俺以外と人間関係を築こうとしない幼馴染の為、嫌われるべく行動を始めたはずが何故かベタ惚れされてしまった件

タカ 536号機

第1話 幼馴染に嫌われたい


 俺こと野上 翔太はごくごく普通の高校2年生である。のはずなのだが、そんな俺は今とある大きな悩みを抱えていた。



 *



「う、うーん」

「おはよう、翔太」

「...おはよう」


 俺が目を覚ますとそこにはいつものように幼馴染である桐山 ひよりの姿があった。最早、当たり前と化した光景に特に驚きはしないが、やはり俺としても言わなくてはならないことがあるだろう。


「何度言えば分かるんだ。勝手に部屋に入るなっ」


 *



「はぁ、あのなぁいい加減朝くらい俺と離れていてもよくないか? 最早、寝てる時間と授業での時間以外ほぼお前と一緒にいる気がするんだが」


 結局、あの後すぐにひよりを部屋から追い出して準備を終えた俺はリビングで朝ごはんを頬張りながら、前の椅子に座るひよりにそう提案してみる。


「よくない」


 が、予想通り拒否られてしまう。相変わらず言葉数は少ないものの意思はハッキリとしている奴だ。ひよりがこう言っている以上きっと折れることはないのだろう。そのことは俺自身が一番よく理解している。


「もうこうなったら、お袋に頼んでなんとかひよりを朝入れないようにして貰うしか...」


 こうなれば強硬手段もまったなしと俺はそう口にするが、


「それは無駄。翔太のお母さんは既に私の味方。その証拠に今日も笑顔で部屋に通してくれた」

「詰んでんじゃねぇかっ!」


 余裕のオーラの滲み出るひよりは胸を張りながらそう返してきた。

 おかしい。身内がいつの間にかひよりに取り込まれている。いや、元からだったか?


「翔太こそいい加減無駄な抵抗はやめて、大人しくご飯を食べ終えて一緒に登校しよう」

「分かった、分かった」


 そしてトドメと言わんばかりにひよりにそう言われ、俺は大人しく頷くしかなかったのだった。くっそ、勝てない。



 *



「なぁ、今日もどうせクラスで誰とも話さないんだろ? いい加減他のやつとも話して友達をだな——」

「いや」

「でも、俺とお前のクラス違うんだから授業中とか困ってるだろ? だからだな、物は試しというし一回でいいから挑戦を——」

「しない。休み時間に翔太の所に言って話せてるから満足してる」

「相変わらず折れないなぁ」


 登校中、俺はひよりに何度したか分からない提案をするがことごとく即拒否られていた。

 そう俺の悩みというのはひよりが一切俺以外との人間関係を構築しないことである。

 とどのつまり、ひよりは完全に俺に依存しきってしまっているのだ。

 まぁ、それには色々と事情があるのだが、それはそうとこれから先俺以外と人間関係を作らず生きていく...なんてことは現実的に考えて不可能である。

 だからこそ、俺はまずは友達を1人でいいからなんとか作らせようとこうして提案するのだが...。


「でもなぁ、やっぱり色々な人との繋がりは大事——」

「私には翔太がいればいい」

「お前なぁ」


 この一点張りでなにを言っても聞き入れようとしてくれないのだ。別にひよりは人から嫌われているわけではない。

 俺の幼馴染である桐山 ひよりはどこか冷静で落ち着いた碧い瞳に腰ほどまでに伸びた艶やかな髪、身長はやや低めであるもののその他のスタイルはモデルかと見紛うほどであり、100人に聞けば101人が美少女と答えるような容姿を持っている。

 加えて、成績優秀、運動神経まで抜群ときている...人気がないわけがない。むしろ、どうにかしてひよりに話しかけられないものか、とみんながチャレンジしているほどなのだ。

 だが、ひよりは一切の誘いを断り頑なに俺以外と関係をもとうとしない。そのスタンスが変わることはもう永遠にないのかもしれない。

 ともすれば...。


「うーん、致し方ない...か?」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「そう」


 思わず漏れてしまった俺の独り言にひよりは不思議そうに上目遣いで小首を傾げるが、俺がそう返すとそれ以上は聞いてくることはなかった。

 そう、最近俺は考えていた。俺がひよりを避けることは基本的に無理である(過去に失敗あり)。なんなら、やりすぎると1週間くらい家に引きこもってしまう可能性すらある。

 それでは本末転倒だ。

 とはいえ、このままこの問題を放置しつづければいよいよひよりが今後生きていく上で、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

 故に発想の逆転。俺がひよりを避けるのではなく、ひよりが俺を避けて友達を作るように仕向ければいいのだ。

 まぁ、結論を言ってしまえば俺がひよりに嫌われてしまえばいい、ということだ。

 とはいえ、これは俺にとっては最終手段。俺だってひよりから嫌われるのは絶対に嫌だ。

 でも、それでも、このままではひよりが生きていけなくなってしまう。俺がひよりの人生を奪ってしまうことになり兼ねないのだ。


 それだけは避けなくてはならない。


 故に悩みに悩んだが選ぶことにしよう。


 俺は今日から桐山 ひよりに嫌われる。その為の作戦ももう考えてある。あとはアクションを起こすだけだ。



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 次回「セクハラしてみた」


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