第19話 代行者〜天秤座〜
「人間よ、私の頼みを聞いて欲しい」
私はこれからの人生、この時この化け物と出会った事を一生後悔し続けることになるとは夢にも思わなかった。
「代行者か。誰に頼むべきか」
善と悪。生と死。ありとあらゆるものを秤る天秤座を司る神ジュゴラビス。
自分と同じ思考、価値観を持った人間などこの世に存在するのかと疑問に感じる。天界に住む神々ですら誰ともわかり合えないのに。
もし仮に人類の中に自分に似た存在がいなかったら負けてしまうのかと考え、それはそれで仕方ないと受け入れる。全ては運次第なのだと。
ジュゴラビスは神力を使って約八十億人いる中から最初に天秤座の人間を把握する。次にその中から自分と同じ思考、価値観を持った人間を最初に選定基準にする。
最初からそんな人間が見つかるとは思ってはいないが、似た人間をちまちま捜すより少しずつ選定基準を下げて見つけた方がいいと早いた考えた。
そのため、最初に浮かんだ人間を代行者にしようと決めた。
こんな作業は本来なら自分に仕えている下級神ティーズに任せればいいのだが、今回だけは自分の命運がかかっているのだからそういう訳にもいかない。
「(最初から見つかる訳ないか。条件を下げるか)」
わかっていた事なので大して何も思わない。指を鳴らして条件を下げようとするとピコンと音が鳴り一人の人間が浮かび上がる。
ガタン。
勢いよく立ち上がったため椅子が倒れた。
「ハハッ…まさか…」
信じられず放心してしまうジュゴラビス。
「其方は私と同じなのか」
自分の目を疑うも自分と同じ価値観、思考を持った存在がいるという事実に胸が高鳴る。
もっとこの人間の事が知りたいと思い徹底的に調べ上げる。
「姫宮巴」
それが人間の名前。
二十七歳。女性。B型。家族構成。職業等あらゆる事を神力を使って把握する。
すぐに見つかった代行者に今すぐ人間界に降りて頼むのもありだと考えるも、少し姫宮巴の生活がどんなものなのか見てみたいと好奇心が生まれ観察することにした。
(一番最初に代行者を誰にするか決めた)
姫宮巴を観察して三十一日。残り期間二日。
ジュゴラビスは姫宮巴を観察してすぐに自分と似ていると確信した。自分の神力を疑っているわけではないが、見た限りでは確信がもてなかっか。
姫宮巴とジュゴラビスは普段の生活は全くといっていいほど真逆だが、価値観や思考は驚くほど似ていた。これほど似ているものなのかと気がついたときには三十一日も観察していた。
少し誤算だったのは他の人間も観察して姫宮巴と比較しようとしていたのに、夢中になり過ぎてそんな時間がもうない。
神にとって三十一日など物凄く短い大した時間ではないが、ジュゴラビスにとっては今までと比べられないくらい短く感じた。
それほど、姫宮巴に夢中になっていた。
数分前。
「(ジュゴラビス様、今よろしいでしょうか)」
アスターが神力を使って頭の中に直接話しかけてくる。
「(どうした)」
姫宮巴を観察しているときに話しかけられ一瞬不機嫌になるも、すぐいつも通りに戻る。
「(アナテマ開始まで残り二日となっております。ジュゴラビス様だけまだ代行者が決まっておりません。このままでは不戦敗になってしまいます。お急ぎ下さい)」
「(他の神は今何しているのだ)」
単純に気になった事を尋ねる。
「(一度人間界に降りたら天界には戻れないため、ジュゴラビス様以外の十一神は代行者と一緒に過ごされています)」
アスターの言葉を聞いて、三十日前の自分を殴り飛ばしたくなるジュゴラビス。
あの時さっさと人間界に降りておけば良かったと後悔する。
「(そうか、わかった。今すぐ人間界に降りる)」
そう言うとアスターとの通信を切り人間界へと降りる。
森の中木の上で音楽を聴きながら寝ている姫宮巴。寝ている彼女にそっと近づき声をかける。
ジュゴラビスは天界から姫宮巴を観察していたのでどこにいるかは分かっていた。
「おい、人間」
耳につけているものを外すそう声をかける。
「んー、何?誰…は?」
声が聞こえ目を開けるとそこには凶悪な顔つきをした化け物何目の前にいた。
「(あっ、これ夢だな。寝よう)」
まだ寝ぼけていた姫宮巴はそう思って目を閉じた。
「おい、寝るな」
そうジュゴラビスが言うも既に夢の中にいる姫宮巴には届かなかった。
「嘘だろ」
仕方ないので姫宮巴が起きるまで待つことにした。
四時間後。
「ふぁー、よく寝た」
目を覚ましたら空の色が青からオレンジに変わっていた。
「起きたのか」
そう声をかけられた姫宮巴は「うん」とつい答えてしまう。
答えてからん?と思う。自分は木の上にいるのどこから声がとした方を向くと化け物が宙に浮いていた。
「(うわー、夢じゃなかったのね)」
鞄の中に手を入れチョコを取り出し口に入れる。
「何か私にようでもあるの」
全く怖がる様子もなくそう尋ねる。
殺すのが目的だったら既に自分は死んでいる筈だから殺すのが目的では無いと判断した。
それに、自分が起きるまで待っていたので悪い奴ではないはずだと。
「ああ、ある」
そう言うとゆっくり近づき姫宮巴の顔をしっかりと見る。
「人間よ、私の頼みを聞いて欲しい」
「わかった、いいよ。私は何をしたらいい」
姫宮巴は化け物の瞳が悲しみや不安に押し潰されそうになっているように見えた。
このままほっといたら死んでしまうと。
それに、なんとなく化け物が自分に助けを求めているように感じた。
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