第4話

咆哮した黒い魔装は一瞬で距離を詰め、ビルの上から怪物に飛びかかり蹴り飛ばした。

数十倍はあろうかという体重差を意に介さず、漆黒の外殻が怪物の身体が跳ね飛ぶ。

魔装外殻の、その野生的な叫びとは裏腹に、攻撃には理性的な戦闘論理が見て取れた。

蹴りの反動で宙に舞った身体を形成した垂直の魔法陣に着地させ、魔装外殻は倒れた巨大な怪物を睥睨する。

灯火は、ただそれを呆然と見ていた。

「あれは……」

何?

黒鉄くろがね』が跳ねる。

倒れた怪物に捩じ込んだ蹴りを起点に、巨大な身体がバキバキと音を立てて凍結していった。

蹴り足を引き抜き、再び魔装外殻は宙を舞う。

そのまま勢いをつけて落下し、加速した踵を落とすと凍りついた怪物は散り散りに砕けた。

砕けた触手から落下していく人々を、灯火は咄嗟に魔法陣で受け止める。

氷片と化した巨大な死体の上から、黒い鎧の瞳が今度は灯火を見下ろしていた。

灯火は、両手で魔法陣を形成したままそれを見上げている。

二つの魔装が、夜の街で静かに対峙していた。


黒鉄くろがね』は振り返ると、最後に灯火を一瞥して再び跳んだ。

「……!待って!」

灯火は呼び止めたが、黒い影は既に遥か遠くのビルの上を駆け、すぐに見えなくなった。

「……」

変身を解き、制服に戻った灯火は街を離れた。

追うべきだっただろうか。

しかし、両手がふさがっている。

気絶している人々を、まさか投げ捨てる訳にもいかない。

迷いが――というかよりも、疑問が多すぎて状況に対応出来なかった。

すぐに人が戻る、また何事もなかったかのような日常が街に戻るだろう。


真黒の外殻の胸に輝く蒼い宝石を、灯火が見間違える訳がない。

物資を瞬時に凍結させるあの技は、灯火が焦がれている親友と同じ魔法である。

魔装外套『蒼玉サファイア』。

しかし、あれは……。

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