第5話 代行者〜牡羊座〜
「貴様、名はなんという」
クリオフは目の前の男にそう問いかける。
十七日前。
「セラ」
「お呼びでしょうか、クなリオフ様」
クリオフに仕えるセラと呼ばれる下級神が姿を現す。
「人類の中から私に似た者を何人か見つけて欲しい」
「わかりました。いつまでに見つければよろしいでしょうか」
クリオフは用件だけ言って説明をしない。セラはいつもの事だし、クリオフには何か考えがあるのだろうと思い気になっても何も聞かない。
「できるだけ早い方がいい」
「かしこまりました」
用件は済んだためセラは部屋から出る。
「(何故急に人間を。そもそも高貴なクリオフ様になる人間などいるものか)」
クリオフを尊敬しているセラは、クリオフの頼みだから見つけたいと思う気持ちとクリオフに似た人間などいる筈もないという気持ちが交互に押し寄せ感情がぐちゃぐちゃになっていく。
これも仕事だ落ち着け、とセラは自分に言い聞かせ神力を使ってクリオフに似た人間を捜していく。まず、最初に条件を四つだしそれに当てはまる人間を選んでいく。
一、嘘をつかない。
二、曲がったことが嫌い。
三、力で他者を傷つけない。
四、己の正義を信じ貫ける。
この四つに当てはまる人間を選んでいく。四つ全てに当てはまる人間は約八十億人中十七人。その十七人の人間の情報を一人一人まとめていく。これら全てを五日でセラは終え、急いでクリオフに報告しに行く。
「クリオフ様」
扉の前で名を呼ぶセラ。
「入れ」
許可を貰い部屋へと入る。
「失礼します。お待たせしました、クリオフ様。こちらに候補を纏めております」
金色の水晶をクリオフに渡すセラ。
「セラ。感謝する、助かった」
また何かあったら呼ぶ、と言って部屋から出るよう指示する。セラが出てから候補の人間達を確認しようと水晶に手を置き神力を注ぐと十七人の人間達の情報が浮かび上がった。
「さて、誰を選ぶか」
クリオフは十七人の情報を見比べる。情報だけでは判断できないと思い指を鳴らして十七人の映像が浮かび上がる。普段からどんなふうに過ごしているのか十七人の行動を監視して決めようとするクリオフ。
十七人を監視して、正確には一人の人間を監視して十日が経ち漸くクリオフは誰を代行者にするかを決めた。そうと決まったらすぐ人間界に行こう、と天界と人間界を繋ぐ唯一の扉へと指を鳴らして移動する。
「これはクリオフ様、お疲れ様です」
扉を守る上級神達がクリオフに話しかける。
「あぁ。人間界に用がある。開けてくれ」
クリオフが門番にそう言うと直ぐに扉を開ける呪文を唱え出す。
扉が開くとクリオフは人間界に繋ぐ道へと歩き出す。しばらく歩くと光の中に包まれる。包まれた瞬間人間界の空に移動する。
「人間界に来るのも久しぶりだな」
最後にクリオフが人間界を訪れたのは五百年前。
空の上から代行者の気配がどこかを探る。近い所から気配を感じるが周りに誰もいないかも確認する。
「見つけた」
周りに誰もいない。建物の中にいる。今は一人だとわかり指を鳴らして代行者の前へと立つ。
男は家で寛いでいたらいきなり目の前に自分よりでかい化け物が現れた。何が起きたかわからず死を覚悟したが、咄嗟に化け物から距離をとった。
「(何だこの化け物は)」
男は生まれて初めてみた化け物に恐怖に支配されるが、身体は瞬時に拳を構えていた。化け物の動きを一瞬たりとも見逃さないよう集中するが、一瞬でまた目の前に距離を詰められた。
「(嘘だろ、瞬きしはしなかった。それなのに全く見えなかった)」
男は自分の想像を超える化け物にどう戦うべきなのかと考えを巡らせるが一向に見つからない。
「貴様、名はなんと言う」
化け物が自分に名を聞く。何故自分の名を知りたがる。そもそも何故自分の前にこの化け物は現れたんだ。
「人の家に勝手に入ってきて最初に言う言葉がそれか」
「では、何を言うのだ」
嫌味ではなく本当にわからずそう尋ねるクリオフ。クリオフは王の次にくらいの高い十二神の一神。王以外の部屋に入るとき以外は好きなときに好きに入れる。そのため、男の質問の意味がわからなかった。
「人の家に入るのならまず家主に許可を取るのが常識だろう。人に名を聞くのならまずは自分から言うべきだろう」
男は化け物に恐怖よりも怒りが勝ちそう言い放つ。
神と人間の常識が一緒のはずが無い。価値観も何もかも違う。お互いの言動に理解出来ない。
男は勝手に家の中に入ってきた化け物に殺されると思い死を覚悟した。
クリオフは自分は神なのに何故この人間は自分に恐怖の目を向けさらに拳を構えているのだと。
「そうか、それはすまない。俺の名はクリオフ。黄道十二神の一人。司る星座は牡羊座だ」
クリオフは男が自分が神だとわからず恐怖しているのだと思い先に名乗ったが、何故か男はクリオフの言葉を聞いて困惑した。
「お前が神だと、冗談はやめてくれ。神がそんな禍々しい姿のはずないだろう」
確かに人間にはできないことをこの化け物はやっているが、それは神以外にもできる。そもそも神というには真逆すぎる姿だと思う男。
クリオフは男の言葉が理解できなかった。禍々しい?神々しいの間違いでは。生まれて初めて言われた言葉にクリオフは困惑する。もしかして、自分は選ぶ人間を間違えたのかと思いふと横を見ると、鏡に写る化け物の姿が見えた。クリオフはゆっくり鏡に近づく。これは俺なのか、この姿は化け物ではないかと。
クリオフの本来の姿は十二神の中で最も体格が良く背も一番高い。一番男らしいという言葉が似合う。そんな神だったが、その姿の面影もないほど今の姿は酷い有り様だ。
「これは一体何の冗談だ」
クリオフは自分の身に何が起きたのか全く理解出来ていなかった。
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