第11話 新生活
目を開け、天井が見えます。僕はベッドから降り、首都の夜明けを窓から眺めました。
地元とは違い、見えるのは建物と道ばかりです。
二日前、僕たちは魔人二人を修道院で負かし、一夜を明かして首都に出発しました。
そして、昨晩に首都へ到着し、休息を官舎で取って現在に至ります。
「失礼いたします」
部屋の入口を開けると、隊員が廊下に立っていました。
「本日同行させて頂きます、ヨシンと申します。食堂の位置は、ご存知でしょうか」
僕は、ヨシンの案内に従います。
足を官舎の食堂に踏み入れ、ツルミやトウヤと再会しました。
僕は、配給食を受け取ります。町から来た三人と隊員三名で卓を囲み、朝食を口にしました。
「久々に、よく眠れた」
「幌があるとは言え、荷台の寝心地はやはり慣れませんね」
「あれ、あなた方も一緒に来てたんですか」
トウヤが、隊員に尋ねました。僕は、煮豆を匙ですくいます。
「ああ。それで今朝、何処かよそよそしかったんですね。ちなみに、私は剣士です」
「僕が弓士で、彼が」
「術士として、働いております」
「じゃあ、私たちと一緒だ」
ツルミが、腸詰めを一切れフォークで刺しました。
「差異が兵科ごとの訓練内容にありますので、その都合です」
「詳しいことは後ほど。あと、そうですね、合同葬儀の日程は今週中には決まるかと」
「俺等も、出ていいのか」
「もちろん」
ヨシンは、グラスを両手で包みます。
「人員確認が昨晩に帰都してから行われ、正確な戦没者名と数が判明しました」
「やはり、死者が出たんだね」
「はい。正確に申し上げると、行方不明者が適当なのでしょうが。穴に落とされた者たちも、まだ生きている可能性がありますし」
「先の戦では、ハジメ様ももちろんですが、ヤツエ様がいらっしゃらなければ、犠牲が更に出ていたことでしょう」
「改め、感謝申し上げます」
三人が、頭を下げました。僕も、応じます。
僕たちは席を立ち、空になった食器をカウンターに戻しました。
隊員たちに導かれ、庁舎に入ります。首長室の扉が開き、首長とハジメが僕たちを出迎えました。
「では早速、今後の予定について伝えよう」
挨拶を交わした後、首長が話を切り出しました。
「まず、君たち三人は首属下対魔族討伐隊に入隊した。首属隊からの引き抜きと、混成だ。衣食住は、こちらから支給される。給与もだな。平時は訓練を行い、戦が起こればそれに臨んでもらう。休養日があるので、しっかり休むように。それと、疑問や不明な点があれば遠慮せずに尋ねてくれ。つぎに、今日の任についてだが」
首長が、卓上のグラスを口に運びます。
「まずは、訓練場の位置を確認してもらう。次は、地理の把握だ。この、壁の地図を見てくれ。辻都町は道を四方に伸ばしており、それぞれ他の町に繋がっている。君たちが発ったのは、東の白星町だ。首都すべてを今日一日で周るのは適わないから、四方の関所に繋がる大通りそれぞれを大体のところまで歩いて確認してくれ。そこの隊員三名が、案内してくれる」
僕たちは一旦三組に分かれ、それぞれの訓練場に向かいます。
施設長に挨拶し、術士の訓練を見学します。隊員たちが講義を受けたり、実技に臨んでいました。
「基本的に、武器は殺傷能の低い模擬剣などを使います。毎週一度、全兵科合同での実技大会があり、その際は、本番に近い戦闘訓練がハジメ様の大癒術使用下で行われます」
隊員たちが、木製の剣を用いて広場で試合しています。
「ヤツエ隊員殿が加入したとなると、金属剣を通常の模擬戦でも使うように変えても良いかもしれませんね」
施設長が、ヨシンの説明に付け加えました。
僕たちは術士訓練所を後にし、四人と再び合流して市街へと向かいます。
首都では商業が発達し、各地から運び込まれた物品が商店に並んでいました。
主要幹線沿いは人通りも多く、飲食店や露天、路上販売も数多く見られます。
「うちで切った石木も、この市街の何処かに使われたんだろうな」
「どうにも、山が見えないと落ち着かないね」
トウヤとツルミが、建築群を壮観そうに見渡しています。
「そこのお兄さん方、首都は初めてかい」
そばに座っていた壮年男性に、声をかけられました。
布を貼った板や木炭が、ござの上に並んでいます。見本らしき達者な肖像画が、看板に数枚貼り付けてあります。
「どうです。安くしておきますよ」
トウヤが小椅子に腰掛け、似顔絵屋が炭を滑らかなキャンパスに走らせます。その奥で同じように、少女が何かをボロ布に描いています。
「ああ、こいつは弟子みたいなもんで。食えるまでは、面倒を見てるんです」
描き上がった絵は、造形を速描ながら確かに捉えています。トウヤは代金を似顔絵屋に渡し、絵を受け取りました。
隊員たちに案内され、僕たちは方角やランドマークを教わった後に官舎へと帰ります。
「では、また翌日お会いしましょう」
僕はヨシンと別れ、自室に戻りました。
明かりが蝋燭に灯され、僕の影が大きなシミを壁に描いています。
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