第4話 たこやき

「あの、大丈夫ですか。コレ。本当に通報されませんか」

 春の夕方。自分の身を案じるエリーゼその人。何でだよ。

「うん。変なコトしなければね」

 たこやきの準備をしながら答える。ちらりと二人を盗み見る。年の離れた弟は、現在、初対面のお姉さんの膝の上である。

「えっちゃん、お菓子のエリーゼ食べる? おいしいよ」

「あ、はい」

 エリーゼがエリーゼを受け取る。何だか知らないが、この家にはお菓子のエリーゼが大量に集まってきている。

逸歌いつかくん、お母さんと一緒に来たの」

「うん、そう。それで、のスーパーで、たこやきの材料買ってきたの。お母さん、じぇいならの中にスーパー出来て便利ねえって言ってた」

 そこは、激しく同意する。

「はあ、ちびっこの後頭部、可愛いですねえ。こう、猫の後ろ姿が愛くるしいのによく似て」

「……。猫!?」

 眉間にしわを寄せる。

美古都みことさん…。あの坂木さかきさんの子供ですけどね。今になって先輩の言っていた意味を猛烈に理解しましたよ。美古都さん、小学生の時に、自分よりちっちゃい子と知り合って、お父さんにこの子自分の家で育てたいって言ったら拒否されて」

「いや、それはそうだろう」

 思わずつっこむ。

「だって、美古都さんは真実貰われてきた子なんですよ」

 目が真剣である。

「ああ…」

 納得する。すぐに首を傾げる。

「いや、その子には親だか家族だかが居るでしょ」

 たこやき器に油を塗る。

「好き同士なのに一つ屋根の下で暮らせないなんて、この社会はとち狂っていると思ったそうですよ。美古都さんは」

「ああ、うん、ああ~…」

 生地を流し込む。いや、子供じゃん。無理だって。

「えっちゃん、たこ入れよう」

 しばし、たこやき作りに集中する。逸歌くんがくるくるとたこやきを回していく。

「実は、うちの地元のたこやきって繋がってるんですよね」

「えっ!?」

 つなが…。何だと!?

「お祭とか何かのイベントだけで商店が作って売ってるんですけど。ホットケーキミックスに紅しょうがが混ぜてあって。東北の人なので、たこやきをくるくるするスキルは皆無なのです。何なら客が多いと、生焼けです。そうして、我らのたこやきはちぎって食べるのです。ちなみに、紙袋に入っています」

 絶句。

みつくん、僕、それ食べたい!」

 わくわくのちびっこである。

「いや、それ、もうタコ入りベビーカステラでは!?」

 エリーゼがニヒルな笑みを返す。

「でもちゃんとたこやきとベビーカステラを買うんですよ。これが」

「うん、まあ…。関西の人、炭水化物で炭水化物食べるしなあ…」

 いいなあ、食べたいなあと弟はずっと未知のたこやきに執心していた。

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