第13話 太巻と手鞠寿司
「あのさ、えっちゃん」
「はい?」
節分でもないのに、恵方巻スタイルで太巻を食していたえっちゃんは振り返った。
美術館の控室のことである。
「それ、切ってから食べたら? のど詰まらない?」
「のどは詰まりますが、関西では通年で丸ごとの太巻がパック詰めされて売られているのですよ。これは、もう丸ごと食えとのスーパーからのメッセージですよ」
「いや、切るのが面倒だからじゃないかな」
えっちゃんが、冷たい眼差しを向けてくる。
「それを言うならば、私も同じです」
「だろうね」
溜息を吐く。そして、手許の弁当箱を覗く。色とりどりの手鞠寿司。
「いや、何でだよ」
思わずテーブルに拳を叩きつける。
「は?
ドヤるえっちゃん。ん~? 頭を傾ける。
「何故、僕は各所で、美少女扱いをされるのか…」
「ああ…。
えっちゃんがしんみりしながらほうじ茶を飲む。ばっと顔を向ける。
「兄だよ。兄以外、何なの?」
「対外的にはどう見ても親子ですが。まあ、同級生のお父さんより、うちのお兄ちゃんがいちばん可愛いとは自慢していましたが。それは解ります」
うんうん頷くえっちゃん。
「この前、逸歌くんが
「ブラコンじゃないか!」
それで、やたら、えっちゃんの髪の毛をいじりたがるのか。
「一方、坂木さんは我が子が巣立ってからの、ちびっこのお世話にクラクラしてしまいまして…」
「いや、だったらもう京都に引っ越せばいいのでは。あの人、京都にも家あるし」
えっちゃんは、立ち上がった。
「坂木父には、
「石矢さん…」
石矢さんは、正直、苦手である。
「まあ、でもね」えっちゃんが、ぱんと手を叩く。「大丈夫ですよ。たとえ、逸歌くんが初恋をひきずって、生涯、年上で陰のある人しか好きになれなくてもね」
大丈夫ではなかろう。完全に、母の血である。ええ~、うちの弟…。
えっちゃんは、そそくさと近寄り、耳打ちした。
「石矢さんは二児の父らしいですよ」
「はあ?」
意味が解らなかった。
「え? あの人、
「はい。しかし、それ以上に、
「ああ…」
何だか了解した。昼ごはん終了。
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