第8話 お返しをショボくしてみた(ホワイトデー)


 今日は3月 14日、つまる所世間一般ではホワイトデーと称される日である。そして今年もひよりからチョコを貰った俺もそれは例外ではなく、今日はお返しの品をバッグの中へと入れ学校へと登校していた。

 まぁ、特に今年はなんの気まぐれか、はたまたなんらかの意味があったのかは分からないが意味深な言葉と共に手作りチョコを貰ったからな。

 当然、普段のホワイトデーなら軽く手作りのクッキーなどを用意していた俺も、今回のホワイトデーにはいつもの数倍力を入れ豪華なものを渡すつもり...というわけではなかった。

 いや、むしろその逆。いつもの手作りクッキーなんかよりも断然ショボいお返しを俺は用意していた。いや、なにもこれはひよりに嫌がらせをしたいだとか、そういう意味ではない。ただ、天才的な考えを思いついてしまったのだ。


 もしかしたら、これでひよりに嫌われることが出来るのではないか? と。


 ここ数ヶ月俺はひよりに嫌われるべく作戦を考え、俺に出来る最大限の力を尽くし...ことごとく惨敗した。だが、だからこそ俺がここで折れてはならないのだ。

 というわけで、作戦は例に漏れずシンプルなものである。ひよりは毎年ホワイトデーの俺のお返しをわりかし楽しみにしている傾向にある。それに加え、今年のバレンタインにひよりはわざわざ手作りでチョコをくれた。

 だというのに、このホワイトデーで俺が渡すものがあまりにショボいものであったなら...完全にきらわれる、とまではいかなくてもひより中での俺の評価を下げることは出来るのではないだろうか?

 今まで、俺はひよりに一気に嫌われよう、嫌われようと作戦を立て続けて失敗を繰り返した。それで俺は思ったのだ。地道に少しづつ評価を落とし続けて嫌われる。これが正解なのでは? と。今まではあまりに大きな期待をしすぎていたのだ。

 確かにこの作戦1つの効果は少ないのかもしれない。でも、これを積み重ねていけばいずれは必ず嫌われることが出来る...はず。


 なのだが、今回の作戦には少しだけ欠点がある。単純に罪悪感が凄いというものだ。今までの俺が変な行動をとって、嫌われようとするのとはレベルが違う。なにせ、今回はひよりが誠心誠意込めて作ってくれたであろう手作りのチョコのお礼にショボいものを渡そうというのだ。ひよりの落ち込みようを想像すると胸が痛くなる。


 だからこそ、朝の俺は日和ってしまいそれを渡すことが出来なかった。というか、今もまだどうするべきなのか悩んでいる。一応、念の為ちゃんとしたお返しの品も用意してはいる。だからこそ、作戦通りショボいものを渡すべきなのか、今からでも作戦を中止して普通にちゃんとしたお返しの品を渡すべきなのか、俺はまだ自分の中で答えを出さずにいた。



 *



「翔太、帰る。早くして」

「分かった。分かった。だから人の腕に掴まろうとするな。普通に重たい。それに視線も痛い」

「失礼な、私別に太ってない」

「太ってる、太ってないの問題じゃなくて普通に人1人分の体重が片腕にきたら絶対に重たくなるのは当たり前だろうが」

「それは盲点だった」

「おーい、別に俺は手を離す代わりに抱きつけなんて言った覚えはないんだが」

「もう、3月中旬だから薄着でいいと思って今日来たから寒い。だから、離れたなくない」

「お前なぁ...まぁ、もういいや、帰るぞ」

「うん」


 ひよりの説得を諦めた俺はそれだけ言うと、ひよりと共に教室を出るのだった。廊下を歩いている際めちゃくちゃに視線を感じたがもう無視である。なにもなかった。なにもなかったんだよ。



