第16話 かなたwithマカロン

 京終きょうばてのアトリエに、かなた君がやって来た。

 我が弟、逸歌いつかの同級生である。うわ、本当に染めてる。それが、初対面の感想だ。

「よぐ来たなす」

 にんじん頭に、眼鏡のちびっこがえっちゃんを見上げる。そして、小さく頷く。

「アンシャンテ、ジュマペールカナタ」

「フ…。フランス語だと!?」

 衝撃を受けるえっちゃん。

「かなた君。えっちゃん、日本語わかるよ」

「えっ、そうなん!?」

 えっちゃんが、口をパクパクさせている。

「京終先生。この子、可愛いよ。将来、文学少年になりそう。そして、あわよくば『ぐるぐるの会』に入れましょうよ」

 かちんと来たのは弟である。立ち上がり、かなた君に向かって指差す。

「勝負だ!」

「え、なんで…?」

 ぽかんとしている。

 えっちゃんは、頬を手で包んでほくほくしている。

「僕だって、えっちゃんのミューズになれなかったのに!」

「みゅ…。え、何?」

 困惑。

「かなた君が可愛いからいけないんだ」

 ぷいっと横を向く。見る見るうちに溢れる涙。さすがに、可哀想である。

「なんで…?」

「手を出してないのに、泣かないでよ!」

 追いすがるかなた君。あ、やばい。逸歌が、かなた君の手を払い除ける。

 なんとかかなた君を受け止める。当然、かなた君は号泣。

「勘違いしないでよね。かなた君より、うちのお兄ちゃんのほうが可愛いんだから!」

「おおう…」

 ツンデレかつブラコン発言である。

「末っ子ポジションが取ってかわられるから嫌なのかと思いきや…」

「もう、みつ君も違う!」

 ご立腹である。

「ごめんね。逸歌くん。マカロンあげるから」

 ぐすぐす言いながら、可愛らしい箱を差し出す。

「きれいなもなかだね…」

「マカロンやで」

 逸歌がぱくっと食いつく。もしゃもしゃ。

「えっ、可愛いんだけど!」

「可愛いよねえ、マカロン」

 ニコニコするかなた君。そうそう。マカロンは味じゃない。ビジュアル重視だ。

「お二人もどうぞ」

 皆で、おやつタイム。うん、乙女だな。かなた君。思わず面倒なロイヤルミルクティーを献上してしまいたくなったほど。

「えっ、嘘。えっちゃんとかなた君が語らっていると、まるで少女漫画の世界…!!」

 口元に手を当てて感動していると、逸歌がうんざりした目を向けてきた。

「僕、おせんべいのほうが好き」

「まあまあ…」

 うん。うちの子は、しょうゆ味だよね。

「お姉さん、うちの妹の人形に似てはる」

「実は、お姉さんはよく着せ替え人形にされているんだ。男の子たちから」

 かなた君が、きゅんとする。

「えっ、もしかして僕も…!?」

「妹さんに、前に撮った写真あげよっか」

「ええ…!?」

 きゃあきゃあ騒いでいる。完全に、女子のノリである。

「かなた君に、えっちゃん取られた…」

「あのね、逸歌くん。人はみんな違うものが好きなんだよ」

 しばし、考え込む弟。

「だって、えっちゃんのあんな笑顔見たことないよ!」

「大丈夫。お兄ちゃんもはじめてだよ」

 以前、坂木秀明さかきしゅうめい氏にえっちゃんの笑顔が見たいと相談したものだっけ。懐から財布を取り出す。

 弟が、お前マジかという顔で見上げてくる。

 僕も、悪い大人になってしまったなあ…。

「えっちゃん、これ何だ!?」

「わあ、お金だあ!」

 うん、いい笑顔。







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あおみどり 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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