第2話 セクハラしてみた
「翔太ー、帰ろう?」
STが終わり後は帰るのみとなった瞬間にひよりが俺の元へとやって来た。
「相変わらず早いな。まるでお前の方だけSTやっていないかなようだ」
「退屈だったから抜け出してきた」
「本当にやってきてないんかいっ」
当たり前のようにそう答えるひよりに俺は思わずツッコミを入れる。確かにいつも異常な
ほど早いなとは思ってたけど、まさか抜け出していたとは...。
「なんでナチュラルにサボってるんだよ」
「...だって、翔太に早く会いたいから」
「その言葉に特別な意図はないんだろうがナチュラルにそういうこと言うのはやめてくれ。男子からの視線が痛い」
若干俺から目線を逸らしながらボソボソとそう呟くひより。くっそ、可愛いな。
「あと、STが終わるまで待って出てこようとするとクラスメイトの人達が寄ってきて面倒くさい」
「多分、それが本音だよなぁ!?」
付け足すようにそう言うひより。確かにそういう理由もあるなら納得だ。基本的にひよりはルールは守るタイプだからな、破るにはそれなりの理由がいるのだろう。
「というか、それはチャンスだ。そこで逃げずに話をして友好関係をだな——」
「チャンスなんかじゃない。純粋に面倒。進路妨害も甚だしい」
「...本当に折れないなぁ」
淡々とそう言い切るひより。多分、本心からこう思っているだろうから友達を作らせるのは無理なんだろうな。心から変えでもしない限り...。
だが、俺は今日それを変える。決意も固めた。
俺は今日、桐山 ひよりに嫌われる。
「どうしたの? 珍しくキリッとした顔して」
「なんでもない。それと、まるで普段の俺が情けない顔のような言い方はやめろ」
「大丈夫、キリッとはしてないけど翔太の普段の顔も私は好きだから」
「だからお前なぁ...」
そういうこと言われるとこれからちょっとやりづらくなってしまう。俺は今からコイツに嫌われるのか...,いや、ネガティブなことを考えるな俺! ひよりが人間関係を構築しようするまでの辛抱だ。
それにもう俺がやれる中で残ってる手段はこれしかないのだから。やるしかないんだよ。
*
「翔太、今日はいつもより少しだけ口数少ない」
「んっ? そんなことないぞ?」
「ダウト。いつもなら1.05倍は口数多い」
「それは誤差だろっ」
「成長とは少しの努力の積み重ね」
「俺が雑談の為の口数増やしても別になにも成長しないんだが」
そんなわけで下校中なわけだが...俺が仕掛けようと思っているのはこのタイミングである。やはり、教室で仕掛けるには人の目もあるしな。リスクも大きい。
まぁ、肝心のなにをするのかということだが何も俺も無策ではない。この時の為にひよりに嫌われる為の作戦は考えてきてある。
俺がひよりに嫌われる為に行うこと...ズバリ、セクハラをするということだ。理由は単純明解であり、誰がどう考えても嫌われるに決まってるからである。
まぁ、だが体に触れるとはもう普通に犯罪な上トラウマを植え付けかねないから論外。
では、どうやってひよりにセクハラをするのか?
俺もそこまで詳しく知っているわけでないのだが昨今の情勢では、「綺麗だね」「香水変えた? いい匂いだね」「スタイル抜群だね」といったセリフも付き合っているわけでもない異性に沢山言うことはセクハラにあたるとのこと。(特に容姿に関すること)
これなら法には触れずにトラウマを与えることもなく、ただ純粋にキモい奴だという認識を与えることが出来るというわけだ。
つまり俺が今からなにをするかというと、
「ところでさ、よく見たらひよりの今日の髪いつにも増して綺麗だよな」
「えっ?」
ただ、ひたすらにひよりの容姿を褒めまくる。ただそれだけだ。それだけで、俺はひよりに嫌われることが出来る完璧な作戦っ!
