第11話 光源氏じゃないですか
ある日、京都の
世の中には、「ポリアモリー」なる概念があるらしい。
現代社会の日本において、恋愛や結婚は一対一が正しい、好ましいとされる。つまり、それと対になる考え方である。
坂木父からそういう言葉があるのだと教えられたとき、私は口走った。
「光源氏じゃないですか」
「うん、まあねえ…。でも、実際の平安時代の貴族で、官職持ちはなかなかのブラック職場だったそうだよ。しかも、やはり、正式な奥さんは一人だけ」
「まあ、そうですよねえ…」
非常につまらないと思った。
「もうファンタジー小説じゃないですか。男女双方から見て」
「だから、流行ったんだろうね。あれ、男は書けないよ」
女官は、大抵、主人に
「でも、現代でも、結婚はしたくないけど、恋愛脳の人っていますよね。現在の結婚制度が瓦解すれば、逆説的に光源氏的家族いけませんかね?」
坂木父が、遠いところを見遣る。
「うん、まあ、大っぴらに言わないだけで、そういう人たちもいるだろうね」
そこで、
坂木父が首を傾げる。立ち上がり、坂木父の耳元で囁く。
「ちょっと小耳に挟んだのですが。
「ああ、うん…」頷き、こちらを見上げてくる。「なんかね、
いいのか? それは、いいのか?
まあ、席に着きなさいとすすめられる。座った。
坂木父は、机に肘つき、手にあごを乗せた。
「男女だったら、心配もあるけどね…。うん」
そこで、私は一息吐く。
「と言うか、あの人の奥さん的には、色々どうなんですか?」
「あのね、
心なしか、坂木さんの表情が固い。
「まあ、あなたたち男子二人は
坂木さんは、ふっと笑った。
「それこそ、石矢君は呉碧から教わった言葉を伝えたんだよ。夫婦だからと言って、恋愛関係にならなければなんてことは決してない。もちろん、君も他に好きな人がいてかまわない。だから、純粋に考えてみてほしい。僕は、結婚相手としては、かなりの優良物件だと思うけどとね」
目からうろこが落ちた。
「そうか。結婚と恋愛と生殖は別でいいんですね」
「そうだよ、エリちゃん。だから、仲良し三人組で一緒に暮らしなよ」そこで、咳払い。「この家買っちゃったし」坂木さんのいい笑顔。
その提案は、なんだかとても素敵なことのように思われた。世界がキラキラして見える。
玄関から、美古都さんの「ただいま」が聞こえてくる。
「なんとスーパーで、バラ焼きを見つけたんだ。みんなで食べよう」
ほくほくしている。すっと手を上げる私。
「この前、坂木家の男子三人といっしょに寝たと伝えたらば、えりりんとえりこに、エリーゼえろい、エロガッパとこきおろされたので、
ぽかんとする坂木親子。
「それだと、またはすっぱ扱いされるのでは?」
うんうん首を振る美古都さん。
「だって、小一男子ですよ? どうにもなりませんよ? え、私、ショタだと思われてるんですか?
「エリーゼさん、二人に何て紹介したの?」
ぐっと息を呑む。
「私と同じ一年生で、同じ干支の男の子ですよ!」
「ああ…」
親子の声が重なった。
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