第25話 灯り(11/25の分)
天沢から連絡が来た。そうヒロコから告げられた時、香坂は驚きのなんのあまり反応できずにしばらく何も口に出せずにいた。
「メッセージが届いたんだよね。おじさんのことで話したいことがあるって」
スマートフォンの画面を見せて貰うも、あまりのことで内容がなかなか頭に入ってこない。
「それで、会って話せませんかって。明日の夜、この前行った居酒屋の近くの公園で」
ヒロコの声も耳から入ってはそのまま抜けていくようだった。混乱している香坂の目前で、おーいとヒロコの手が振られているのにハッとする。
「すまない、ちょっと驚きすぎてしまって」
ずっと出口の見えない暗闇を彷徨っていたせいで、突如として現れた解決に繋がりそうな灯りに、くらくらと目が眩む。
「天沢くんはやっぱり、俺が生首になったことに関係があるんだろうか」
「多分ね。おじさんの名前を出したらすぐに連絡くれたから、何も知らないってことはないと思うよ?」
香坂は天沢の顔を思い浮かべる。あの人懐っこい笑顔の好青年が、自分をこんな目に合わせたとは思いたくない気持ちが勝っている。
「どうする? 気が重いなら、私だけで話を聞いてくるけど」
あまりにも痛ましい顔をしていたのだろう。ヒロコに気遣わせて悪いと思いつつ、大丈夫だと香坂は応じる。
「これは俺の問題だから、直接俺が聞かないと。悪いけどまた、連れて行ってくれないかい?」
「もちろん。私だって、どうしておじさんが生首になったのか知りたいもの」
愉快そうなヒロコの声に、ありがとうと感謝を伝える。いつの間にかローテーブルに積まれた書物の首塚は消えており、画集や資料を広げてヒロコが逸話を説明してくれた日々が懐かしく思えてくる。
「おじさん、元の身体に戻りたい?」
「それは当然……」
言いかけて、続きが口から出てこなくなる。
元に戻ったところで、会社をクビになり全てを失った事実は変わらない。仕事も住処もない、絶望的な状況が待ち受けている。
それでも、これ以上ヒロコの世話になり続けるわけにはいかなかった。
「こんな姿じゃ、別れた妻に電話も掛けられないからね」
「電話なら、どんな姿かなんてわかんないじゃん」
笑うヒロコに、香坂の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「おじさんが元に戻ったら、また会ってくれる? お祝いしなきゃだから」
「もちろん!! 俺も散々お世話になったお礼をヒロコくんにしたいからね」
言った後で、通帳や財布が残っていれば、と慌てて付け足すと、ヒロコに余計に笑われてしまった。
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