第8話 鶺鴒(11/8の分)
平将門。歴史の教科書で何となく目にした記憶はあるが、それ以上の情報を香坂は持ち合わせていなかった。ヒロコに向けられたページを読むと、平安時代に活躍した関東の豪族で、朝敵であり英雄と簡単に説明がある。そこで早速、香坂は躓いてしまう。
「朝廷の敵なのに、英雄でもあるの?」
「そう。亡き父の領地を勝手に親族が相続してね。腹を立てた将門公は身内に戦をふっかけるわけ。それで、反逆者扱い。その後、巫女さんからのお告げを受けて、自分のことを親皇と名乗り関東を独立国家にしようとするの。京の都から派遣されてた役人の横暴に耐えかねてた関東の民は、大喜びで将門公を英雄視したんだって」
すらすらと淀みなく語るあたり、ヒロコもこの偉人のことを好いているのだろう。彼女の新たな一面を見たようで、香坂も話しに興味が沸いてくる。
「将門公率いる関東軍の勢いに畏れをなした朝廷は、あらゆる寺社仏閣にお触れを出す。逆賊である平将門を調伏せよ、つまり呪い殺せってね」
「そんな、呪いなんて非科学的な……」
あまりの現実味のなさに口を挟んでしまった香坂だったが、ヒロコと言えば想定内の反応だとばかりに大きく頷く。
「当時は加持祈祷、鬼や怨霊は日常にあるものだったからね。その数十年前に、策略により流刑になった菅原道真公が怨霊として朝廷を祟り、災厄に見舞われるという大事件が起きているから」
「あれ、菅原道真は学問の神様じゃないの?」
「それは、怨霊に参って神様に祀りあげられたせい。崇めるから、祟らないでくれってお願いかな? 道真公は頭のいい役人だったから」
学業成就や合格祈願を元怨霊にしていたと考えるとぞっとしなくもないが、神様になったのも怨霊になったのも本人の意向ではないので可哀想で、自分の身に重ねるのは不遜だが、どうも香坂には他人事とは思えなかった。
「鶺鴒て小さな鳥、いるでしょ? 背中の黒いセグロセキレイとか。あの鳥も、天の神からの遣いとされる所もあってさ。殺すと祟りがある、親が死ぬ、蔵が潰れるなんて俗信が各地にあるくらい。可愛い小鳥に対してもそうなんだから、呪いなんて当たり前に存在してたんだよ、当時は」
「背中が黒いのに、背、綺麗……」
自然と口をついたおやじギャグ染みた呟きに、二人の間に妙な空気が流れる。
「そ、そうだ、駄洒落!! その、将門公が駄洒落とどう関係があるんだっけ?」
失態をごまかす香坂の勢いに気圧され、そうそう、とヒロコも再び説明に戻った。
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