第7話 視覚優位

 謎は全て解けた。

 新学期のゴタゴタが片付き、京都から美古都みことさんがやって来た。私の大学進学のお祝いにと、カフェーの女給スタイルでせんべい汁としょうゆとみそ両方の焼きおにぎりを作ってくれた。アトリエにアイドルが!

 しかし、いかんせん話が盛り上がらない。

「エリーゼさんに似合いそうな着物があったから」

 緑に白い花。袴なら動きやすいからと、小豆色のをついでに。

 ごはんを食べていたら、無性に泣けてきた。

「一年生の時分はいつもこうなのです」

 美古都さんは、微笑む。ついで、頭をなでる。

「だから、世津奈せつなが男子二人の抱き枕は要らないかと聞いただろうに」

「それは、恥ずかしい…」

 鼻をすする。

「あのねえ。エリーゼさんは、幸せの基準が視覚優位なんだよ」

「はい?」

 顔を上げる。

「僕の場合は、とにかく一緒に居るということが肝要なんだ。もうそれだけで大満足。だって、血も繋がらないのにわざわざお父さんになってくれた人が居るんだよ。奇跡だよね。だから、小学校に入学した時は僕も最悪だったよ」

 美古都さんは、小首を傾げる。まあ、確かに四六時中くっついていた父親から引き離されたら、そう思うのも無理ないか。

「でね、エリーゼさんの幸せは、目なんだよ」

 美古都さんは、自分の目を指さす。

「エリーゼさん、世界史の成績が悪くて、教師と殴り合いに…」

「いや、殴ってはいないですよ」

 冷静につっこむ。

「だって、エリーゼさん、数学は偏差値七十でしょう」

「なんだか肌に合わなくって…」

 目尻に涙が浮かぶ。

「絵的に、つまらないって感じたんじゃない?」

「は…?」

 よく解らなかった。

「話は変わるけど、世津奈がエリーゼさんに洋服買ってあげたでしょ。で、クソつまらない授業だって服さえ可愛ければ少しはマシじゃない?」

「うん」

 小さく頷く。それは確かに。

「エリーゼさん、美少女かイケメンの出てこないアニメは切りがちだし」

「うん」

 何か解りかけてきた。

「でもって、平安時代と明治時代は好きでしょ」

「やはり、見た目か!」

 美古都さんは、満足そうに微笑む。

「つまり、世界史はえないから苦手だったのか!」

 数学は幾何が得意だし、点や線の定義だけでも白ごはんがいただける。古文は話の中身が面白いからいける。評論は図形的に解ける。生物、化学はビジュアルそのものである。

「絵ですね!」

 だから、つまり、塩顔イケメン認定されている自分と場が盛り上がらずとも当然との結論らしい。……。自分で言うか?

「だから、我々にはのぞみちゃんが必要だ」

 唾を呑む。

「でも、あの子まだ中学生ですよ?」

 まだ制服の青いシャツ着てるんだよなあ~。高校が白シャツで、後からできた附属中学のほうがおしゃれな青シャツ。

「まあ、年の差は仕方ないさ。きっと夏休みには遊べるだろうし」

「夏休みかあ~…」

 遠いなあ。

 結果、美古都さんは現実的な解決案を示した。

「県立美術館に行こう」




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