第6話 幼馴染を助けたので恩着せがましくしてみた!
ある日の休日、珍しくひよりが家にやってくることがなかった俺は特にすることがなく、気分転換に外に出てぶらついていた。
正直暇である。いつもなら朝からひよりがやって来ては、ゲームやらなにやらをしてツッコミ役を担いながらもワイワイとしているのだがそれがないと圧倒的に虚無な時間になるのだと、俺は知った。
いや、なにを考えているのだ俺は。ひよりに友達を作らせるには俺離れさせるしかない。
だからこそ俺はひよりに嫌われるように行動しているというのに、それに反するようなことを考えるな。自分の気持ちは押さえ込め。自我を出しすぎるな。
ひよりが俺に依存してしまうよになった原因は俺だろうがっ。その俺はひよりが以前ように普通に色々な人と人間関係を構築出来るように、やれる限りは尽力する義務があるはず。
「んっ?」
俺がそんなことを考えながら歩いていると、視界に2人の男女が道端で向かい合ってるのが入ってきて俺は思わず足を止めた。
というのも、
「あれって...ひよりだよな?」
女子の方はひよりだったからだ。とはいえ、ひよりが男といる姿は全く想像つかない。
それに男の方はなにやら話しているっぽいものの、ひよりはどこか困ったようなリアクションをしている。これらから推測される答えは...ナンパか告白のどちらかだろう。
幼馴染とはいえプライバシーがある。普通ならもし告白されている場面であったなら、無視して過ぎ去るのがいいのだろうが...ひよりは告白でもナンパでも対応に困るだろうしな。
ひよりに俺離れさせたい俺ではあるが、流石にこれは今のひよりにはハードルが高すぎる。というか、それよりもなによりもなんかモヤモヤするからとりあえず近づいてフォローするとしよう。
*
「だーから、そこの喫茶店でお茶でもどうかって言ってんの? お嬢ちゃん可愛からお金は俺が出すしいいでしょ? ね? ね?」
「...む、無理で——」
「なんて? 今なんて言ったの? ねぇ?」
「えっ、あっ、いや」
近づいてみた結果清々しいほどナンパだった。しかも、結果手荒なタイプの。ひよりは恐怖の為かかなり萎縮してしまっているみたいだし、俺的にも気分が悪い。さっさと、ひよりからこの野郎を引き剥がすとしよう。
「おーい、ひより」
「! 翔太!」
「あん? 誰だてめぇ、12年間幼馴染ですみたいな面しやがって。人が女誘ってるっていうのに、ぶっ飛ばすぞ!」
俺がひよりに声をかけにいくとひよりはパァと顔を明るくし、男の方からいきなり暴言が飛んできた。なんかツッコミどころがあった気がしなくもないが、今はそれどころじゃないしな無視するとしよう。
さてと、それでこっからどうするか。こいつはなにを言ったら諦めてくれるかな?
うーん、さっきの様子だとただの友達とか幼馴染とかだと食い下がって来そうだし、ここはひよりには悪いがこの設定でいかせて貰うとしよう。
まぁ、あとで謝ればいいか。
「あっ、すいません。こいつ俺の彼女なもんでね。渡すわけにはいかないんですよ」
「あ゛? 人を馬鹿にするのも大概にしろよ。明らかにテメェとこの子じゃ見合ってねぇだろうが」
「うぐっ」
しかし、あまりに的確すぎる返しをされ俺は言い淀む。分かっちゃいたけどやっぱ俺が彼氏役は不相応だよなぁ。
「そんなことないっ」
「あぁ?」
しかし、それまで怖さ故か口を開くことのなかったひよりが男の方をキッと睨めつけながらハッキリとそう口にした。
「翔太を馬鹿にする人は許さない。何人たりとも...この下衆が」
「ひ、ひより? 気持ちは有難いけどその
...ステイ、ステイ。落ち着こう、な?」
ひよりの口から聞いたことのない類の言葉が発せられ、明らかに怒りを露わにしているひよりを俺はなんとか止める。
「なっ!? 誰が下衆だって? この女っーー!」
「受けて立つ、許さない!」
「受けて立つなっ、受けて立つなっ、いいから逃げるぞ!」
「おいっ、どこ行く気だ、てめぇ」
すると、ひよりの言葉を受けて怒りが頂点に達したらしい男がひよりの元へと手を伸ばすが、それに対し怒りからかあろうことか戦闘態勢に入ってしまったひよりの手をなんとか引き、俺は男から逃げるのだった。
*
「ごめんなさい」
「全くだ、気持ちは嬉しいけど普通にあのまま戦ってたらお前に傷がついてたかもしれないんだぞ。確かにお前は運動神経はいいが相手は男だからな。気をつけろよ、本当に」
結局、しばらく鬼ごっこ()を繰り広げた後になんとか男から逃げ切ることの出来た俺たちは、公園のベンチに座ってそんな会話をしていた。ひよりも先程の行動は流石に悪手だったと自覚しているのか、大分反省しているようだった。
さっきのはマジで冷や汗ものだったからな。
「本当にありがとね、翔太」
「それはもう分かったからもういいって。俺の意思で助けたんだお前が気にすることじゃ——んっ?」
俺はそこまで言いかけたところで言葉を止めた。ちょっと、待てよ。使えるんじゃね? これ。ひよりから嫌われよう大作戦に。
状況を整理しよう。今、俺はナンパに困っていたひよりを助けたわけだ。じゃあ、この行動も不自然なく行えるはず。それは前から案の1つではあったもののとある限定的すぎる状況下で使わなければ、意味のないもので結局ボツにしたものだ。
というのも、その作戦は「恩着せがましくいこうぜ、作戦」である。
この作戦はとてもシンプルな作戦で恩着せがましすぎる人は嫌われる。避けられるという当たり前の原理を利用するものであり、やり方もなにやらで恩を売った後でそれに対してあまりに過剰な返しを要求すると至ってシンプルなものである。
とはいえ、その恩を売るというのが非常に難しかったわけだが、今は充分にそれを満たしていると言えよう。
よし、そうと決まれば早速やるとしよう。後になればなるほどこの作戦は不自然さが出でくるからな。
「ひより、お前は今回の件で俺に大分助けられた...だよな?」
「うん。そうだね」
俺の言葉にひよりはウンウンと頷く。よし、いける。これなら恩着せがましくしても不自然さなし。あとは、そんな俺を見てひよりが失望してくれればいいのだ。さぁ、どう恩着せがましくいこうか。出来るだけ過剰に過剰に...。
「この恩は大分大きい、だよな?」
「うん」
「だからさ...お前には一生かけて返して貰う。だからずっと俺の側にいろ」
どうだ、このたった一回助けただけで一生とか言っちゃう恩着せがましさ!
「へぁ!?」
しかし、ひよりは何故かそんな声をあげると顔をドンドンと真っ赤にしていき...。
「うみゅう」
「ひより!?」
最終的には煙を出したかと思えば倒れ込んでしまうのだった。
や、やりすぎてしまったのか?
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次回「バレンタイン」
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