第6話 代行者〜牡羊座〜
「(アスター)」
頭の中で叫ぶクリオフ。
「クリオフ様、いかがされましたか」
天界からクリオフに応答する。
「(俺の姿が化け物になっている。どういうことだ)」
「今のその姿は王からの罰になります」
「(罰だと)」
自分が何の罰を犯したと怒りを露わにするクリオフ。そんなクリオフの姿に命の危機を感じる男。
「はい。事前にお伝えしなかったのは王からの命で伝えるなと。その姿は己の罪を忘れるなと、王からのメッセージです」
「(ずっとこの姿なのか)」
外見などこれまでの人生で一度もきにしたこと無いクリオフだが、流石にこの姿は嫌だと思う。
「いえ。己の罪を自覚し反省したら戻るとのことです」
「(そうか、わかった)」
クリオフはこの姿が王のせいだとわかり自分に起きたことをようやく理解した。
はぁー、深いため息をつき怒りを沈めようとする。急に黙りだし微動だにしないクリオフから男は不審に思う。クリオフが急に男の方を向き近づいていく。目の前までいき男の腕を掴む。
「この姿の俺を神だと信じろと言っても俺でも無理だと思う。だが、俺が神なのは本当だ。己の魂にかけて誓おう、嘘ではないと」
男は先程までクリオフに恐怖を抱いていたのに、目が合いクリオフの言葉を聞いていたらその感情はいつの間にか消えていた。男はクリオフを完全に信用したわけではないが、話ぐらいは聞いてもいいなと思うくらいには少し心を開いていた。
「俺の名はルーカス。ルーカス・ルドベキア・シルズ」
好きに呼んでくれ、とルーカスは自分の名を名乗った。いきなりルーカスが名を名乗るので何故と不思議に思う。そんなクリオフに気づき「俺の名を最初に聞いてきただろう」と言う。
「そうか。では、ルーカスと呼ばれてもらおう。私のことはクリオフと呼んでくれ」
ルーカスは神と名乗った目の前の化け物を呼び捨てにして呼ぶか、それとも本当に神なら様を付けて呼ぶべきなのかと悩んでしまい名を呼ぶことを躊躇ってしまう。中々名を呼ばないルーカスを不審に思い見ていると何となく考えていることがわかり「様をつける必要はない。呼び捨てでいい」と言った。
「クリオフ」
本人がいいと言うのでその好意に甘えさせてもらうルーカス。クリオフは名を呼ばれ最初より少しだけ雰囲気が柔らかくなった。
「俺に何かしてほしいことがあるのか」
ルーカスは自称神のクリオフが何故自分の前に現れたのかを考えその答えに辿り着いた。神が人間の前に現れるなど普通なら有り得ない。なら何故自分の前に現れたのか。それは神にはできないことを代わりにしてもらうためではないかと考えた。
「あぁ。俺の代行者となって代わりに戦って欲しい」
「代行者?戦う?何と?」
クリオフの言葉を理解できないルーカス。そもそも代行者とは。誰と戦うのか、何のために。聞きたいことが沢山ありすぎるが上手く言葉が出てこず黙ってしまう。
「俺以外の黄道十二神の代行者と」
つまり自分と同じ代行者が自称神の十二神に代わって戦いをすることかと考えるルーカス。そもそも何故そんな事になったのか疑問に思いクリオフに尋ねる。
「何故代行者を選ぶ。自分達ですればいいだろう」
「それはできない」
首を振るクリオフ。
「何故?」
「俺達は星の王の次に位の高い神。そんな神達が戦えば人間界は消滅しかねない。天界も無事ではすまない」
神々の戦いとはそれほど凄まじいのだと言うクリオフ。そんな神々の戦いを止められるのは王のみだと。だからって何故人間を巻き込む、王が黙っていないのではと尋ねるとその王の命で代行者を立てて戦いをする事になったと説明される。
「(王様ってのは神や人間関係なく横暴な存在なんだな)」
改めてそう思うルーカス。
ルーカスはその戦いは何の為に行われるのか、どういった経緯でそう決まったのか話して欲しいとクリオフに頼む。その内容次第で代行者になるかを決めると。
クリオフはルーカス以外に代行者を頼む気が無かったので全てを話した。十二神が王を失望させこの戦いが決定したこと、一神の神のみ王から最後のチャンスを与えられること、もしどちらかが死ねばもう片方も死ぬといことも。この戦いのルールも何一つ隠さず全てを話した。
クリオフの話を聞いて目を閉じ頭の中を整理するルーカス。クリオフはそんなルーカスをずっと見つめていた。しばらく経ってルーカスが口を開く。
「何故戦う」
ルーカスの問いに今度はクリオフが黙り込む。ルーカスはクリオフが死を恐れているとも地位に固執しているとも思えなかった。なら何故勝つことに拘っているのか、そもそも何故この戦いに参加したのかがわからなかった。
クリオフはルーカスの問いに考えを巡らす。王に言われるまま代行者捜しをしていたが、本来のクリオフなら興味ないといって参加などしなかっただろう。では、何故自分はこの戦いに参加したのだろうか。
「己の正義を貫くため」
気づくとクリオフはそう口にしていた。
「正義」
クリオフの言葉を繰り返すかのようにそう呟いた。
「(あぁ、そうか。そうだったのか)」
勝手に一人で納得し始めるクリオフ。
「王は俺の正義は行き過ぎていると言った。その力で弱者を傷つけたと。でも、この力を一度たりとも己の欲の為に使ったことは一度もない。王に俺は間違ったことは何一つしていないと証明する為に参加した」
拳を強く握り締めるその姿は必ず王を見返すと意気込んでいるように見えた。
「ルーカス、俺の代行者になってくれ。お前が必要だ」
ルーカスに手を差し出すクリオフ。
「いいよ。お前の代行者になろう、クリオフ」
その手を力強く握り返す。
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