 *



「本当に最近の季節はおかしい。春さんと秋さんは一体何処に行っちゃった?」

「確かにそう言われると最近見てないな、春と秋」

「これが『ぐろーばるうぉーみんぐ』ってことなのか」

「うーん、なんかちょっと可愛く聞こえるな。というか、何故英語で言おうとした?」


 ひよりの妙に可愛らしい地球温暖化にツッコミを入れながら、俺とひよりは帰り道を歩いていた。

 どうする? 渡すなら今なんじゃないか? だが、どっちを渡す? それもまだ決まってないというのに...。いや、今ここで俺は決めるんだよ。なにをしてでもひよりに嫌われる勇気を持つんだ野村 翔太! そして、ようやく決意を固めた俺はショボい方のお返しの品をこっそり鞄から取り出す。


「そういやさ、バレンタインさお前手作りチョコくれたよな?」

「...そうだったけ」

「あれさ、マジでおいしくて本当に俺嬉しかったんだよな」

「そ、そう」


 最初こそそっけない感じの態度だったひよりだが俺の言葉にどんどんと頰を緩ませ、口角を上げていく。この作戦においてひよりの期待を膨らませることは極めて重要だからな。 上げるに上げてから落とす方が失望も大きくなるというものだ。

 ひよりには本当に罪悪感でいっぱいではあるがこれもひよりの為、俺は心の中でなんとかそう割り切る。


「でさ、今日ホワイトデーだよな。俺からのお返しだ。これが俺の気持ちだよ」

「これは...」


 そして俺は最後まで期待を高めるようなセリフを吐いた後にゆっくりと手に隠し持っていた品をひよりに手へと渡した。

 そう、なにを隠そう俺の今回のお返しの品は...。


「アメ?」

「うん、アメだ。というか、アメ以外のなにもでないよ」


 そこら辺のスーパーでとっても安く買えるアメである。うん、分かりやすくしょぼいな。俺がバレンタインで手作りチョコ渡してホワイトデーでこれ返ってきたら、結構ガッカリするだろうしちゃんと効果はあるのではないか?

 俺はそんなことを思いつつ、ひよりの次のリアクションを待った。


「アメ...アメって確か......っっっ!!! な、なるほど。...ふ〜ん、そういうことかぁ」

「うん?? どうした?」


 しかし、何故かひよりは少し考え込むように黙り込んだ後になにか思い当たる節でもあったのか閃いた顔を見せると、途端に頰に両手を当てると何故かニヤニヤと口元をさせながらこちらを見てきた。

 当然、俺は行動の意味が分からず戸惑う。こ、壊れちゃったのか? や、やっぱり、思ったよりアメは酷すぎたか? というか、よくよく考えれば当たり前だよな。手作りチョコのお返しがアメ一個とか頭おかしいもんな。

 やっぱり今からでも...。


「な、なーんな、冗談、冗談だよ。本当はこっちのマフラーだからアメは返して貰ってだな、こっち方を受け取ってくれ——」

「絶対に嫌」


 俺がそう思い直し、軽く笑みを浮かべながらもう一つの品である白の手編みマフラーを、ひよりの手の元へと持っていくが何故か一瞬でそんなことを言われてしまう。あ、あれ?


「このアメはもう私のもの。誰であろうと絶対に渡さない」

「そ、そんなにか?」

「命より大事」

「本当にそこまでか!?」

「だから今更返してなんて言ってももう遅い」

「じゃあ、マフラーはいいのか?」

「それも欲しい。でも、アメはあげない」

「だから、なんでそこまでそのアメに固執してるの!る」


 結局、その後何度マフラーとアメの交換を試みても受け入れられることもなく、最終的にマフラーも普通に渡すことで解決したのだった。

 いや、別にいいんだけどさ。アメに対するあの異常な執着はなんだったんだ。ひよりってそんなにアメ好きだったけ?




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 次回「8.5話 私が恋に落ちた日(ひより視点)」


 マジでもうネタないかも。良かったら星や応援お願いします。...どうしよう。ちなみに今回のよく意味が分からなかった人はホワイトデーのお返し品の意味で調べてみてください。

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