第10話 お化け屋敷でビビって幻滅させてみた


「モグモグ...翔太、私観覧車とか久しぶりに見た」

「じゃあ、最後にでも乗りにいくとするか」

「モグモグ...うん。あっ、翔太あのジェットコースターは何!? モグモグ...なんか後ろ向きに進んでるけど」

「あれはちょっと特殊な奴だな。というか、色々と回りたいのは充分すぎるほど伝わってきたからまずはそのチュロスを食べ終わってくれ」

「モグモグ...分かった。あっ、あのポテトも美味しそう」

「お前は食べたいのか遊びたいのかどっちかに絞ってくれっ」

「なんて究極の選択...!」


 俺とひよりは始業式から2週間が経ったある土曜日、巷で有名な遊園地へと訪れていた。

 正直な話、俺としてはひよりに俺離れして貰う為には避けたかったが、事の発端は半分俺にあるので今回に関してはあまり文句を言えない。

 というのも、


「にしても、本当に小さい頃から翔太は運が良い。商店街のくじでペア招待券を当てるとは」

「...本当にまさかだったよ」


 ということなのだ。そして、俺を当てる様子を見ていたひよりが目をそれはもうキラキラさせて俺を見つめてきたので、つい「今度の休み行くか?」と言ってしまったのだ。

 なんか全面的に俺が悪いと思われそうなので一応言っておくが、あんな純粋な瞳で見つめられて無視できる奴がどれだけいるって話だ。なので、半分はひよりのせいである。

 まぁ、折角当たったのに使わないのも勿体ない気もするし今回はしょうがないだろう。こうなったらトコトン楽しむしかない!

 というわけで現在に至るわけだ。

 そして普段は俺以外の人には感情表現が分からないことで有名なひよりだが、今日はその感情を爆発させて全力ではしゃいでいた。まぁ、久しぶりだからな。たまにはこうして2人で外に出て遊ぶのもいいのかもしれない。


 とはいえ、俺はひよりの俺離れ計画を諦めたつもりは毛頭ない。今回も、とあるアトラクションより着想を得て計画は立ててある。あとは決行するだけである。


「な、なぁ、ひより俺も一個だけ行きたいところだがあるんだが...」

「! よし、行こう」

「うぉっ!?」


 俺が勇気を出しついに作戦を決行するべくひよりのそう口にすると、ひよりは速攻で頷くと俺の言葉も聞かずに手を引っ張って走り出した。今日のひよりは本当にテンションが高いな。というか、それよりも


「俺まだどこか言ってないんだけど、ひよりはどこに向かっているんだ?」

「あっ」


 おいっ。



 *


「ふぅ、なんとか到着出来たな」

「ま、まぁ、ここなのは分かってたし」

「俺の目を見て言え」


 あの後、ひよりに行きたい場所を伝えようやくたどり着いた建物を見ながら、俺がそう呟くとひよりが思っくそ目を逸らし口笛を吹きながらそんなことを口にするのでツッコミを入れる。


「...見てる」

「お前が見てるのは俺のおでこだろうが」

「...いずれおでこにも顕現する」

「いや、俺別に中二病キャラとかじゃないからな? 第三の目とか邪眼なんて顕現しないのよ」

「邪眼が中二病キャラなんて失礼な。飛◯は全然中二病キャラじゃない...」

「いや、幽白の◯影とか中二病キャラのお手本にあたるだろ。というかもはや、中二病キャラじゃないって言う方が失礼にあたるレベルだろ。というか、今そんなこと話してないんだが。俺たちは一体なんの為にここまで来たんだよ」

「...幽☆遊☆白◯の最強キャラは誰か論争?」

「違うわっ! お化け屋敷だろうが!」


 真面目に困ったような顔をしてそんなことを言うひよりに俺は大きくツッコミを入れる。どんだけ幽白好きなんだよ。俺も好きだけどさ。いや、今はそうじゃない。お化け屋敷、お化け屋敷なのだ。そう、今回の作戦は全てこのお化け屋敷が担っているといっても過言ではないのだ。

 というのも、今回の作戦はお化け屋敷でビビりまくって幻滅してもらおう作戦だからだ。

 まず前提としてひよりには強いホラー耐性がある。そんじょそこらのお化け屋敷ではビビることは愚か、なんの反応も示さないだろう。

 だが、俺は違う。対する俺はホラーに弱く目を開けることは愚か、まともに進めるかすら怪しいだろう。

 しかし、俺は今まで生まれてこの方ホラーに弱いことをひよりに明かしたことはない。理由は単純、あまりに情けないからだ。


 だが今回はそれを逆手にとる。自分でお化け屋敷に誘っておいて入った途端にビビりにビビりまくる。すると、どうなるか? まぁ、ほぼ確実に幻滅されるだろう。それこそが今回の作戦の狙いなのだ。

 あまりに単純明解。ミスりようもない完璧な作戦だ。しかも、俺は本当にお化け屋敷は無理なので、いつもみたくなにかしらを演技したりする必要もない。本当に完璧な作戦だ。


「よし、じゃあ行こう——あれ? 来ないの? 入り口こっちだよ?

