三、謙虚なる者の土地 4
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何度も何度も襲撃を受けた。時に夜襲、時に食事中に、暗殺者たちの攻撃の手は弛むということすら知らないようだった。まるでそれは、政治家にたとえるなら饒舌な、油をぬったようなすべらかさ、そしてまた弓の名手に例えるのなら、目にも止まらぬはやさで次次と矢を射るのにも似て。
その途中何度か生命の危険にさらされた騎士たちであったが、いずれもフェクタの力なしでなんとか切り抜け、さらに三週間目からは意識も取り戻し、なんとか国まで保ちそうな気配であった。アステリスも限界が近いことを悟りはじめていた。彼らにではない、自分にだ。体力はともかく、精神力が限界というやつである。だいたいいつもこんなにぴりぴりすることは彼女には珍しい。緊張するのはいいのだが、その緊張の持久力が、乏しいと言っていいほど短かった。ジラルダという凄腕の男が側にいなければ、おそらく彼女は今回の仕事はやり通せなかっただろう。
一か月経過ののち―――――彼らはやっとアヴァスティンに到着した。ふつうの行程でいけば、二週間で余裕のみちのりであったのだから、いかに刺客の襲撃の手が凄まじかったかが物語られる。
イアネイラ嬢はアヴァスティンの筆頭公爵家の人間で、同時に王家の親戚にあたるらしい。国王を叔父さま、と呼んでいるのだからかなり血は近いと見える。
当初国王はイアネイラがアステリスに約束した報酬の法外さを耳にしていたく顔を顰め、支払いを渋ったが、側近をはじめ大臣や長老たちに諭され、当のイアネイラ嬢も、アステリスを指してこの方がいらっしゃらなければいま自分は明らかにここにはいなかったと明言すると、国王はようやく支払いに応じた。もっとも、アステリスの左の耳飾りにはイアネイラ嬢の肉声がしっかりと保管されており、国王がそれを聞いて尚低く唸り支払いを渋ったのを悟ったアステリスの眉がわずかに上がったところで、世情に敏感な側近が慌てて国王の説得に入ったあたりで、支払いがなされることは確定していたのだが。しかしアステリスはすべて現金で支払われたのちに退出を自ら告げ、しばらく黙って顔を上げ国王に向かってこう言った。
―――――陛下が信用に足る方でようございました。もしここでなにも応酬なしでここを追い出されたら、わたしはずっと旅を供にしてきたあなたの姪を殺した上に、伝統あるアヴァスティン王宮を破壊しなければならなかったのだから。
無論のこと、それを聞いた側近は顔を青くして、命にかけて国王を説得してよかったと胸をなでおろしたそうだ。
ともかく三人は無事仕事を終え、アヴァスティンを後にすることになるのである。
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