くなかったみたいですが・・話は変わりますが、木村さんはジャンヌダルクが立ち上がった17才の時には、どんなことをしていましたか?」

「私ですか?男子校で剣道ばかりやっていました。授業中は寝てばかりいて、現国の先生から眠り狂四郎と言われました。一番勉強をしなかったころですね」

「大学は?」

「一浪して、地元の私大の工学部に入りました。そして地元の会社に就職。ベルギーに赴任したのが、唯一の地元脱出です。長谷川さんの17才というと?」

「私の17才ですか。英語が好きでCAを夢見る少女でした。2つ上の姉が優秀で、外語大に入り、将来は外交官になると言っていました。負けまいと思って、一番勉強していたころですね。私は航空専門学校にすすみ、20才でCAになりました。姉は大学卒業前に結婚しました。外交官の夢を捨てて、小さな牧場主のところに嫁いだんです。ほとんどおしかけ女房でした」

「すごいお姉さんなんですね。牧場というと牛ですか?」

「いえ、馬なんです」

「競走馬ですか?」

「ホントは競走馬をしたかったらしんですけど、なかなか経営は難しいらしくて、依頼された馬を預かったり、仔馬を育てて売ったりしてたみたいです。10年苦労したって言ってました。今は、ホースライディングの常連さんもついて、なんとかやっているみたいですけど・・・出産と過労で体調を崩して、子ども2人を残して亡くなったんです」

「それは痛ましい話ですね。すみませんね。思い出させてしまって・・」

「そんなことありません。この旅は、姉の冥福を祈る旅ですから」

そんな話をしながら、1日が終わった。本日の走行距離10km。

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