「わ、分かってる」

「? じゃあ、なんで来ないの?」


 まぁ、ただ一つ欠点をあげるとすれば俺の精神的負担があまりに大きいってことと、普通にお化け屋敷に俺が入りたくないってことと、怖さのあまり気絶までいっちゃわないかってことと、やっぱり本当に行きたくないって——。


「まだ、行かないの?」

「いい、い、行く」


 そして何度かひよりに促された俺は体を震わせながらもようやくお化け屋敷へと足を踏み入れるのだった。よっしゃあっ、なんとかやってやらぁ。


 *


 さて、ついにお化け屋敷へと入ったわけだが


「やっぱ、無理だっ。ごめんひよりっ」

「ひゃっ、しょ、翔太?」


 俺は暗闇の中に入って数秒、怖さのあまり良くないのは分かりつつも震えながらひよりへと抱きついてしまっていた。いや、多分作戦としてはビビりまくってるしこの上なく上手くいってるとは思うんだが、抱きつくのはやりすぎである。でも、現在進行形で想像を超える恐怖心に襲わまくっている俺としては、そうしなければ限界であった。ひよりが不快な気持ちになってないか。それだけは心残りだがまぁ、作戦として見るならやはり上手くいっているだろう。恐らく相当幻滅しているはず。


「見たくない。もう、何も見たくない。ひより、本当にごめんっ」

「まさか翔太がお化け屋敷苦手とは。でも、翔太の方から抱きついて来てくれる...? これ新鮮かも...」

「ん? な、なんか今言った?」

「なんでも...」

「そ、そうか。本当にごめんだけどしばらくこの体勢で頼むっ」

「...うん、やっぱり良い。これ」

「!?」

「いいこ、いいこ」


 なにかひよりが先程から呟いているので俺は思わず尋ねるがはぐらかされ、しまいには何故か頭を撫でられてしまった。あっ、でもちょっと落ち着くわ、これ。


「いつもの翔太なら絶対抵抗してくるのに...こんなことがあるなんて...」

「!!?」


 そしてそんなことを呟くと更に勢いよく俺の頭を撫でたり、自分の頰を俺の頰へと擦り寄せてくるひより。なんだ? なにが起こっている? 分からない。だが、流石にひよりも今回の件でかなり俺に幻滅したはず。

 まぁお化け屋敷をぬけれてないので表情とかいったものは見ることが出来ていないがのだが、大丈夫だろう。


 今回の作戦は多大なる被害(羞恥心と恐怖心のミルフィーユ)を受けることにはなったが、これでひよりが幻滅してようやく俺離れ出来るというなら安いものである。

 よくやりきった俺! あとは、このお化け屋敷を早急に終わらせるだけだっ。いや、目を開けれないから早急には全然終わらせられそうにはないけど。


 ※尚、その後お化け屋敷を出た後ひよりは何故か終始非常にご満悦な様子でした。


 *


 俺こと野上 翔太は今とある悩みを抱えていた。


「翔太っ、電柱から首だけの女の人がこっちを覗いてる」

「...っ!! ご、ごめん」

「...ふふ、冗談」

「またかっ」


 ひよりが焦ったようにそんなことを言うので俺は咄嗟にひよりへと抱きつき謝罪を入れるが、その途端にひよりが堪え切れなくなったようで微笑みながらそう漏らす。

 そう困っていることというのは、遊園地でお化け屋敷に入って以来ひよりがこうして俺を驚かせようとしてくるのだ。


「...やっぱりこれは相当にアリ」

 .「ひより?」


 そして、ひよりはと言えば俺の抗議など意に返さず、どこか悪い笑顔を浮かべながらなにかを呟く。


「あっ翔太、背中に憑いてるよ。幽霊」

「っっっ!!?」

「ふへへ、抱きついて来てくれる」

「また、嘘じゃねぇかっ」

「しまった。流石に連続でやりすぎて速攻でバレた」

「いや、しまったじゃなくてやらないで? というか、こんなことしてもひよりになんの得もないだろ?」

「フフ」

「せめてなにか答えてくれない!?」


 一体、何故こんなことに!? 俺はただただひよりに幻滅して欲しかっただけだと言うのに...。



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 次回「忘れ物をしまくって困らせて失望させてみた」


ネタ不足

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