第18話 代行者〜乙女座〜



「うーん、今何時」


そう言ってスマホに手を伸ばし時間を確認する。


「九時か。よく寝た」


体を伸ばして上半身を起こすと「漸く起きたか」と声をかけられた。


基本家に人は上げたことはない女性。声が聞こえた方に顔を向けるとそこには恐ろしい姿をした化け物がいた。


「きぁーーーー」


急いで逃げようとするも足が絡まりベットから落ちてしまう。それでも何とか逃げようとするも今度は腰が抜けて思うように体が動かない。


化け物に殺されると覚悟し絶望する女性。


「(えっ、今のなに)」


女性の予想外の反応に戸惑うパルティノ。


女神達にこんな反応をされたことがないため、何故こんなに女性が怯えているのかがわからなかった。


もちろん、本来の姿のパルティノなら叫ばれることなんてなかっただろうし、寧ろ受け入れられていただろう。だが、今は恐ろしい化け物の姿をしている。


その姿で女神達に会えば彼女達も叫んで逃げ出した筈だ。


「落ち着いてくれ。勝手に君の部屋に入ったから叫ぶのはわかる。でも何もしない。だから落ちついてくれ」


とりあえず女性を落ち着かせるのが先だと考え優しく言う。女性がゆっくりと頷くと「ありがとう」と理解してくれたことに感謝する。


でも女性からしたら目の前の化け物に逆らったら殺されると思ったから、仕方なくいうことを聞いていただけ。選択肢なんて女性にはなかった。


「あの…私に何か用でも」


恐る恐る化け物に尋ねる。


「ああ、君に頼みたいことがあってね」


女性の質問で漸く本題に入れると喜ぶパルティノ。


「頼みですか?」


化け物が自分みたいな人間に何を頼むのかと不審に思う女性。自分に頼まなくても他の人に頼んでよと自分を巻き込まないでよと心の中で叫ぶ。


「ああ、君には俺の代わりにある者達と戦って欲しいんだ」


パルティノがそう言うと「(戦う?誰が?私が?冗談でしょう。私女だよ。喧嘩なんて生まれて一回もしたことないのに。人選間違ってる。何でよりによって私を選ぶのよ)」


最後の方は化け物に対する怒りが芽生え始める。


「私物凄く喧嘩弱いんですけど」


遠回しに他の人間を選べと言う。


「それは見ればわかる」


女性の問いにそう答えるパルティノ。


「(なら、どうして私を選ぶのよ。私に死ねって言ってるのこの化け物は)」


殺されたくはないから言わないが心の中では相当化け物に文句を言う女性。


「君は何か勘違いしているね」


女性の表情で何を考えているのか察したパルティノ。


「それは、どういう意味」


化け物の言葉を理解できずそう尋ねる。


「戦いは力の強さで決まらないってこと。力が強いだけでは勝てないってこと」


簡潔にそう言うパルティノだが、余計に混乱することになった女性。


「つまり、どういうこと」


パルティノの言っていることが理解できない女性。自分に頼むのならもっとわかりやすく言って欲しいと思う。


「そのままの意味だよ。戦いに必要なのは力だけじゃないってこと。それに、この戦いには神が関わっているから人間の力がどれだけ強くても意味がないし。そもそも、役に立たないと思うし」


神の力の前では人間の強さなど意味がないと言うパルティノ。


「(えっ、今神って言った。言ったよね。は?どういうこと。神が戦いに関わっているの。もしかして、神同士の戦いに巻き込まれたってこと。冗談でしょう。そんなの引き受けるわけない。絶対に無理)」


