第4話 オラついてみた


 前のお弁当亭主関白大作戦の失敗から1週間が経った今日。

 ようやく、予想外すぎる失敗のショックにより落ち込んでいた俺もなんとか気力を取り戻し次なる作戦を決行しようとしていた。

 だが、今回俺が行う作戦は今までの作戦以上にリスクを伴うものである。その為、失敗は許されない。

 だからこそ、こうして俺は朝から緊張していた。...確か、こういう時って人って書いてそれを飲み込むといいんだっけ?

 いや、落ち着け。大丈夫。しっかりとこの作戦を決行できれば必ずひよりと距離感を作ることが出来る...はず。余計なことは考えるな!


 それにこの作戦の成功はどれだけ役に入り込めるかにかかっている。精神統一をして自分を律するのだ。俺なら出来る、俺なら出来る。リスクを恐れるな。役に入り込めっ!


「ふぅぅぅ」


 そして、数分ほどしてようやく決心を固めた俺はゆっくりと息を吐くと、ドアに手をかけ外へと出るのだった。


 *


「おはよう、翔太」


 外へと出るとそこにはいつものようにひよりが鞄を持って立っていた。ここまではなんの変わり映えもないただの日常風景である。だが、今日はそこに俺が非日常を演出する。


「おう、ひより。待たせちまったみたいで悪いなぁ」

「...翔太?」


 俺はいつもなら絶対にしない口調とテンションでひよりに話しかけた。すると、ひよりはすぐに俺の行動の異常性に気がついたのか目を丸くしていた。とりあえず初動は成功といったところだろうか?

 今回の作戦はずばりある日突然オラオラ系に急変する、というものである。

 世の中には「キャラ変」という言葉がある。意味としてはその名の通りキャラ(性格)を変えるというものである。

 今回はそこから着想をえた。基本的に急すぎるキャラ変というものは相応にして失敗するケースが多い。

 それは何故か? それはまぁシンプルな話で周囲にいた人間がとっつきにくくなり、最終的に離れられてしまうということが多発するからだ。

 そしてその中でも、特にオラオラ系や俺様系といった系統へのキャラ変はそれと同時に痛々しさも演出出来る為、より周囲を困惑させ距離を置かせることが可能なのである。

 つまりは俺がそういったキャラ変をすることによって、ひよりが困惑して俺を痛いやつ認定して距離を置くようになるということだ。...なんか、ちょっと悲しくなってきたな。


 まぁ、それはさておきこの作戦がどれだけ有効的であるかはもう語るべくもないだろう。

 ただ問題は俺の演技力にあった。当然、今まで俺はオラオラ系や俺様系になる為の練習などしたことはない。つまり本で得た知識ぐらいしかない完全なる付け焼き刃なのだ。

 だが、結局こうして考えこんでいても仕方ない。挑戦あるのみである。


「んっ? おい、ひより」

「ひゃ、ひゃい!?」


 俺がなんとかオラオラ系アピールを出来ないかと考えていると、ひよりの顔を見てとあることに気がつきグイっと顔をひよりの顔に急接近させる。すると、ひよりから聞いたことのない可愛らしい声が漏れた。

 普段の俺なら絶対にとらない行動だが今日の俺は「オラオラ系にキャラ変した俺」である。このくらいやらねばオラオラ系にキャラ変したとは到底言えないだろう。


「お前の目...くまがあるじゃねぇか。しっかり、寝てんのか?」

「あ、あの、しょ、翔太?」


 しかし、そこで俺は止まらず更にオラオラ系をアピールするべくひよりの顎を手でクイッとして、更に距離を近づける。間近のひよりは困惑や焦りといった感情を含んだ声を出し、酷く慌てたように手足をバタバタさせる。

 一方の俺は俺で内心かなり焦っていた。やばい、勢いとはいえここまでやるつもりじゃなかったのに..。ひよりの顔が近すぎてなんか変な緊張してきたかも。というか、なんかいい匂いするし。

 ってか、ここから俺どうすればいいんだ? 次はどんな言葉を発するのが正解なんだ?


「体調でも悪ぃなら俺がお姫様だっこでもなんなりして学校まで連れてってやるがよう、どうする?」

「翔太、本当にどうし——へ? へぇぇぇぇっっ!?!


 結局、悩みに悩んだ末に俺はそんなことを口にし、少しひよりから距離を離した。半分くらいまたも勢いで言ってしまったが割とこれは正解なんじゃないか?

 さっきの発言に繋げてオラオラ感は維持しつつも絶対にひよりが受けないであろう提案を繰り出す。

 先ほどの発言と合わせてかなり痛いオラオラ形を演出できているのではないだろうか?

 現にひよりも驚きのあまりまた可愛らしい声が上げた後に、しばらく黙り込んでしまった。これは今後俺とどう関わっていけばいいのか困惑している、ということではないだろうか?


「そういうことなら...,,.お願い」

「えっ? ......わ、分かった。しょうがねぇなぁ」


 俺がそんなことを考えていると黙りこくっていたひよりからそんな答えが返ってきて、俺は思わず「本当で言ってる?」と返しそうになるが今オラオラ系を演じているのを思い出し、なんとか被害を最初の驚きの「えっ?」だけに留めた。

 いや、オラオラ系を演じてるのがバレないようにするのは成功したっぽいけど、これからどうするの? マジでお姫様だっこしていくの? なにかの聞き間違いとかではなく!?


「...んっ」


 しかし、そんな俺の思いとは裏腹にひよりは完全に俺に体を預けるようにして全身の力を抜いた。こ、こいつ本気か? というか、いくら幼馴染とはいえ異性相手にこれは、流石に色々と無警戒すぎないか? 俺に少しでも邪な考えがあったらどうするんだよっ。


「...まだ?」

「わ、分かった。ったく、しゃあねぇなぁ。よっと」


 しかし、キャラを保つ為とはいえ自分が提案したことをやらないというわけにもいかず、なんとかオラオラキャラと冷静さを保ちながらひよりを持ち上げる。

 ひよりはスリムな体型であるということと身長も相まってか、かなり軽く重量的な問題はない。だが...、お姫様だっことなるとどうしても首や足に直に触れることになる。そのせいか、なんか柔らかくすべすべした感触が両手に...っ。


「翔太? どうしたの?」

「な、なんでもない」


 すると手の中にいるひよりが不思議そうな声を上げる。最早、ひよりの表情を見る余裕のない俺はそれだけ答えると動き出すのだった。



 そして結局、学校までそのままの状態で登校を果たした俺たちは非常に多くの注目を集める羽目になるのだった。オラオラ系を演出しただけだというのに...一体どうしてこんなことに?



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 次回「私以外の女の子にアピールしたらダメ、分かった?」


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