「き、今日は確かに朝早くから気合い入れてセットしてたから気づいて貰えて嬉しい。...これから毎日頑張る」
まず1つ目の俺の口撃を受けたひよりは何故かポッと顔を少し赤くすると、口元を緩めながらそんなことを言う。
ま、まぁ、まだ1つ目だからな。今はまだ、ただただ褒められたというだけの認識だろうからな。だが、これが何度も何度も続けばキモいと思い始めるだろう。
俺は少し思っていた反応とは違うことに動揺しつつも、自分自身を落ち着かせ次の口撃をすることにする。
「目もぱちっとしてるしな、瞳の色とかまるで宝石のように神々しいし。本当に綺麗だよ」
「そ、そう?」
ひよりは少し照れくさそうにはにかむと心底嬉しそうに頰を緩める。くっ、まだダメか。いや、とてつもなく可愛いけども。これは俺が今求めているリアクションではない。
だが、諦めるな俺。続ければきっと成果が出る。
「あぁ、勿論。今の笑顔とかも最高に可愛いしな」
「...ありがとっ」
まだだ、続けるんだ俺。
「やっぱりひよりって全身から可愛さが溢れてるよな。こう、ギューと抱きしめたくなる感じというか愛くるしいというか」
「...んっ、そこまで言うならハグしてもいい」
すると、ひよりがなにを思ったのか立ち止まり両手を広げて「さぁ、抱きしめなさい」と言わんばかりのポーズを取るので逆に俺が固まってしまう。よく見ると、ひよりの頰は真っ赤に染まっており目はなにかを期待するような視線を送ってきていた。
「あ、あくまで例えだから。それはいい...かな?」
「...そう。まぁ、どっちでもいいけど」
なんとか俺が言葉を振り絞ってそう言うと、ひよりはそう呟いて態勢を崩すとまた歩き始めた。...何故か、全く目を合わせてくれなくなったけど。これは成功と捉えていいのか?
いや、でもなんか違うような気がしてならないんだよなぁ。
結局、思わぬカウンターをもらう形になってしまった俺は続行不可能と判断し、とりあえず今日の褒め褒めセクハラ大作戦は中止することにするのだった。
*
「...翔太、さっきのは本心で言ってたの?」
ひよりの家が見えてきた頃、あれからしばらく黙りこくっていたひよりが唐突にそんなことを尋ねてきた。流れ的におそらく俺がひよりにかけた言葉に対して尋ねているのだろう。
「...全部、本心だよ」
確かに俺はひよりに嫌われるべく意識して褒め言葉を乱発した。だが、それらは普段俺が思ってはいるものの伝えていない言葉であり、嘘などではない。別にそこを隠す必要はないと判断した俺は特になにも考えることなくそう返した。
「そっか。...そっか」
すると、ひよりは何故か繰り返しそう呟くと自分の髪をそっと撫でると、頭をかいた。
「なぁ、今日の...その嫌だったか?」
そこで俺はこの際と直接ひよりに尋ねてみることにした。理由としては、今日は成果を得られなかったが、明日以降もこの作戦でいけるのか判断する為である。これで少しでも嫌に感じたという声をきければ...。
「ううん、積極的で嬉しかった。もっと言って欲しいくらい...なんて」
「えっ?」
だが、返ってきたのは予想だにしないそんな答えだった。だが、そんな俺の気持ちなど知る由もないひよりは少し恥ずかしそうに頰を赤らめると、そっぽを向いてしまった。
「あ、あっ、でも他の女の子にさっきみたいなこと言っちゃダメ。分かった?」
「お、おう」
俺がなんと返していいのか固まっているとひよりが振り返って真剣な顔をしてそう言うので、俺は勢いにおされ咄嗟に頷いていた。いや、ひより以外に言うような相手いなからそれは問題じゃないんだけど...。
「えへへ」
この作戦はいわゆる失敗というやつなのではないか? 俺は心底幸せそうに...見たこともないほどだらしなく頰を緩ませているひよりを見つめながらそんなことを思うのだった。
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次回「亭主関白感を出してみようと思う」
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