第5話 ぽこぽこ
時は、京都駅でのショッピングのあと。
「おおう、町家だ…」
「町家だね」
隣で、
「お初にお目にかかります。
唇が三日月の形を作る。ガタガタと扉が揺れる。
「あの…。あ、あなたが伝説の…」
「はい。私が、
「石矢さんって、本当にお医者さんだったんですね」
面白い。お座敷で、隣に座る石矢さんは横目でこちらをにらむ。
「それ、男子二人にも言われたっけなぁ…」
どこか遠くを見ている。私は、目の前でうなされている人物を見下ろす。
「あれ。この人、着物ですよ。まだ若いのに」
「だね」
至極、どうでもよさそうである。
「本当は、さっさと坂木父と京都デートしたいんでしょう」
「そのとおり」
指で畳をトントンしている。
「エリちゃん。何か困ったことがあったら、この人の頭をぽこぽこ叩いてみなさい。きっと道は開けるでしょう」
「はあい、解った」
「いや、待って!?」
ガバッと、京終さんが起き上がる。襟元が乱れている。
「バンバンじゃなくて、ぽこぽこだよ。暴力はいけないからね」
美人の真顔である。迫力満点。
「やっぱり、この人、坂木さんの奥さんだよ。頭おかしいもん」
蒼い瞳である。目尻にはうっすらと涙がにじむ。髪の色は私と同じで茶色である。
「改めて、初めまして。
三つ指揃えて、頭を下げる。
「えっと、松本…」
小首を傾げる。
「はい、松本です」
簡単には、名前は明かせまい。お前、『ホリック』やら、『ゴーストハント』やら読んでいないのか。
「人を呪わば穴二つ掘れと言いますしね」
「ん? 今、時空とんだかな…?」
京終さんが石矢さんに助けを求める。
「大丈夫。彼女は、松本さんです!」
「はあ…」何かを諦めたらしい。「お茶いれてきます」
お茶を待つ間に、例のぽこぽこは育ての親代わりである長女から教わったのだと知った。ちなみに、獣医師である。うん…。まあ、それなら、うん…。
「このアトリエは、名字が京終だから京終を選んだのですか」
師匠は
「こっちの地理とか知らないよね」
頷く。
「で、京極堂の真似っこですか?」
「ああ、着物だから?」
京終さんは落語家よろしく羽織を脱いだ。何だか異様に艶かしい。石矢さんのほうを見る。同じことを思ったらしい。
「人前でそれ脱がないほうがいいよ」
「……。また言われた…」
石矢さんは、京都に向かった。
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