第9話 つぎはぎ(11/9の分)

「数多の寺社仏閣の呪いのせいか、はたまた関係ないか。その辺はわからないけど、ついに将門公は藤原秀郷、いわゆる俵藤太により討たれ京都で晒し首になってしまう」

 そこまで言ってから、ヒロコは香坂にじっと目を合わせる。

「生首になった将門公は腐りもせず、血色もいいまま。夜になると『他の身体はどこだ。継いで、もうひと戦しよう』と大声で叫ぶんだって」

「生きていた? 生首の状態で」

 驚愕する香坂にヒロコは頷く。まさか、自分以外にも生きた生首がいたとは。それにしても生首になって尚、身体さえ戻れば戦う気力があるのが流石武将と言ったところだ。

「ただ、藤六と言う人が将門黄の首に対してこんな詩を詠んだ。

『将門は、こめかみよりぞ、斬られける。俵藤太が、はかりごとにて』

こめかみと米、俵という人物と米俵、謀ると計るが掛けられた詩で、それを聞いた将門公はからからと笑って、しゃれこうべになってしまった、と」

「それで、駄洒落のことを……」

 自分が負けたことを受け入れたのか、洒落の聞いた詩に満足したのか。香坂は同じ生首として親近感を抱きつつあっただけに、なんとなく将門の最後に切なくなる。

「ただ、別の説もある。晒し首になった将門公の生首は、光りながら浮かび上がり関東目指して飛んでいった」

「身体を探しに行ったのか!?」

 つい勢い込んで聞いてしまったのを、咳払いで誤魔化す。夢中になっている香坂ににやりと笑ってから、ヒロコは続ける。

「そうかもね。関東には他の身体が祀られてるお寺とかもあるし。ただ、途中で首は落ちてしまうの。それが、今で言う東京の大手町。今でも首塚が祀られてるんだけど、これが祟りの始まりだった」

「え、こっちも祟るの?」

「なんせ巫女さんから宣託だと、怨霊である道真公のお墨付きを貰ってることになってるからね」

 聞いた限りの想像でもわかる、恐ろしいタッグである。しかも、呪いを一身に受けて夢半ばで倒れているとなるとその悔しさは相当なものだろう。

「まず、首塚がある村で疫病が蔓延した。村を訪れた上人が供養すると疫病は終息。そして、将門公の霊を神様として祀ったのが神田明神ね。

そこからもまだ祟りはあって、関東大震災後に首塚の場所に当時の大蔵省の仮庁舎を建てると当時の大臣たちが10名以上不審死を遂げ、戦後GHQが解体しようとするとブルドーザーが突然横転して死傷者が……」

「ま、待ってくれ、関東大震災にブルドーザー? もしかして、割と最近の話?」

 理解の追いつかない香坂に、何を当たり前のことをとヒロコは首を捻っている。

「ちなみに、将門公は全身が鉄で出来ており、不死身。唯一の弱点がこめかみで、影武者が六人いる」

「そんな、設定が詰め込まれた主人公みたいな」

「その通りだよ。将門公の伝説は色んな形で残され、脚色されたり尾鰭が付いたり。それがつぎはぎされたのが、今の将門公のイメージになってるの。ただ、首塚の祟りは本当だから全部が嘘ではないのかもね?」

 親しみすら感じていた平将門が、一気に恐ろしく近寄りがたい存在に変わる。強い未練や恨みによって死して尚、現世に留まる程の気概というのは香坂には見当もつかなかった。

 少なくとも、炎のような激しい感情を身の内に感じていないので、自分が生首になった理由は別なんだろうな。

 理由がわからない残念さよりも、ほっとしている気持ちの方が強かった。

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