女性は絶対に化け物の頼みを引き受けないと強く誓う。


自分の平穏な生活を壊さないため断ろと「それ、別に私じゃなくてもいいよね」と尋ねる。


「確かに君じゃなくても大丈夫だね」


パルティノがそう言うと心の中でガッツポーズをする女性。


「なら…」


続きを話そうとする前にパルティノが「でも、俺は君を選んだ。言っている意味がわかるよね」と言われてしまう。


「もし、嫌だと言ったら」


パルティノの言った意味は理解したが最後の悪あがきにそう聞く。


「ご想像にお任せするよ」


有無を言わさない笑みを女性に向けるが、今は化け物の姿なので、凶悪な笑みで気絶しそうになる女性。


「(ですよね。そうなりますよね)」


想像通りの答えに泣きそうになる女性。


「わかったわよ。あんたの頼み聞けばいいんでしょ」


もうどうにでもなれといった感じでそう言う。


「そうか。それはありがとう」


パルティノがそう言うが「(白々しい。断られる気なんて最初からなかったくせに)」と頭の中で化け物をボコボコにするのを想像して怒りを沈める。


「そういえばまだ自己紹介してなかったな。俺は黄道十二神の乙女座を司る神、パルティノ。よろしく」


「(は?あんたが神様なの。化け物の姿のあんたが)」


そう口に出したかったが出したら最期殺されると思い何とか我慢する女性。


「私はローズ・マリー・アップルビー。よろしく」


そう言うローズだが心の中では絶対よろしくしたくない、早く天に帰れと祈っていた。


「ローズか、いい名前だね」


「そりゃあどーも」


ローズは自分の名前があまり好きではなかった。よく名前のせいで悪口を言われたから。


「そうだ。何か質問ある。気になったことやわからないことがあったら言って」


パルティノがそう聞くもローズは「大丈夫」と答えた。


「そう。もし何かあったら遠慮なくいってくれ」


「わかりました」


ローズはそう返事したが、絶対無理だと思った。もし仮に遠慮なく言ったら殺されるだろうと。


何でもかんでも聞いて言い訳じゃない。生き残る為には賢い選択をしないといけない。


だが、その三時間後ローズの気遣いも虚しくパルティノは今の自分の姿を見て発狂してしまう。





「アスター。代行者が決まった」


「お呼びでしょうか、パルティノ様」


いきなり現れたアスターに腰を抜かすローズ。


「うん。彼女を俺の代行者にする。名前はローズ」


「かしこまりました」


そう言った後ローズの方を向き頭を下げ「初めましてローズ様。私はアスターと申します。以後お見知りおきを」と言う。


「ローズ・マリ・アップルビーです。こちらこそ宜しくお願いします」


ローズがそう言うと優しい笑みを向けるアスター。


なんて美しい存在なのだろう彼はと魅力されるローズ。


「では、これよりローズ様にはパルティノ様の代行者としての証を体に刻んでいただきます」


アスターの言葉にローズがえっと驚いているのを他所に「どこでもいいのか」と勝手に話しを進めるパルティノ。


「はい。問題ありません」


その言葉を聞くとパルティノはソファーに座り指を鳴らしてローズを足の中に移動させた。


「は?えっ…は?」


いつの間にかパルティノの足の中にいる自分に戸惑うローズ。


「動くな」


そうパルティノが言うとローズは微動だにしなくなる。


ローズが動くのを止めると右太ももに手を置き神力を注いでいく。


「これでいいのか」


ローズの右太ももに入った乙女座の紋章を見せる。


「はい、問題ありません。それでは私はこれで失礼します」


そう言って天界に戻っていくアスター。


アスターを見送りローズにアナテマについて詳しい事を説明しようと話し始める。


「…とこんな感じだけど理解できた」


パルティノがそう問いかけると「(そう言うのって最初に説明するもんでしょう)」と呆れるローズ。


まぁ、最初にいようが後にいようが結局断れなかったから対して変わらないから仕方ないと諦める。


「多分大丈夫」


そう言うもほぼ完璧に理解できているローズ。


「そう、ならいい。まぁ、わからないことがあったらその都度聞いてくれ」


「わかった」


ローズが頷きアナテマについての話しは終わり人間界についての話しをパルティノが教えて欲しいと頼み、ローズがそれについて自分なりの解釈で説明する。





三時間後。


ローズとの話しであっという間に時間が経った頃人間の家の話になった。


パルティノがどんな感じかわかるように案内をしながら説明をした。最後に風呂に案内すると洗面台にある鏡を見て急に発狂する。


「なに?いきなりどうしたの」


化け物の姿なので相当焦り出すローズ。何か余計な事を言ったのかと思い死を覚悟する。


「か、鏡」


「鏡?鏡がどうしたの?」


鏡に映るパルティノを見てそう問いかける。


「化け物が…」


そう言ってその続きを話すのを止める。その続きを言うと認めないといけなくなるため。


「なに言ってんの。あなたでしょう」


パルティノが言葉にするのを躊躇っていたのを躊躇することなく言い放つローズ。


「(嘘だ。これは俺じゃない。俺なわけない)」


化け物の姿の自分を受け入れられず現実逃避する。


どうしてこうなった。なにが原因なんだ。誰がこんな事をしたんだ。これは一体何の罰なんだ。そう頭の中で自問自答していて罰という言葉に引っかかる。


「(罰…。最近どこかで聞いたような…)」


最近の出来事を思い出すパルティノ。罰、罰と考えながら遡っているとあの日の事を思い出した。


「(王か。これは王の仕業か)」


犯人が王だとわかると「あのクソ王め」と恨みを込めてそう呟く。


その言葉にビクッと体が動くローズ。


「ローズ。この戦いは絶対に負けられない。何としても勝つぞ」


元々負けるつもりなんてなかったが、化け物の姿にされこれ以上惨めな姿を晒すことはできない。どんな手を使っても勝ってやると決意する。


「はい」


パルティノの迫力に圧倒され気づいたらそう返事していた。

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