第15話 にんじん頭

「あのね、えっちゃん…」

「うん、どうした?」

 絶賛みつあみとちょうちょ結び練習中の逸歌いつかくんに声を掛ける。心なしかしょんぼりしている。

「小学校でね、かなた君が肘んところに包帯してたの。それで、湿布くさいって言われちゃって…」

「ん? 脱臼でもしたのかな」

 逸歌くんの手が止まる。振り返る。ごめん寝している。

「やだ、可愛いんだけど!」

 すかさずスマホで撮影する。

「僕がやりました…」

「腕でも引っ張ったのかな?」

「そんなつもりはなかった。ただちょっと手首をくるってしただけ…」

「ああー…」

 そりゃあ、ちびっこの腕の関節をきめたら、外れちゃうかあ…。逸歌くんの上半身を持ち上げて、よしよしする。

「だって、みつくんのこと書いてる紙取ろうとしたんだもん…」

 涙声で、頬を膨らませている。なんだ、これ。可愛いなあ。

「あれだね。『赤毛のアン』の『にんじん、にんじん』だね?」

 愛らしさ爆発か。ブラコンだなあ。

「はあ…。そうなんだよ。かなた君ったらまるでにんじん頭なんだよ」

「はい?」

 逸歌くんと目を合わせる。

「僕は、茶色の髪の毛が好きって言ったら、頭がにんじんに」

「最高かよ!」

「最低だよ…」

 しゅんとする逸歌くんであった。


 かなた君は、髪を染めさせてくれなきゃ学校辞めてやるからと豪語したらしい。ちなみに、彼らは名門私立小学校の児童である。小学校だから、校則で禁じられている訳ではないだろうが…。良いのか?

「かなた君とやらも、何かに目覚めたのかもしれませんね…」

 何だか子供たちを見てはニヤニヤしている坂木秀明さかきしゅうめい氏と石矢世津奈いしやせつな氏とを連想させた。

「何に?」

 顔をしかめる我が師匠。

「だって、クラスの格好良い男の子から拘束されたんですよ」

「ああ…」

 遠い目をする兄。

「うちの弟、あろうことか、かなた君の頭はにせものだ、全然きれいじゃないって言って、泣かせたらしいよ…」

 染め損ではないか。

「そして、これから我々の頭を見に本人が来るよ」

「かなた君が来る!」

 わくわくが止まらない。


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