第11話
少しだけ、青波千冬の話をしようと思う。
と言っても、これは白石灯火から見た彼女の話であって、実際のところ彼女が何を思っていたのかまでは、今となってはもう分からない。
3年と少し前。
彼女が消えてしまう、ちょうど1ヶ月前の事。
「大丈夫大丈夫! 私たちが、ぜっったい守るから」
青波千冬が、満天の笑顔でそう言うのを、白石灯火は隣で呆れ顔で見ていた。
またそんな安請け合いして。
そんな表情である。
何度も繰り返してきた、いつもながらの光景だった。
安請け合いだが、それを破ったことは一度もない。
自分が死んでも約束は守るだろう。
青波千冬とはそういう少女だった。
隣町から千冬と灯火の二人に相談に来た女生徒は、目に見えて疲弊していた。
「怪物に襲われているんです」
その女生徒はそう言った。
千冬の笑顔を受けても、女生徒の顔色は変わらない。
「……私で、最後なんです」
「最後?」
灯火が問う。
「私のクラス、みんな殺されちゃったんです。きっと、きっと次は私なんです」
××南小学校、6年3組卒業式。
その写真には笑顔の生徒たちが並んでいた。
その一枚の写真には、涙の跡が滲んでいて、震える手で何度も握り締めたのか写真の端が歪んで少し曲がってしまっている。
笑顔の生徒たちの顔には、一人、一人と、黒いボールペンで乱雑にバツが打たれていた。
写真の中でバツ印がないのは、その写真の持ち主である女生徒だけだった。
「みんな殺されちゃったんです」
写真を見せながら、もう一度、震える声で女生徒は言った。
その少女は灯火達と同い年だったから、この写真は一昨年のものということになる。
小学校から中学校に上がる際、引越した者や学区外の私立学校を受けた者も居た。
そのまま顔見知り達と学区内の中学校に進んだ者の中でも、また同じクラスになれた者、すっかり疎遠になってしまった者など様々だ。
そんな中で、30人近い学生が1ヶ月の内に死んだ。
共通点は一つだった。
『6年3組』。
魔装外套プラチナ 私ちゃん @harukawanosora
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